第9話 おじさんは何でも知っていた

24歳くらいの年齢だった頃の私にとって「おじさん」とは自分の倍は生きてて、自分が生まれる前から成人だった人を指した。

つまり自分の父親の年齢プラスマイナス5歳くらいの男である。


当然世の中のいろんなところにおじさんは棲息して、アルバイト先とかで色々なおじさんとかかわったものだが、おじさんは本当に大人だと思ったものだ。


おじさんたちは仕事上のことではもちろん頼りになったし、結婚して家庭を持っていたり(持っていたことがあったり)、その他もろもろの大人として社会人として経験すべきことを全部してて若造だった私の経験したことはすべてカバーしてた勢いだったし、当然私の知らないこともたくさん知っていた。


おじさんというものは、ボンクラだけど素直な若者の味方であることが多いらしい。

まさにそんな低能な若者だった私にいろいろ教えてくれたもんだ。


おじさんは本当に何でも知っていた。

私はおじさんが好きだったし、尊敬していた。

私の中で「おじさん」という呼び名は完全無欠の大人の男の尊称だった。

私もおじさんになりたいと思ったし、ならなきゃならないと思った。


現在、私はあのおじさんたちと同じかちょっと上の年齢になっている。

でも、私はおじさんになれなかった。

若かった時から何も変えられず、何も積み上げていないし、何も得ていない。

若者に堂々と自分の話を聞かせられる大人の男になれなかった。


ただ無駄に年だけ食った49歳のボンクラだ。


あとちょっとしたらじいさんだ。

いや、おじさんにもなれなかったんだから、じいさんにもなれないだろう。

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