第32話 報酬を巡る争い(笑)

「よく来たね」

 ギルドに入ると、待っていたと思われるギルド長のお婆さんに迎えられた。

 後ろに見える物資の山はなんだろうか?


「いえいえ、お待たせしましたか?」

 なんだ?やけに丁寧だなって?年配の女性を気遣うのは当然だろ!?


「あ~、いや、ここで報告を受けたり、指示を出すために陣取っているのさ」

「なるほど。お疲れ様です」

 まわりにいるギルド職員や冒険者の方を眺め見るギルド長。

 それは大変だがギルド長の仕事だな。

 周囲の職員や冒険者がきびきび動いているのを見ると、この人は優秀なんだろう。


 

「ほんとうに。フロストウッドガーディアンを刺激したバカは奴隷堕ち決定だが、私が八つ裂きにしたいくらいだよ!」

 周囲の職員や冒険者が一瞬ドキッとしたように思うが、この人は怖い人なんだろう。


「ではまず改めて。フロストウッドガーディアンを倒してくれてありがとう。おかげでこの街にもビュラスの街にも直接的な被害はなかったし、街道などで壊れた部分はあるが、ギルド職員は全員無事さ。冒険者もバカをやった者以外に損害はなかった。全てお前のおかげだ。感謝するよ」

 お婆さんは背筋をピンと伸ばして俺に礼を言い、頭を下げた。

 

「あっ、あぁ。どういたしまして」

 そんなに褒められると照れるな……。

 

「なんで照れてるのさ。胸をはっておけばいいじゃないか」

 なぜそこでお前が後ろから突っ込んでくるんだよ。

 

「バカ!黙ってろ!」

「むぅ……」

 お前は俺の保護者か何かか?いや、支援してもらってるのは確かだけれども。



「これは少ないとは思うが謝礼だよ。あと、調査に入ったギルド職員が回収した宝箱の中身がこれだな」

 そう言って後ろの山を示すギルド長……えっ?多くない?


「謝礼はありがたくいただきますが、宝箱は貰っていいのですか?」

「もちろんだとも。フロストウッドガーディアンが出現すると多くの宝箱がダンジョンに出てくるんだよ。ただ、開けるとフロストウッドガーディアンの怒りをかうから、通常は放置なんだけどね。今回はフロストウッドガーディアンを倒しているから全て開けたんだ。昔からフロストウッドガーディアンを倒した者への報酬と言われておるから、全ておまえのものだ。気にせず持っていけ」

 ギルド長は俺の手を取って説明してくれた上、アイテムの山の方に俺を押す。

 

 改めて見てもとんでもない量のアイテムたち。

 なにがなにやら???


「(これ貰っていいの?)」

「(いいでしょ。キミが倒したんだからさ)」

「(なんか実感がなくてな。もともと持ってたスキルではあるんだけど)」

「(キミは使えないことに腐らず頑張ってきた結果、幸運もあったということで気にしなくていいと思うよ)」

 気が引ける俺はミルティアに小声で聞くが、気にせず貰えと言われてしまう。


「どうかしたか?」

 こそこそ話をする俺とミルティアを怪訝に思ったらしく、ギルド長が聞いてくる。

 これは仕方ない……。

 

「え~と、単刀直入に言うと、こんなに貰うのは気が引けます」

「「えぇっ?」」

 ギルド長はわかるけど、なんでミルティアまでびっくりしてんだよ。

 

「しょうがないだろ?あまりにもあっさり倒しちゃったから実感わかないんだよ」

「いやいやいや。そもそもキミが自分で覚えたスキルで倒したんだよ?封印されていた理由は分からないし、解放したのはボクたちだったとしてもそもそもスキルを覚えるのにはかなりの努力をしたはずだ。長いこと使いこなせなかったとしても、その状況も含めてかなりの努力をしたはずだよね!」

 ミルティアは俺の方に身を乗り出して主張してくる。

 唾飛ぶからやめてほしい。

 

「なのでこのアイテム群はこのギルドで使ってください。俺は謝礼だけ頂いていきます」

 迫ってくるミルティアを手で押さえながら完全スルーして、俺はギルド長にアイテム群の受け取り辞退を伝えた。

 うん、それがいいな。完璧だ。


「いやいやいやいやいや。ちょっとお待ちよ」

 よりこれで終わり。うん。

 そそくさと歩いてギルドの入口へ向かう俺。


「ちょっと、ちょっと待て!ではせめて買取を!おいブランジュ、買い取りだよ!なんだって?いま金がない?いいからあるだけもっといで!」

「いやぁ、いいですからいいですから、それじゃあ俺はこれで」

 なんでそんなに押し付けてくるんだよ!

 押し付けるならもっと違うものが……いや、お婆さんのじゃないよ?いてぇっ!


「アホな顔してるアナトはとりあえず殴るべきだよね」

「なんでだよ!」

 手で押さえていたミルティアが抜け出して叩いてくる。

 こいつ~。


 ギィ~

 

「待たれよ!」

「ん?」

 俺が逃げ……じゃなかった、ギルドの外へ出ようとしていると、扉が開き、お爺さんが入ってきた。


「あぁ、子爵様。いいところに来たよ。そいつがフロストウッドガーディアンを倒した男なんだが、宝箱の中身を受け取らずに出て行こうってんだよ」

「なんだと?」

 子爵様だって。貴族は苦手なんだがな……逃げれない。


 

「あなたがフロストウッドガーディアンを。このテルミナリア子爵領の主として感謝いたしますぞ」

「あっ、あぁ。どういたしまして」

 丁寧な礼をされたので、俺も返してしまう。

 豚貴族とはえらい違いだな。

 

「そして、宝箱の中身は受け取ればよいのではないか?」

 そして今までのやり取りを見ていたかのように再度俺にアイテムを勧めてくる。

 

「いや、謝礼はすでに頂いておりますし」

「見事じゃ!」

「え?」

 なんかお爺さんにめっちゃ肩を叩かれた。痛い……。

 

「街にもギルドにも損害がなかったのは嬉しいことじゃが、街道は壊され、備蓄倉庫なども倒れておる。修繕が必要じゃ。そのために使ってよいと、そう言うことじゃな?」

 なんとこのお爺さん、目に光るものを貯めながら俺に状況を教えてくれた。

 チャンスだ!!!


「えぇ、もちろんです。もともと目的があって来たわけではありませんし、強制依頼に従ったまでの事です。ですので、謝礼だけで充分です」

「これ、本当にアナトかな?まさか今朝の電撃で頭おかしくなっちゃったのかな?どうしよう」

 うるさいミルティア。なにを首をかしげてるんだよ!


「このラーウッド・テルミナリア、感動しましたぞ!」

 おいおい、ついに泣き出しちゃったぞお爺さん。

 というかお供の人とかいないのかな?


「感謝いたします。あれだけのアイテムがあれば、売れば修繕などにも十分足りるでしょう!」

 手を握られてぶんぶんふられた。

 

 アイテムの山は凄いと思ったが、やっぱりそんなにあったのか。

 なら、なおさら使ってくれ。

 俺が貰うのは気が引けるから。


「あの~子爵様」

「ん?なんじゃ?」

 なんだよ、ミルティア、神妙にして。

 余計なこと言うなよ?


「ボクはミルティア。このアナトと一緒に旅をしているんだけど、1つだけお願いがあるんです」

「ほう、なんじゃ?ワシができることじゃろうか?」

 貴族のお爺さんの方を見上げながら話すミルティア……お前、敬語なんか使えたのか?


「オルハレストの大神殿に入る許可証を貰えないかなと思いまして」

「許可証?」

「あぁ、アナトにはまだ言ってなかったね。オルハレストの大神殿に入るためには許可証が必要なんだ。シディロムさんに頼るのはもしかしたら申し訳ない可能性があるので、できれば……」

 シディロムさんは神官と言っていたが頼るとまずいのか?


 なんかミルティアに睨まれてる。

 これは余計なことを言うなってことだな。

 

 わかった。お口チャックだな。


「ほう、高名な魔道具師であるシディロム殿と面識があるのか?それなら彼の方に頼んでも良いと思うが、わけありかのぅ?」

「実はシディロムさんに魔道具を作ってもらう約束をしてるんです。なので、それで許可証までお願いするのが気が引けまして」

 え?それだけ?普通の理由すぎて裏を疑いたいが、なにも思い当たらない。



「そうであったか。ではワシが発行させてもらおう。2人分でよいか?」

「ありがとうございます」

 貴族のお爺さんは胸をポンと叩いて受けてくれた。


 

 

 そして、俺達は2枚の許可証を貰った!!!

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