第38話 戯神の"おしり"との離別……って、おぃ!!!!!

 次元のはざまを抜け、足を踏み入れたのは、一面真っ白な神々の領域だ。

 視界いっぱいに広がる無垢な白さは、始まりと終わりの境界をぼやけさせ、時間さえも凍りつかせるような静謐を漂わせている。

 周囲には白い建物がまるで絵画の一部のように景色に溶け込んで点在している。

 その建物たちは輝くような白い光に包まれていて、見る者の目を引くと同時に、この世界の純粋さと強さを象徴しているかのようだった。

 

 これが、長い旅の末にようやくたどり着いた神の世界……ここまで苦労して辿り着いたアナトの思いは、圧倒的な存在感を放つこの場所の前で、畏敬の念に変わっていった。白い光は優しく、しかし断固としてここが神聖なる領域であることを告げている。


「ここが神の世界……(ごくり)」


 

 

 ……。


 みたいなのを想像していたのに、なんだよ、ここは!?


「アナト、どうしたの?そんな間抜け面を神の世界で晒してるのはキミくらいだと思うよ?(笑)」

 ミルティアが呆然としている俺を見て笑っている。

 

「うるせ~よ!もっとこう、あるだろ?長く苦しい旅の末にようやくたどり着いた神様の世界だぞ?もっと荘厳に、もっと神聖なものを想像するだろうが!なのにここはただの空き地。どんなによく見てもただの牧場じゃね~か!!」

「勝手なイメージを押し付けるのは良くないよ?みんなここが気に入っていて、のんびりすごしてるんだから」

 チッチッチと指を振るミルティア。

 

 返せ~俺のイメージを返せ~!

 ここは神様じゃなくて牛とか羊が寝てそうな場所だぞ?


 そう、目の前に広がるのはだだっ広い草原。ところどころに丘や建物が散見される、広い草原だったんだ。


 

「ほら、戯神のところに行くんだろ?」

「あっ、あぁ。一言ビシッと言ってやらなくては」

「何をだよ」

「決まってんだろ!?」

「あぁ、わかった。"おしり"から俺を助けてって言わないとだもんね~ぷぅ~くすくす」

「てめぇ~~~~」

「こっこま~でお~いで~」

 逃げていくミルティアと追いかける俺の鬼ごっこ……神様の世界で何させるんだよ!

 本体っていうからちょっと緊張してたのに、化身とまったく同じ行動じゃね~か!バカミルティア!


「ほら、ここだよ、アナト!ここが戯神の居場所だ」

 ミルティアが立ち止まったのは白い角ばった建物の前だった。見える建物は全部そうだけど。


 ようやく会えるのか……。

 ようやく終わるのか……。

 なんか緊張してきたぞ。

 戯神様って怖い神様じゃないよね……?


「戯神~きたよ~~」

 軽く声をかけて我が物顔で入っていくミルティアを追いかけて俺も入る。

 

「しっ、失礼します……」

 建物の中は外観と同じく真っ白な空間。ここだけは俺のイメージに合ってるよ。

 

「アナト、なんでそんなに畏まってるの?」

「うるせぇよ。仮にも神様の前に出るのにいきなりふざけられないだろ!」

「アナト……」

 なんだよそのジト目は。ずっと一緒に旅してきたお前とは違うだろ?



「どなた……でしょうか……」

 そんな俺たちに鈴の音のような清らかなお声が降ってくる……。

 なんだこれやばいぞ。

 片言なのに魅力が半端ないというか……。


「遊神……ですね。それと……」

 その声音は優雅に空気を揺らし、俺の魂を心地よく震わせる……。


 あまりに綺麗な美声の余韻に浸っていると、2柱の神様から怪訝な視線を向けられていることに気付いて我に返る。


「失礼しました、戯神様。アナトと申します。遊神様に導いていただきました。突然の訪問をお許しください」

 隣で唖然としているミルティアを全力でスルーして戯神様だけを向いて挨拶した。


「まぁ……ようこそ……そして……ごめんなさい」

 そしてその柔らかな相貌で俺の姿を捉えると同時にご自身の背後……具体的にはその美しいお背中の少し下のあたりを気にされながら奥に戻られてしまった。


 すると突然俺の体がぐわりと揺れた。


「アナト!」

 ミルティアが嬉しそうに俺の顔を見る。

 

「あぁ、今っ」

 間違いない、この感覚。

 

「支援を解くからね!」

「あぁ、やった!重さがなくなった!!!」

 もう戻らないのではとも思えたその重さ、締め付けられるような苦しさがなくなっていた!

 

 普段はミルティアの支援のおかげで問題なかったが、こいつが寝ぼけたときに支援が外れて覚醒させられる辛さがもう2度とやってこないと思うと嬉しくてたまらない。

 良い夢を見てたのにすべて何かに潰されて消えていくところから覚醒するんだ……。

 

 

「すみません……アナトさん……その……」

 戻ってきた戯神様の姿はまさに美の女神と褒めたたえたい素晴らしさ……。


「いえ、外してくださってありがとうございます。その……うごぉっ!」

 目の前にあるのは、微かな申し訳なさを湛えた美しい女神様の顔。

 そしてお礼を言いながら、つい、そこにある女神のお尻へと視線を滑らせてしまった。

 神々しい光を纏った完璧な曲線。

 これまで困難な状況に陥ってしまったが、今はただその形の美しさに心から感嘆する。

 ……とか考えていたらぶん殴られた。

 

 

「あっ、すみません、つい」

 いかんいかん。戯神様のあまりの美しさに我を忘れそうになるな……。

 気を取り直してもう一度お礼を言おうと思って、俺が一歩前に踏み出して戯神様に近づこうとした、まさにその時……


 

 パラパパパ〜ン!チャララ〜ンッ♪


 

 へんな音楽が聞こえてきた。


「なんだ!?」


「さぁ、いかがでしたでしょうか?今回の物語は!しがない冒険者の魔法剣士アナトが、理不尽な"おしり"に締め付けられ、そこから逃れるために大陸中を旅し、最後は神界までやって来た今回の物語!お楽しみいただけましたでしょうか!!!」

「はぁ?」

 とつぜんのミルティアの言葉に驚く俺を尻目に、戯神様のお部屋の中空に文字が浮かび上がって流れていく。


 

 ~~エンドロール~~


 出演


   可愛い旅のお供   遊神(の化身)

 

   試練の提供者    戯神

 

   最初の敵      大モグラ


   身の程を知らせる役 神獣


   試練かつ協力者   古代の神獣


   エキストラ     神殿のみなさん


   予想外のスリル1  ネクロクラウド

   

   予想外のスリル2  次元竜


   語り        遊神

 

 

 

   楽しい主人公    アナト


 

 

 演出          遊神、戯神

 

 企画          冥神


 音楽          楽神


 テロップ        技神


 技術提供        火神


 アシスタント      闘神、虫神、画神


 監督          冥神

 


 楽しい旅を楽しんでいただけましたでしょうか?



 

 またの機会をお楽しみに!


 ~~



「なんだよこれ!」


 美しい戯神が、ほんのり赤らんだ頬を手で隠している。

 

 指の隙間から漏れる彼女の目は、まるで夜空にきらめく星のように輝き、何かを堪える小さな震えが、俺にも伝わってくるようだった。

 いや、どう見ても笑いをこらえてるだけだろ!!!!


 というか突然すぎてよく見えなかったけど冥神とか火神って書いてなかったか?1級神がなにやってんの!!!!!


「いや~、素晴らしい作品になったね」

「そう……お疲れさま……遊神」

「どういうことだよ!?」


 戯神様が俺の耳元で囁く。

 いや実はこれはカクカクシカジカで……。

 くっ、戯神様、近い近い。ドキドキドキドキ……。


 って、

 

「神様向けの娯楽の旅ドキュメンタリーってなんだよぉおおぉぉおおおおお!!!!!!!!!!!!」


 

 ~~めでたしめでたし~~



「めでたくねーよ、バカミルティア~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!」


 次元のはざまに木霊す哀れな人間の叫び声。

 


「アナトは無事、体の不調を治してもらい、報酬を貰いました。凄まじい切れ味の剣、高性能な盾、風のように軽い魔法防御付きの旅装束、今回使用した魔道具・次元の鍵、そしていくらかのお金を貰って、帰路につきます」

「まだ続いてんのかよ!?」

 ミルティアがまだ何かどこかに向いて喋ってる。

 

 なんかムカついた。ふざけんなよこのヤロウ!

「そもそもどこが旅だったんだよぉ。あっちこっち行ったけど道中なんもしてねぇじゃねぇか!」


「あっ、アナト、シーー」

 口元に指を持ってきて何かを諭すように言ってくるミルティアがまたムカつく。

 

「シーじゃねぇんだよ。しょんべんかよ!」


「アナト、品がない」


「うるせぇよ。どっか行って事件、どっか行って襲われる、どっか行って迷う。そんなんばっかだったろ?どこが旅なんだよ」


「おしま~い。おしまいで~す」


「ふざけんな~~~~!!!!!!!!!!!!」

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