第3話

 そこからはもうよくある展開だった。あれよあれよと王都に使者を出し、街でのパレードが決まりあーだこーだと新勇者のための予定が決まっていくのを見てるだけだった。もちろん、外野として……。


 俺は勇者になれないどころか、ジョブなしのショックでほとんど放心してたのでなすがままに、あるがままに……大聖堂にある一室でエリスに手を握られていた。


「わ……私が勇者です!」

「ああ、うん……おめでとう……ございます?」


 何度かこんな会話をした気がするけども俺はまだ立ち直れてない。何をいえばいいんだろう

 ……とりあえず冒険者になって……もっと魔法を覚えて……剣を鍛えて……ダンジョンとかあるのかな?そこで一攫千金でも狙って……。


「いいですよね!?ね!」

「ああ、うん……いいよ」


 エリスにしては珍しくキャピキャピしてるな。いつもはもっとこう、でへーって感じだったりジメジメって感じなんだけど。勇者になりたかったのかな?俺もなりたかったな……。いや、いやいや!前を向かなければ!異世界転生しただけで主人公だと思う俺が間違いだったんだ、冒険者だ!冒険者!


「じゃあ……伝えて……やっぱ一緒に来て」


 握られていた手を離したかと思うと俺の腕を抱きしめて何処かに向かおうとするエリス。


「何処へ行くんだ?」

「あっ、あ……そ……まだだった……」

「そうか、落ち着きなよ」

「うんっ!」


 そういえば俺とエリスの両親は何処へいったんだろう?そもそもなんで俺はこんなところにいるんだっけ?


「なあ、父さんたちは何処だっけ?」

「えっ……?あ、あの……最初に取った宿……」

「そうか……なんで俺達はここにいるんだっけ……?」

「……?私が付いてきてほしかったから……?」


 なるほど、陰キャを発動して会話がままならないから俺が付いてきたのかな?もしかして放心しすぎて記憶が混濁してるかもしれないな


「なあ、俺ってジョブは何だった……?」

「……?なかったよ……?」

「だよな……」

「大丈夫だよ……クロは強いから!大丈夫!」

「うん、ありがとうな……」


 やっぱりジョブなしだったか、放心しててもジョブなしだったわ。実は放心してる間になんかジョブ持ちだったりしなかったよ。


「この後はどうするんだっけ……?」

「待っててくれって……言ってた……」

「どれくらい?」

「王都の使いが戻ってくるまでって」


 それは流石に暫く掛かるだろうな、王都までどれくらいかは知らないが……数日か?それまでなにするんだろうな?豪華なご飯とかでてくるのかね?と考えているとコンコンとノックの音がした。


「失礼いたします、勇者様、お連れ様。王城より使者が参っております」

「………………」

「?」


 もう来たのか?意外と王都が近いのかな?エリス、どうした?聞こえなかったか?


「あの……」

「(ギュウッ)」


 腕が痛い腕が痛い腕が痛い!落ち着け、離せ!


「痛い……」

「あ、あっ……ご、ごめん……なさい……」


 そういえば初対面の相手はだいたいこんな感じだったな、ままならないどころか意思疎通が不可能だったっけ?多少は話せたような気もするんだけど。


「とりあえず……僕たちはどうしたら?」

「と、とりあえず付いてきていただけますか?」

「わかりました、ほら……エリス、行こう」

「(コクコク)」


 案内された先では大聖堂の壇上に上る階段のところで豪奢な服を着た男が佇んでいた。こちらに気がつくと頭を垂れてさぁ、眼の前まで来てください、さぁどうぞと言わんばかりの雰囲気だった。


「…………」

「あの……あちらの方が王城の使者です」


 仕方がないので組まれた、もとい抱きつかれたままの腕についたエリスを使者の前まで運んで下がろうと思ったが全く離してくれない。気まずいんだけど……?


「勇者様、王城の使者を務めます、王弟のハスルグでございます。勇者の就任誠にめでたく……この国に生まれていただいたことに感謝するばかりです。王城で勇者様のお披露目を行いますので、この街でパレードを行った後はぜひ来ていただきたく」

「…………」

「……いくのか?」

「(コクッ)」

「王城へ赴くそうです」

「ありがとうございます、勇者様、お連れの方。転移魔法がありますので時間的な問題はありませんから。ですので、別段急がずにお過ごし下さい。私は王城に戻りますが……何かあったらすぐに神官の誰か言っていただければ……」


 転移魔法があるのか、ぜひ覚えたいな!後でちょっと聞いてみようか。覚えられるといいんだが……。


 使者のハスルグさんが帰ると……ハスルグ殿下?まぁとにかく神官たちがパレードはしてくれることに感謝を述べていた。あれ?すること自体はまだ決定じゃなかったの……?エリスに目を向けるとものすごい真っ青になっていた。


「パレード大丈夫か?断るか?」

「だ……だ……大丈夫……一緒にパレード……して、出て……」

「いや、俺勇者じゃないからパレードは出れないよ」

「!!?」

「いえいえいえ!お連れ様もぜひ!ぜひ!お願いいたします!」


 食い気味で一番偉そうに見える聖職者が後押ししてくれた。いいのか?まぁこの感じだと意思疎通が難しいもんな……よく考えたら俺以外と会話してないし……。


「パレードは来週行う!勇者様とお連れ様だ!」


 まぁ明日、明後日で行うとか無理だもんな……じゃあ転移魔法のことを神官の誰かに聞いてみるか、大聖堂の本をあさって使えそうな魔法を覚えて……


「このパレードで勇者パーティーの初お披露目を行う!」


 え?俺って勇者パーティの一員なの?流石に違うよね?

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