やり直し王女、夫の生殺与奪の権利を握る 2

 何故こんな事態になっているのだろうかと考えても、はっきりしたことはわからなかった。


 ただ、いくつか仮説を立てたときに、魔術師だった母の存在を思い出した。

 貴族でありながら魔術の才に長けていた母は、父と結婚するまではモルディア国では他に並ぶものはいないと言わしめるほどの大魔術師だった。

 そんな母は、ヴィオレーヌを生んですぐに命を落としたが、父によると、死ぬ前にヴィオレーヌに向かって自分ができる最大の加護を与えていたらしい。


 命の灯が尽きる直前に、己の魔力を全部使った加護をヴィオレーヌに与えて、母はそのまま息を引き取ったと聞いたことがあった。


 その加護がいったい何だったのかはついぞわからなかったのだが、もしかしたら、今のこの自分の状況がそれかもしれないと思い至った。

 そうでなければ、死んで過去に戻るなんてありえないだろう。


(でもお母様、戻ったところで、この先、また同じことが起こるのよ)


 そのたびにまた巻き戻るのだろうか。

 さすがにそれは勘弁だと、ベビーベッドの上で「あぅあぅ」言いながら考えていたヴィオレーヌは、そこでハッとした。


 このままでは十八年後にヴィオレーヌは殺される。

 けれども、まだ十八年あるのだ。

 殺されないように力をつけることだって可能ではなかろうか。


 十八年かけて死に物狂いで力を身に着け、あの日、死なずに生き延びる。

 そうすればヴィオレーヌの死後に再び起こったかもしれない戦争だって回避できるだろう。


 一番いいのはマグドネル国が起こす戦を回避することだが、さすがにそれは無理な気がした。自国のことならまだしも、相手は他国だ。

 同盟国とはいえ小国であるモルディア国の発言にマグドネル国が耳を貸すとは思えなかったし、戦争に負けるからなどと言えば、逆にこちらに敵意や翻意ありと取られる可能性だってある。

ならばヴィオレーヌができることは、戦の回避ではなく、戦場で自国の兵士たちが死なないように守る力を身に着けることだ。


 攻撃も守りも、とにかく得られる力はすべて手に入れて、十八年後に備える。

 それしか、自分や家族、そして国民たちを守る方法はないのだ――




 力をつけると言っても赤子の間は何もできないので、ヴィオレーヌは自分自身の力について考えてみることにした。

 父は魔術の才能はからっきしだが、母が大魔術師だったのだ。ヴィオレーヌにも魔術が使えるかもしれない。


(魔術師は魔力がないと無理だって聞いたけど……、魔力ってなんなのかしら?)


 魔力というのは正直よくわからない。

 その正体が何なのかは、いまだに解明されていないからだ。

 ただ、人の中には稀に魔力を持って生まれるものがいて、それらがその力を制御する術を学んで魔術師になる。


 ベビーベッドの上で手足をばたばたさせながら考える。

 母が生きていたら魔術についていろいろ聞けたのに、それができないなら仕方がない。


 予定では父はこの二年後に後妻を娶るけれど、義母は魔術師ではなかったので、情報を得るのは不可能だ。

 そして困ったことに、記憶通りだと、父は母がヴィオレーヌを生んで死んだのは、魔術師だったからだと思っている。


 力の強い魔術師は、子を生む際に体に負荷がかかるのだとか、どこで仕入れてきた情報なのかは知らないが、父はそう信じていて、娘に母と同じ魔術師の道を歩ませようとはしなかった。

 魔術に興味を持たないように、ヴィオレーヌの周りからは徹底して魔術師が排されていたのだ。

 ということは、この国にいる他の魔術師に魔術について教えてもらうことは不可能である。


(お父様の認識を変える必要もあるけど、まずはわたしに魔術が使えるのかどうかを試してみないことにはどうしようもないわね)


 ヴィオレーヌに魔術の才能があるとわかれば、父も魔術師に近づくことを禁止したりはしないだろう。

 独学で魔術を学ぶのは危険だからだ。

 そうと決まれば、まず、ヴィオレーヌの体に魔力があるかどうかを探らなくては。


「ぅー」


 どうせ赤子の間はすることがないのだ。自分自身と向き合うにはちょうどいい。


 そしてヴィオレーヌは来る日も来る日も、「あぅあぅ」唸りながら自分の中に魔力があるのかどうかを探る日々を送るようになって――乳母たちからは、どういうわけか全然泣かない赤子として不思議がられるようになったのだった。




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