俺の愛する嫁が元悪役令嬢だって誰が信じるかよ

猫崎ルナ

始まりの森

第1話 森で訳ありそうな女を拾う




「わ、わわ、私は、お、お、美味しくありませんっですわ!」


今、俺の座ってる木の真下にユニコーンラビットに向かって自分を食べるなと叫んでいる女がいる。


「な、なんですのっ!?近寄らないでくださいましっ!」


確かに頭についているツノに突かれたら痛いとは思うが…。そんなに怖がるか?突かれたら穴が開く病気とかか?


「ひゃぁあああ!誰かっ!誰かいませんことっ!?」


いや…え?まさか。そうじゃなくて、もしかしてこいつ…ユニコーンラビットが草食ってこと知らねえのか?


「こ、こんなところでっ…うっ…ひうっ…」


お、おぉ、ついには泣き出したぞこいつ。この魔物は赤ん坊でも触れるぐらいに温厚なのになぁ…



うーん…さて、俺はこいつをどうすっかな。






俺はレント、ただの平民のレントだ。

なんで俺がこんな誰もいない森の中で、一人で生活してるかと言うと…。


俺は生まれてすぐに魔法を暴発させ両親を殺してしまうという事件を起こした。平民は基本魔力を持つことは少ないらしいが…両親がお貴族様だったのかは今の俺には知る由もない。


両親は安宿で俺を産み、俺の魔力暴走で死んでしまった。身寄りもなく…というか、両親の身元が不明だったのでその後に神殿に預けられる事になった。


魔力暴走するほどの子供は孤児院じゃ育てることができなかったからだ。

俺は神殿の中で魔力コントロールを学び、一人で生きてゆくすべを学んだ。


どこの誰かもわからないうえに、いつ魔力暴走するかも分からない子供を育ててくれた神殿長様には頭が上がらない。


ちなみに宿の人には大人になってあった時にはめっちゃ文句言われた。産婆を呼んでいたら魔力暴走も抑えることができたのにと。(しかも壊した宿代を借金として背負う事になった、俺のせいだけど俺に言われてもよ…)


成人して借金も返した後からは迷いの森と言う滅多に人が近づかない場所で一人生活していた。全てが自給自足なので森から出ることもないし、来るのもいないから人に会うこともない。


絶好の引きこもり場所である。


なんでそんなとこにと思うだろうが、その理由は…俺の容姿だ。勿論俺の事を知ってるやつにはそれに親殺しが追加される。


魔力が高すぎる故に白い髪の毛が、魔力をおびて白銀色になっているし、魔力暴走をしたせいで瞳の色は薄紫だ。


俺の住んでいたところは皆 茶色か黒い髪の毛のやつばかりだし瞳の色も髪と同じようなものだ。

そんな中で俺は明らかに浮いていたし、ヒョロヒョロの体に筋肉が申し訳程度についていることも厭われたし。

さらに言うと切長の目も高い鼻も薄い唇も全てが女みたいで気持ち悪いと言われた。


俺が女だったら絶世の美女だったのにと何度言われたことか。


(俺は人間が嫌いだ。まぁ、俺に優しかった神殿長は人間だがな。)


そう言った理由で俺は人を避けて生活してたんだが…変な女が迷い込んできやがった。


その女は多分どこかのお貴族様だ。喋り方もそうだが、知識のなさもそうだし…何よりこんな森の奥なのに高そうなドレスを着ている。


(ただしボロボロだがな)


「厄介ごとの匂いがぷんぷんするこの女をどうすっかな…でも、のたれ死なれても困るしな」


俺が木の上から女を見下ろしている事に本人は全く気づいていない。人前に出るのは勇気がいる、だから俺はここでかれこれ20分ぐらい馬鹿みたいに考えている。


なんか危ない魔物が来たら勿論助けるが…うーん。あと一歩の勇気が出ない。


「きゅうぅ…」


そうこうしてるうちに女はどこから出してるのかわからないような声を出しながら、気を失ってしまったようで真後ろへとひっくり返ってしまった。


(ええー…?マジかよ…)


気を失っているのならいいかと思い俺はひょいと下へ降りた。


(おぉ…すげー美人。これが酒屋のおっちゃん達が言ってたマブイ女ってやつか?…マブイってなんだ?魚か?まぁいい。多分いい言葉だったと思う)


間近で見た女の顔が今まで見たこともないほどに綺麗で俺は意味わからないことを考えていた。


上から見た時もその漆黒の髪が綺麗だなと思っていたが、肌もきめ細かくて白いし唇も薄いのになんかぽってりしている。朝露に濡れて淡く光るさくらんぼのようで美味しそうだ。


(いや、馬鹿か俺は。何考えてんだよ…)


思考回路がおかしな方へと流れて行こうとするのを必死に止め、起きてくれるなよと思いながら女の体を担いだ。


(ちっ。ドレスのスカートの膨らみが邪魔なんだけど…まじでこんなもん着てんなよな)


ちょうど女の着ているドレスのスカートの膨らみの部分が、走る時に足を前に出すと俺の太ももにゴワゴワと当たってすごく嫌な感じだった。


(つーかなんでお貴族の女ってこんなにスカート膨らますんだ?そんなに足の皮膚が弱いのか?スカートで擦れたら皮膚が剥がれんのか?)


そんなことを考えているうちに俺の家へと到着した。


俺の家にベッドは一つしかないのでとりあえず女をそこに寝かせる。が、布をかけようとふと足元の方を見ると、スカートの膨らみの中で足元が完全に浮いている。


浮いているのだ。


「はぁ!?」


俺はびっくりしすぎて思わず声が出た。


(いや、なんだよあれ?スカートの中って布じゃねーのかよ?どうなってんだよ?布ならあんなに浮かねーよ!?いや、浮くのか?普通はこんなに浮くのか?)


「…気になる。」


つい、声に出るほどにはその中が気になる。そこはどうなっているのか、女のスカートの中にはどんな仕掛けがあるのか、実はお貴族様のスカートの中には武器が仕込んであるのかもしれない、だからあんなに膨れてんのか?


そんな馬鹿みたいなことを考えてる俺の視線は女のスカートに釘付けだ。もう目を離すことができない、この謎が解けない限りは多分夜も眠れない。


「な、ななな…!?」


そんなことを考えてると、俺の横から変な声が聞こえた。


(しまった!)


そう思った時にはもう遅かった。声がする方へと顔を向けると、そこには顔を真っ赤にした女が俺を見て口を震わせながら、目を見開いていた。


「…疲れてんなら寝てろ。嫌なら帰れ」


いくら俺が不細工だからって声も出せないほどびっくりされるとは思わなかった。またひとつ傷ついた俺は一言だけ女に伝えて家を出る事にした。


(俺がいたら寝るにしても、逃げるにしても気を使うだろうしな。ハッ)


自傷気味に笑いながら俺は今夜の肉と野菜をとりに走った。


(…もしかしたらあの女も帰ったらまだいるかもしれないし、多めに取っとくか)


走りながら索敵するも、俺はあの女の綺麗な琥珀色の瞳が脳内にちらついてしまい。いつもより獲物を取る時間が大幅に遅れた。


(マジでふざけんなよ…なんなんだよあいつ。ムカつくなぁ)






そんなことを思ってる俺は、この先あの女のことを愛しどろどろに甘やかす未来が来ることをまだ知らない。

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