化粧

 あの後ダンジョン攻略は恙なく終了し、地上への帰還・怪我の治療及び報酬の分配、装備の修繕依頼等を済ませ、久々の休息日となった。

 あの時の……あんな夢を見てから、今まで以上に彼女の顔を見られなくなっていた。とはいえ、こんな事は無論彼女には言えず……。

 いけない、折角の休みなんだししっかりと休息を取り、英気を養わなければ……と思っていると、コンコンッと部屋の扉を叩く音が……


 開けると、彼女がいた……何時もの野暮ったいローブ姿ではなく、女の私が見ても扇情的な……其のはち切れんばかりの熟れた双丘の谷間を惜しげもなく見せつけ、腰のラインも、露になった太腿も艶めかしい……。


 彼女は開口一番、お姉さんとデートしましょう、と……。


 ……一瞬思考が止まる。が、私のそんな様子を気にする事もなく、ずかずかと私の部屋に上がり込み、外出用の衣服を着せられる。私の普段着のバリエーションの少なさを指摘されるが……服なんて外気を凌げれば充分、という私の意見に呆れた顔をしつつ……勿体無いわ、貴方、凄く可愛いのに……という。

 そんな事、私の生まれ育った村でも、魔力の高さを見出され通う事になった魔法学校でも、冒険者になる為出てきたこの街でも言われた事はない。他の綺麗な娘達に囲まれた私は素朴な、個性のない顔だと自覚している。増してや美神の様な彼女に言われると……御世辞だと判っていてもついつい、嫌味にしか聞こえないよ、と自分を卑下してしまう。

 彼女ははぁ~、と呆れ顔をし、私の手を引っ張り、強引に椅子に座らせた。顔を塗れた布で拭かれ、彼女の持つ鞄から出した何らかの液体を付けられる。まだ若いのだから化粧は必要ないかもだけど、せめて毎日洗顔と保湿は欠かさない様にしなさいと、くどくど言われる……そんな物必要とは思えないけど。

 二十分程経って、奴隷の手持ちにしては豪勢な鏡を見せられる……私なんかが化粧したって……


 ……えっ?


 ほら、最低限の化粧だけど、見違えたでしょう?


 無論彼女の美しさには敵わない……だが、いや……こっ、これ、本当に私?

 魔法研究の寝不足の為に隈があった目元も、鼻に出来ていた雀斑も綺麗に隠され、引かれた薄桃色の口紅もキラキラとして……。

引き続き彼女は髪の毛にも取り掛かる。どうせ帽子を被るからと伸ばしっぱなしでボサボサだった癖毛は、これまた彼女の鞄から取り出した液剤で……見違える程綺麗なストレートになった……

 エルフの秘薬よ、一時的なものだけどね、と言うが……曇りの日でも爆発する私の髪の毛、いっそ短くしようか、と思ってた位だし、少々お高くても譲って欲しい位だ。


 そのまま彼女に引っ張られる様に街へ繰り出す。何時もは目立たないよう道の端に寄って歩いていたけど、同じ道を堂々と歩くだけでこんなにも世界が変わるのか……。

 町の人の騒めきが聞こえる……大多数は彼女を賛美する声だが……隣の子も可愛い、とか時々聞こえ……恥ずかしくてつい彼女に抱き付く様にぎゅっと手を握る。

 其の侭入った事もない、女の子専門の被服屋に入る……其処で小一時間着せ替え人形にされ……最終的には今迄買った事がない可愛い服を着せられた……スカートの丈も長く、まるで……お姫様になったみたい……。

 お金は私が出すと言ったが奴隷でもこの程度は買えるのよと固辞され、結局は押し切られた。私が服をプレゼントされる日が来るなんて……。


 彼女は素敵よ、といい、ナチュラルに頬にキスをしてくる……ま、まぁ……もぅ三回も…… 一回は夢だったみたいだけど、されてるんだし……ほっぺ位なら……。

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