第28話 優雅な生活の始まり

「タナケン様、おはようございます」


 俺はメイドのキャサリンに起こされ、今日も優雅な1日が始まった。


 新しいマイホームであるタナケンキャッスルは、まさに西洋の城と言えるほどイ⚪︎スタ映えしそうな城だ。


 白を基調とした地上30階建ての白は、なんと部屋数が500室超え! 俺達だけではなく、専属のメイド30人、護衛の騎士団30人、シェフ200人、その他雑用係50人が住んでいるめちゃくちゃ大きい城である。


 俺を起こしにきたキャサリンは俺と同い年ぐらいの金髪ロングストレートの少女だ。メイドリーダーであり、メイド以外もまとめているタナケンファミリーの幹部である。


 俺はハウスデザイナーが勝手に作った塔みたいな部分を自室として使っており、そこから見える景色は格別である。旧タナケンハウスからそんなに離れていないから、ミニチュアみたいなサイズと化した街を眺めることもできる。


「タナケン様、朝食の準備ができました」


「うむ」


 俺は塔みたいな部分から城の中心にある大広間に行き、20mぐらいの長さがあるテーブルの先端部分(通称:主役席)に座った。


 20m先にある反対側の主役席にはアイリが座っていて既に朝食をとっている。


「おはよう、アイリ!!!!」


「なに!? 遠くて聞こえないんだけど!!!!」


 もう少し庶民的なテーブルを買うべきだったかもしれないが、これぞ勝ち組の優雅な食事風景である。出勤する必要もなく、朝14時に朝食を食べる。とても素晴らしい生活だ。


「キャサリン、クロはどうした?」


「クロ様は朝からお出かけされています」


「ふむ、また駄菓子を買いに行ったのか」


 すると20m先からアイリが朝食を持ってきて斜め前の席(通称:モブ席)に座った。


「このテーブル、大きすぎるのよ」


「何を言っているんだ。大きさとは器のデカさ、器のデカさは心の余裕につながる」


「言っている意味がわからないわ」


 アイリはなにか言いたげな表情をしていた……と思ったら不満を漏らし始めた。


「私は……前のタナケンハウスの方が好きだったわ」


「どうしたんだ、アイリ。あんな200ゴールドしか価値のないちゃぶ台で食事がしたいなんて」


「なんていうか今の生活は身の丈に合っていないような気がするし、流石に贅沢しすぎじゃないかしら」


「!? 何を言うんだ! 俺達は困難を乗り越えてようやく勝ち組になれたんだ! 贅沢する権利があるんだぞ!」


 俺はリモコンを取り出して電源ボタンを押した。すると大広間にある超特大モニター(4k対応)に映像が映る。


「クロを見習って、その貧乏魂を捨てるんだ!」


 モニターには街を歩くクロの姿が映し出されている。クロはよく迷子になるから『カメラで安心! 見守りドローン(定価100万ゴールド)』で追尾しており、今映っているのはリアル映像だ。


 以前までみすぼらしい格好だったクロも、今は毛皮のコートを羽織り、顔半分ぐらいの大きさがある黒いサングラスをかけてセレブな見た目になっている。


 クロはそのままお気に入りの駄菓子屋へ入っていった。


「いらっしゃいませ、クロ様! へへ、本日はなにをお買い上げに」


 駄菓子屋のじいさんはクロを見た途端、気持ち悪いほど笑顔になり、接客を始めた。


「プレミアムチョコ棒、あるだけちょうだい」


「!? プレミアムチョコ棒はこの店で一番高価なチョコで一本200ゴールドしますよ!?」


「どういうこと? クロにプレミアムチョコ棒は相応しくないと言いたいの?」


「めめめめ滅相もございません! 大変お似合いでございます! 直ちにご用意します!」


 こうしてクロは店にあったプレミアムチョコ棒30本を買い占めた。


 計算ができないクロは会計時に100万ゴールドぐらい出していた。じいさんも「ちょうどのお会計です!!!!!」などとふざけたことをぬかしていたが、今となっては100万ゴールドも『はした金』でしかないので目を瞑ってやろう。


 クロが店を出ようとすると、店内の端っこで兄弟らしき少年二人が会話をしていた。


「にいちゃん……僕もプレミアムチョコ棒食べたいよ……」


「我慢するんだ。俺達にあんな高価なお菓子を買うお金なんてないんだから……」


 クロは店を出ようとした足を止めて、少年達をジッと見た。


「おじいさん、あの子達に普通のチョコ棒2本あげて」


 クロはそう言い、再び100万ゴールドぐらいの札束を床に投げ捨てて店を立ち去った。


 そこで俺はモニターの電源を切った。


「今のでわかっただろう? 俺達が金を使うことで経済が回り、みんなが笑顔になるんだ」


「で、でも……私はスーパーの特売品を三人で買いに行っていた頃の方が……」


「そんな大昔の話はやめるんだ! あれだけつまみ食いしたり、買い物かごにお菓子を勝手に入れていたクロだって、貧しいちびっ子にお菓子を買い与えるほど成長したんだ! 贅沢は人を成長させるんだ!」


 俺はアイリに1000万ゴールドを渡した。


「アイリも欲しい物を買ってくるんだ」


「う、うん……」


 アイリはあまり気乗りしない感じではあったが、1000万ゴールドを持って外出した。


 これでいいのだ。一生に一度の人生、謙虚になる時間など一秒も必要ない。ま、俺はトラックに轢かれて異世界転移したから人生二度目ではあるけど(´・ω・`)


 俺はついに手にしたのだ。


 現実世界からずっと憧れてきた夢の生活を。


 社会から離脱して、俺はのんびり暮らすのだ。


 もう――誰にも裏切られたくないから。


 ********************************


 その頃、クロはプレミアムチョコ棒を食べながら帰路についていた。


「やっぱりプレミアムチョコ棒はデリシャスだね〜ムシャムシャ」

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