アンバッドエンド

みうら

1章

第1話 バッドエンド

首には太い縄。足元は椅子。


「何やってんだよ俺は…!?おい、やめろ、嫌だ、嫌だ……!!!止まれ、止まれよ!!」


まるで体を別人に操作されているかのように絶叫する彼は、それと同時に跳躍。


「ぐぁあっ、がぁっ!あ……」


彼の顔が絶望に染まり、足がバタバタと動き、数秒後に動かなくなる。

白む視界の中、彼が…早乙女夕弦さおとめゆずるが最後にとらえたのは、春に亡くなったはずの姉だった。



◇◇◇



俺が放り出されたのは、あたたかい、暗い世界だった。

手足の感覚はない。


しかし、それに違和感を覚えることもなく、心地よさに身を任せてしまう。


昼夜ともに聞こえてくる意味が分からない叫び声に、俺は疲れ切っていた。高校にも行けなくなった。


ずっと、アレは誰かが自分に助けを求めている声なのだと確信していた。

応じようと思ったのが間違いだった。


……気づいたら自分の首に縄をかけていて。


でも、ここにあの叫び声は届かない。

どっと眠気が襲ってくる。


なんだか、意識を飛ばしたら二度ともとの自分には戻れない気がした。

だけどもう、どうでもいい。



◇◇◇



「助けて…!!誰か、早く!!!!」


次に聞こえたのは、いつになくはっきりした、昼夜問わず聞こえてきたあの叫び声だった。


全身傷だらけの紫の目の少女が、こちらを見ていた。

長い水色の髪と宝石のような髪飾りが、どす黒い血で汚れてしまっている。

その腕の中には、黒髪の着物の幼女。どうやら意識を失っているらしい。


あたりには人間が数人、死んでいる。

これも、この少女達の仲間なのだろうか。


「これは、どういう」


声が怯えで震えてしまう。少女は


「あなた、どこから?……いや、今はそんな場合じゃない、ね」


あれ、と指を刺す。

その指の示す先で──


涼しい顔をした白い長髪の女が、全身ボロボロで、片腕が取れかけている女と戦っていた。


ひっ、と喉奥から声が漏れたのがわかった。

なんなんだあれは。脅威が、すぐそばにいる。


だけど意外に頭は冷静で、パニックにはならなかった。どうやって生き残ればいいのか、ひたすら考える。

……だめだ、わからない。


「いい加減にしやがれ、クソがぁああっ!!!」


ボロボロになりながらも、残った右腕で殴りかかろうとした女が


「あら、そろそろ倒れると思ったのだけれど。まだ起き上がってくるなんて、驚いた」


冥炎みょうえん

白髪がつぶやいた途端、黒い炎に包まれて跡形も残らず消えた。



水色の髪の少女の顔の絶望が、さらに深まる。一瞬泣きそうな顔になって、その後怒ったような顔になって、最後に無表情になった。


抑えた声で問われる。


「あなた、名前は」

「さ、早乙女夕弦……」

「サオトメ・ユズル」


いい名前だね。

少女が、痛々しく笑って。


「わたしはエマ。それで、この子はオト。まだ息がある。助かるかもしれない。だから」


わたしが戦っている間に、この子を連れて逃げて、ユズル。


無理だ……なんて、言える雰囲気じゃない。どっちにしろここにいて死なない保証なんてない。

なんなら、今断ったらおとりにされてしまうかもしれない。


「……ああ。俺に任せろ」


胸を張って、笑った。完全なる虚勢だ。

本当は怖くて仕方ないけど。すでにボロボロのエマはこれから、あの女に立ち向かうと言っているのだ。


やるしかない。それなら……女の子に、格好悪いところは見せられないよな。


しかし。

エマに渡された、気絶している少女__オトは、俺の腕を素通りして地面に落ちた。


「通り……抜けて」


あぜんとするエマ。

直後、閃光のような光であたりが包まれて。


そのとき、エマの真後ろにあの白髪の女がいることに気づいた。


「う、後ろ、危ない!!」


裏返った俺の声に、エマが驚いた顔をして後ろを振り向く……と同時に、白髪の女がわらった。


命折みお

女がくいっ、と糸を引くように指を動かして。


鮮血。


頭と胴体を切り離されたエマが、崩れ落ちる。

舞った血がユズルを通り抜け、オトの体にぼたぼたとこぼれた。

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