第25話 強制依頼

 温泉街テルミナリアを訪れた俺達2人。

 

「観光地ならもっと人が多いのかなと思ってたんだけど?」

 もっと賑やかな場所を想像していたんだが、静かな街の雰囲気に俺は首をかしげる。


「ここは観光地であると同時に巡礼の疲れをいやす場でもあるからね。この温泉街は聖者の泉とも呼ばれていて、高位の神官も来るから町並みや通路は神殿風だし、騒ぐのはみんな遠慮してると思うよ?」

 さすが旅大好きな遊神とあって、ミルティアがしたり顔で説明してくれる。

 なるほど。まぁ他の奴はどうでもいい。


 大切なのはアレだ。

 

 

「娼館は……?」


「あるわけないだろーーーーー!!!!」

 えぇ~~~!?なんでだよ。どうすんだよ夜の帝王が暴れるんだよ!?

 

「こんな美少女女神様と一緒に旅してるのに、なにしようとしてるんだよ!!!!」

 痛いから胸のあたりをポカポカ叩くな。

 

「なにって……ナニだよ」

「うるさいよアホアナト!」

 アッパーカットはやめてくれ……。

 

「いてぇ。殴ることないだろう!」

「もう!もう!もう!」

 地面に崩れ落ちた俺の頭を叩き続けるミルティア……。

 


 少し時間が経ってもまだぷんすかしてるミルティアに連れられた俺は、少し凹みながらつるりとした白い石で覆われた街並みを歩く。

 ここにはたくさん温泉宿があるらしい。

 どれもこれも堅苦しい角ばった建物だから、俺なんかだと、神殿を歩いているみたいで落ち着かないんだけどな。

 柔らかさが欲しい……。


 とりあえずまずは街の冒険者ギルドに入る俺達。

 この街には完全に旅行気分でやってきたが、素材集めの旅の真っ最中なので念のためギルドで何かないか探すつもりだった。


 が、当然ながら何もない。


 そもそも『求む!ドラゴン討伐!!報酬は"境界の羅針盤"だ!!』みたいな依頼があるわけがない。


 困った。


 しかも、今は冬。

 この時期はこの温泉街テルミナリアの近くにあるビュラスの森林ダンジョンというところでフロストウッドガーディアンという超強いモンスターが出現するらしい。

 まぁ大人しいモンスターらしく、直接攻撃したり、森林ダンジョンの中で火魔法を連発したりしなければ大人しいモンスターで襲ってきたりはしないらしい。

 森の守り神様みたいな感じなんだろうな。


 そんなのに手を出すなんてバカだ。

 


 ただ、この付近にはこれしかダンジョンがないから、冒険者自体が少なくなっているらしく、簡単な依頼がたくさん残っている。


 例えば『求む!"ルストマッシュルーム"。10個以上で割増支払いあり!』とかだ。

 そろそろ性欲から離れたい。ルストマッシュルームは性欲剤の原料で、別名"エロキノコ"だから……。


 

「あんまり面白そうな依頼はないね~」

 掲示されている依頼を眺めながら呟いているが、面白さで依頼を選ぶつもりはないぞバカミルティア。


「さっき聞いたフロストウッドガーディアンってやつのせいで色々滞ってるみたいだな」

 まわりで宝箱を開けたり、モンスターを倒したら守り神のような魔物が襲ってくるかもしれないと言われたら誰も行きたくないだろう。

 

「毎年のことだからみんな準備はしてると思うんだけどね」

「大量に備蓄されたエロキノコ……」

 ぶんぶんぶんぶん!!!!


「うわっ、どうしたの?アナト!?」

 突然頭を振り出した俺を心配したミルティアが覗き込んでくる。

 やめろ。今そんなことをされたらお前でも可愛く見えるだろ!!!?


「カーム!」

 俺のおかしな様子にミルティアが冷静にする魔法を唱えてくる。

 

「あっ……」

「落ち着いたかい?アナト!?どうしたの?」

 雑念という名の幸せが去っていく……いや、去ってくれていいんだが。

 どうしてあんな妄想ってある意味楽しいんだろうか……。


「すまん」

「いいよ。大丈夫?疲れてるのかな?やっぱり温泉行こっか」

 嬉しそうに言うな。まぁ、こいつはこういう観光は大好きだろうしな。


 俺も温泉に行くことを心に決めたそのとき……



「たいへんだ!!!!」


 慌てた冒険者がギルドの扉を勢いよく開けて入ってきた。


「ガッシュか!どうしたんだい?」

 

 ギルドのカウンターにいたお婆さん……きっとギルド職員だな……がその冒険者に尋ねる。


「フロストウッドガーディアンが!……はぁはぁ……フロストウッドガーディアンが外に出て来てる!!!」


「なんだって!?!?!?」


 ガッシュという冒険者が肩で息をしながら放った言葉にこの場にいる皆が驚く。

 それまで騒がしかった空間が一瞬で静かになった。



「どこのバカだい。フロストウッドガーディアンを刺激したのは?」

 怒り出すお婆さん。そりゃそうだろう。

 よっぽどバカなやつが刺激しないとそもそも攻撃すらしてこない穏やかな魔物らしいのに。




「それで。焦ってここに来たということはこっちに向かってんのかい?」

 お婆さんが質問を始める……


「あぁ、そうだ、ギルド長!遠目でしか見てないけど間違いなくこっちに向かってる!!」

「「「「「!?!?!?!?!?!?」」」」」

 が、衝撃的な回答に、またもや全員が驚いて止まる。

 このお婆さんがギルド長なのか。




「全員強制依頼だよ!ギルドカードを持ってるやつは街の防衛だ!急げ!!!」

 なっ。強制依頼かよ。


 これが発動されるとギルドに登録している冒険者は可能な限り従わなければならない。

 逃れられるのはケガで動けない場合とかだけだ。

 仕方ないか……。



 って、ないわ!

 運が悪いよ~。

 助けてミルティア~~~~。


 よろよろと地面にへたり込んで悲劇の主人公ポーズをとりながらミルティアを見ると、明らかに呆れた表情でこっちを見ていた。

 やめろよ、恥ずかしいだろ?


「なにやってるんだよアナト?さすがに恥ずかしいよ!?」

 俺をまじまじと見て言うなよ。わかってるよバカミルティア。なんとなくだよ!


「さぁアナト、頑張って!なんとかしよう」

「なんでだよ!」

 無理だろ!どうすんだよ!?


「だってさ!フロストウッドガーディアンだよ?ダンジョンの中で大人しくしてるのを無理やり倒すのは気が引けるけど、せっかく外に出て来てるんだよ?」

「倒してなんか良いことがあるのか?」

「あるよ!フロストウッドガーディアンを倒すと宝箱が出るんだけどね!その中には倒したものが望むものが入ってるんだ……あっ、いや、そう言われてるんだ!」

 自信満々に言い切っただろ?もう誤魔化さなくていいよ。お前がそう作ったんだろ?



 でも……

 

「俺にフロストウッドガーディアンとやらをどうにかする力があるわけないだろ!?」

 なにを言ってるんだこいつは。今までの旅を見てこなかったのか?

 せいぜい剣が振れて支援魔法と回復魔法が使えて、いくつか魔法剣が使えるくらいだぞ?


 人間の何倍もの大きさがあるフロストウッドガーディアンなんて、そもそも攻撃が届かねぇよ!


「あるじゃないか!たぶん行けるから頑張りなよ!」

 拳を振り上げるミルティア。

 なんでそんなに自信あるんだよ?

 なにがあるんだよ。まさかあれか?


「さすがにまた神獣様を召喚するわけにはいかないだろ?こんなに目が多い中じゃ」

「当たり前だよ!」

 じゃあどうすんだよ。

 あとはスキル・夜の帝王くらいだぞ?


「ふっふっふ。こんな時に頼れるのはボク、美少女女神のミルティアちゃんしかいないよね~。うんうん、わかってるよアナト」

 背筋を正してバカなことを言いだしたぞ……。

 

「頭おかしくなったのか?そうか……遊神、ついに発狂する。この世界にダンジョンをもたらした功績をきっと誰もが忘れない。チ~ン」

「うるさいよアホアナト!」

「いてっ」

 なんだよ叩くなよ!


「これだよこれ!ついにゲットした赤い本を使う時が来たね!」

「おぉ!?」


 そして投げつけられる赤い本。

 大丈夫か?ギルドの隅っことはいえ、小っちゃい女の子に分厚い本を叩きつけられる青年の姿はまずくないか……?

 しかも3冊かよ。


 《おめでとうございます。あなたのスキル・バーニングスラッシュが解放されました》

 《おめでとうございます。あなたのスキル・エターナルブレイクが解放されました》

 《おめでとうございます。あなたのスキル・ヴァルキリープロテクトが解放されました》


「は?」

 なんじゃそりゃ!?!?


「うんうん。良いスキルでしょ?これならきっと楽勝だね!」

 長年の夢、エターナルブレイクがついに俺の手に!!!!


 どんな効果なのか知らないけどな……。

 最初のやつが火の魔法剣系の強そうなスキルなのはなんとなくわかるが、あとの2つはなんだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る