カミガミ

岡野梨花

第1話 夕日は一人で見るな、さびしいぞ

 いつからだっただろう、神になりたかった。そして、オレなら成れるとも思っていた。日は沈み、夕闇が背後からオレを吞み込もうとしていた。見晴らしのいい崖に来ていた。絶望の淵を歩くオレは、今日の朝ごはんのガムを崖の下に吐き捨てた。

「あ~あ~あ~、神様になりたいな。」

 オレは神になりたかった。いいじゃん成れると思ってたんだから。いつもの聞かせてくれよ。諦めずに頑張ればなんにでも成れるとかさ。え、神は無理?いいじゃん、どうせ諦めずに頑張ればなんちゃら~も無責任なことなんだからさ。オレの無責任もついでに背負ってくれよ。未知の無限の可能性とかいつも通り適当なことを言ってくれればいいんだって。イタイ奴だなって?大丈夫、安心しろよ。今じゃちゃ~んと死にたい奴に生まれ変わってるよ。

「もうひと思いに行っちまうか。」

 保育園にいたころ、周りの大人は言ってた。頑張ればなんだって成れる。テレビに出ている歌手や、何不自由ない金持ち、プロのスポーツ選手だって成れるんだよ。ずっと信じてた。でも、オレは音痴だったし、運動もついでに音痴だったし、家はびっくりするほど貧乏だった。

「お母さん、ボク、将来ノーベル賞とる!」

 なんでかしれないけどお母さんの眉間に皺が寄ったのを覚えている。なんでか、いつもの「頑張れば理論」をこの時ばかりはお母さんは言わなかった。あれ、なんかイラついてきた。まじでなんでやねん。

 そう、オレはスターになりたかった。だれかにすごいって誉めてもらいたかった。オレは英雄になりたかった。困ってる人を助ける大富豪にもなりたかった。そして、神懸ったその人生をテレビで特集してほしかった。ついでになれるなら、特撮のヒーローにもなりたかった。不可能を可能にする系の。ちょっとやられたふりして、仲間の力を借りて必殺技で最後片付けちゃう系の。

 オレは、西の彼方に少し残った赤い空が黒く塗りつぶされていくのを眺めていた。まるでオレの人生みたいじゃないか。汚れたガードレールを跨いで崖の淵に立つ。あ~あ~、オレの人生ほんとしょうもなかったな、あ~あ~、あの好きな漫画の連載、名前なんだっけ。あ~それそれ。結局結末どうなるんだろうな、あの世に行っても、読めないかな。あ~あ~、崖の下めっちゃ真っ黒じゃん。ここから、飛び降りて、生き残ったら人格変わったムーブして上手く生きれるとかできないかな?いや、おれはここで死に切るんだ。あ~あ~、もう西の空、完全に黒くなっちゃったよ。タイミング逃したね。あれ、全然ここ人通りないじゃん。自転車で来たの失敗だったじゃん。よく考えたら田舎道全力で夕日に間に合うように全力で走ったの恥ずかしい。あ~あ~、お母さんに、出かける前にここに来るって言うのわすれたなあ。だ、だれか、だれか、オレを止めてくれ~。

 その時、目の前に白いモヤモヤしたもうよくわかんないモノが現れた。ように見えた。そいつがオレに言った。

「なんだこのガキ。ここで何やってんだ、馬鹿なんじゃん?」

 救いの神が現れた。


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