第34話 ハニートラップ

今日は初めて冒険者ギルドで治療をする日だ。緊張するな。今まで通りすればいいだけの事なんだけど。言われていた通り、朝冒険者ギルドへ出向いた。扉を開くと、清掃をしていた。


「まあ、そこらへんでのんびり座っていてくれ」


ラオは忙しいらしく、二階に昇って行ってしまった。


「ギルド長いつもあんな感じなのよ、気にしないでね」


マリリアさんが声をかけてくれた。


「何か手伝いましょうか?」


「いいのよ。貴方のお仕事じゃないんだから、休んでいた方が良いわよ」


午前中は特に何もすることが無く、ぼくはギルドの様子を眺めていた。


「多分忙しくなるのは、午後からだと思うわ。早めにお昼食べちゃったら?」


マリリアさんが、トレーに乗せてサンドイッチと飲み物を持ってきてくれた。


「気を遣わせちゃってすみません」


「いいのよ。これもお仕事なんだから」


バタン。

扉が開いた。肩で息をしている若い冒険者が倒れこんでいた。


「片っ端から、治療していいんですよね?」


「お願いしますね」


倒れこんだ冒険者は重症の様子、後から付いてきた女性の冒険者も仲間を連れてきていたようだった。


『癒しの女神よ我に力を与えたまえ・・ヒール』


次々と魔法をかけていく。


「取り合えず大丈夫かな・・」


やはり、店でするのとでは勝手が違う。分かっていた事だけど。緊張感からか、汗が出てきた。


「ふう~」


「おお、やっぱり凄いな魔法は」


ラオが二階から降りてきたようだ。


「ポーションよりも安いし、早いみたいだな」


回復ポーションってそんなに高いのか。金貨3枚ってずいぶん多いなって思ったけど、そうでもないみたいだ。


「一応治しましたけど、体は休めたほうが良いと思いますよ」


ぼくは食べかけのサンドイッチを、口に放り込んだ。それからほどなくして、また怪我をしている人が来た。多分喧嘩をして、怪我をした程度みたいだけど。


『ヒール』


直ぐに治った。初日は意外と、怪我人は多くなかった。元々休みの日だし、この位が丁度いいのかも。もう少ししたら、ギルドも閉まる時間だ。


「グリーン、今日の賃金だ」


ラオから金貨を受け取った。

明日はいつも通りの治療院だし、早めに休むとしようか。



*****



外、暗い中を歩いていると深くフードを被った人とすれ違った。キツイ香水の匂い。香水はちょっと苦手だ。多分女性なんだろうなと振り返る。


『わたし、貴方のファンなんです。是非お付き合いしてください』


「え?」


振り向きざま、声をかけられた。甘ったるい変な感じだ。意識がぼーっとしてきた。女性はぼくの手を取り、ぼくの瞳を見つめる。


『是非恋人になって、下さい』


「こいび・・と?すきに・・?誰を?」


「え?」


「「「パアン!」」」


何かが弾き返された音がした。


「君、ぼくに何をしたの?何かの魔法だよね・・」


「わ・・わたし・・は・・まさか逆に弾き返されてしまうなんて・・はぁはぁ・・」


女性は何故かぼくの体にくっついてきて、離れなくなってしまった。表情も虚ろで何処かおかしい。何か悪い薬を飲んだらこんな感じになるのだろうか。


「まいったな・・解呪魔法があればいいんだけど」


恐らく、ぼくに魔法をかけようとして弾き返されたのだと思う。防御魔法 障壁って魔法も効くらしい。この前は物理攻撃も大丈夫だったし。


「すき・・」


魅了魔法チャームかな・・何だってこんなものを・・今だったら理由が訊けるのかな?」


「どうして、ぼくを襲ったの?」


「・・大神官様から依頼されてアリス様から引き離すようにと・・魅了魔法をかけようと・・しました・・はぁはぁ・・」


え?こっわ。何考えてんのあの人。そういえば、見張られてるって言ってたもんな。そのくらいはするって事か。ぼくはステータスを見て、それっぽい魔法を唱えてみた。


『解呪』ディスペル


直ぐに魔法は解呪された。女性は顔を青くして、固まっていた。

女性は呟く。


「回復魔法を使うだけだからって聞いていたのに・・油断していました。魔法が効かないなんてありえません」


襲ってきた女性の魔導士は町の自警団へ引き渡した。

実害は無かったのだけど・・。

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