一片の雪
@abclovers0104
第1章 「出会いは何かのきっかけで始まる」
第1話 「ドジな出会い」
~現在~
「またこの季節になったのか...」
陸はゆっくりと目を閉じた。
出会った頃の彼女のドジさ...それでいて明るいあの笑顔。
初めてのデートですごくはしゃいでいた君を、付き合ってからこなしたたくさんのイベントを、そして最後に訪れたあの場所での君の涙を。
それらが彼の記憶を辿り始めた。
~5年前~
おれは春から大学生となった。
高校時代ではこれと言って何も取り柄がなかった彼は普段から見栄を張ることで自分が大人な男になれてると実感していた。
それもあってか周囲からは変人扱いをされていた。もちろん数名だけど友達はちゃんといる。
高校では全然モテなかったし告白してもすぐに玉砕されることから本当は彼女が欲しいと思っていてもそれを見せる自分がダサいと感じていた。
そんな中受験はなんとか六大学の1つに進学をすることができ、この春からついに大学での夢のキャンパスライフに密かに期待を寄せていた。
ーーーーー
「なぁなぁ、実は美人な先輩からサークルの新歓に参加しないかって誘われちゃったんだよね笑」
そう言ってくるのは高校時代からの友人の透だ。
イケメン、高身長、親が金持ちとか言ういかにもムカつくようなやつ...って言いたいんだけど性格はほんとにいい。
高校でできた最初の友達、勉強やスポーツも得意。そのくせノリも良く学校でもちろん男女問わず人気者だ。
強いて言うならおれが好きになった人がみんなとことん透を好きだったってくらいに...
透は多分参加するんだろうけど聞いてみることに。
「へぇー、そしたらその新歓参加するの?」
(はいはいまた自慢かよ)
「そりゃ参加するだろ!せっかく美人の誘いを断るやつがいるかー?」
そういう透はとびきり目を輝かせていた。
そりゃ男なら美人に誘われたら本能的に動いてしまう、わかる、わかるぞ。
おれだって乗っかりたいわ。
「そんじゃ一緒に行こうぜ、決まりだな!」
行くとは一言も言っていないにも関わらず2名参加の旨を美人の先輩に改めて伝えに行った。
相変わらず行動力の速さに驚かされる。
まぁ実際透には借りがある。
あれは高校入って間もない頃...
おれはまだ自分の居場所を見つけられずにいた。何もかもが新鮮で、まるで別世界のように感じていた。
クラスメイトの中にはすぐに友達を作ったり、部活動に打ち込んだりする者もいたが、おれはどこにも所属せず、少々孤立していた。
その時、透と出会った。
彼は、自然体で人を引きつけるカリスマ性を持っていた。透は陸が孤立していることを見つけて、すぐに友情の手を差し伸べてくれた。
「何もやってないなら、一緒にバスケやらないか?」
それがおれらの友情の始まりだった。
透のおかげで、陸はクラスメイトとの交流も増え、高校生活が楽しくなった。
その恩は、未だに陸の心に深く刻まれている。
だから、透が新歓に参加しようと誘ってくれた時、おれは迷うことなく承諾した。これが大学での新しいスタートになるはずだ。そして何より、おれが感じていたのは期待感よりも、美人の先輩との出会いに胸を高鳴らせる興奮だった。
それから数日後、おれと透は大学のサークル新歓に参加した。
もちろん先日勧誘をしていた美人の先輩をはじめ、新歓にはおれら含め多くの新入生が参加していた。
「おおー!結構参加してるな!やっぱりこのサークルは人気なんだな!」
透はやっぱり喜んでいた。こういうイベント好きだもんな。
「まぁそりゃ人気なら多くの新入生も興味本意で参加したりするよな」
おれはそう答えた。
「そして新歓で、たくさんの友達や彼女になるような人と出会い、幸せなキャンパスライフを送れる日々を過ごしたいよな!」
おれにむけてまるで押し付けるか如く希望の眼差しで透は言ってくる。
まぁ確かにそれはそうなんだけどさ。
「まぁ高校で友達少なかった分、大学ではいっぱい遊びに行きたいかんなー」
そう透と会話した中で4年生サークル代表の翼さんから乾杯の挨拶がされた。
みんないろんな人に話しかけたりしてる。もちろん透もさっそく参加者や先輩に気さくに話に行った。
おれはと言うと、やっぱり初対面の人に何話せばいいのか分からないから静かにその場で飲み物を飲む。
(ああー...暇だ。透はさっそく打ち解けちゃってるし。誰にも話かけられねぇなら適当なタイミングで帰ろ)
そう思って出されているつまみを取ろうとした瞬間...
おれの前の席の人と腕がぶつかってしまった。
運悪く飲み物を持っていたからぶつかった衝撃で軽く溢れておれのシャツの袖にかかってしまった。
(おいおい、いくらぶつかったってさすがにシャツの袖にかけるかよ。マジで最悪なんだけど)
「ごめんなさい!大丈夫ですか?待ってください!今タオル渡しますので...」
そう慌てて言う中タオルを出そうとした合間に隣の人の飲み物までこぼしていた。
(え、なにこの人。どんだけドジなんだよ)
「ちょっと未紗さん何してんの全く~」
~現在~
おれはふと目を開け、窓ガラスに映る景色を見つめた。
たばこの煙と共に青空と雲を見つめ思い出していた。
そういえばあいつは出会ったころからそのまんまだったよな。
拗らせていた自分の感情や性格を変えるきっかけになったあいつとの出会いはおれの人生で絶対に忘れちゃならない。
ーーーーーー
「ごめんなさい!大丈夫ですか?待ってください!今タオル渡しますので...」
ーーーーーー
ドジでそのくせおせっかいなあいつがいたから今のおれがいる。
たばこの煙を吸い吐いて...
「今でも好きだよ、未紗...」
その言葉は煙と共にぼんやりと消えた。
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