第21話 エイダ王女に成りすまして

 時は少しさかのぼり、あたしがあの大きな光の柱の攻撃を食らう直前。


 あたしは悟る。あの攻撃を食らえば技も発動できずに散っていくことを。



 その瞬間あたしの脳裏に今までの出来事が走馬灯のように雪崩れこんできた。



⸺⸺



 魔界に住む我らがデーモン族は、地上界での普通の暮らしを夢見ていた。

 しかし我らは体質上地上界の空気と馴染なじまずそのままでは身体の状態を維持できずに魔物と化してしまう。


 そんな我らのことを地上人は何か感じ取っているらしく、我らは地上では伝承上で“悪魔”と呼ばれていた。

 我らは地上人の召喚によって魂のみ地上界へと進出することができ、我らの宿り木が果てるまでの間、地上界での生活を満喫できた。



 そして地上界ではあたしのご主人様である“魔王ミラ様”の召喚の儀が行われていた。


「こんなちっぽけな魔力でわらわを呼び出そうとはかたわら痛いな地上の人間共め」

 ミラ様はそうおっしゃって失笑なさっている。


「あたしが代わりに出て、人間共へ思い知らせて来ましょうか」

 あたしはそう進言する。


 すると、ミラ様のお返事は予想もしていないものだった。


「そうだな。お前はずっと地上へ憧れていたね。良い機会だ。代わりに召喚に応じて、好きに暮らしてみなさいな」


「ええ、よろしいのですか!? あたしにはミラ様にお仕えするという使命が……」


「お前はずっと頑張って仕えてくれた。これは妾からの褒美だ」


「あ、あぁ……ミラ様……有り難き幸せ……それでは、早速行って参ります」


 あたしは早速出てきた転送陣へ入ってミラ様の代わりに召喚に応じた。



 一方あたしが行った後の魔界では……。


「ミラ様よろしいのですか。あのような小物が下手に地上へ上がってはすぐにその身を滅ぼすことになるかと……」


「良いのだ。あやつはあんな小物のくせに時折妾に殺意を見せる。そのような欲の塊は地上界で存分に思い知ってくるがいい。魂の抜けたその身体は処分しておけ」


 

 あの時は分からなかったけれど、こうして死ぬ直前、何の力が働いているのかは分からないけど、あたしが行った直後の会話が聞こえてきた。


 そう、これはミラ様の褒美などではなく、欲を出したあたしに対する罰だったのね……。


⸺⸺


 地上界の女の身体に召喚されたあたしは黒いフードを被った怪しい集団に“魔王ミラ”だと名乗った。


 ここでなら憧れのミラ様にだってなれる。あたしはこのまま地上界を征服するのよ!



⸺⸺その考えが甘かった。


 ある島にアンカードという国があって、あたしを召喚した集団と同じく邪神信仰をしているけど、魔王様が一向に召喚に応じてくれない可哀想な国らしい。


 そこで欲の出た私はアンカードへと進出して、その邪神教もあたしのミラ教へと取り込んだ。



 邪神信仰の過程でとっくに国としての機能は滅んでいたアンカード王国。

 それでも、あたしたちの拠点にはもってこいだった。



 そんな時、隣国のリーテン王国からジョン王子を名乗るガキがやってくる。


 この国のエイダ王女と婚約をしたい?


 エイダって……あぁ、適当に何代か前の王妃の名前を王女と公表していたっけ。


 これは隣のリーテン王国もあたしのミラ教へ吸収するチャンスじゃない。

 あたしは急いでエイダ王女を名乗ってジョン王子へ取り入る。


 そして堂々とリーテン王国へと進出をした。


 ところが、ジョン王子はすでに他の女と正式に婚約していて、あたしとの婚約はその女を嫉妬させるためだとすぐに気付いた。


 国王からも許可はもらってないらしいし、こっちとしてはだまされた気分だわ。


 でもそれならこっちだって容赦なく国を乗っ取れるし、アホそうなジョン王子だけを残しておけば何だってできそう。


 そう思ったあたしはあの手この手を使ってジョン王子へこびを売った。

 彼の童貞も奪って、あたしの身体のとりこにさせた。


 あの少し賢そうなシェリーとかいう隣国の小娘も追い出せて、更に玉座を乗っ取り、あたしは完全に天狗になっていた。



 どうやらそのシェリーを追い出したのがまずかったらしい。


 隣国のステリア王国はめちゃくちゃ大きな国で、シェリーとジョン王子の婚約によって両国の友好が保たれていたようだった。


 それを裏で破談させたあたしに待っていたのは……破滅の運命だった。


 所詮地上の魔力なんて、魔界の魔力には到底及ぶはずがない。

 そう思っていたのに、あのシェリーとクラウスとかいうイケメンはめちゃくちゃ強かった。


 あたしは彼の安い挑発に簡単に乗ってしまい、自らその身を滅ぼすこととなった。

 しかも彼らの圧倒的な制圧力によって、彼らを道連れにすらできなかった。



 そして今なら分かる。この宿り木が滅んでも、あたしの魂は魔界にすら帰ることはできない。

 もう既に魔界にはあたしの身体はない。


 あたしの魂はここで滅びるのである。



「こんな、はずじゃ……」


 あたしはその言葉を最後に、宿り木の身体ごと消滅していった。

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