第39話 妖精との共有
メフィストさんの前に現れたのは、確かに妖精のようだ。
20cmほどの大きさで、背中に透明な翅が生えている。
金色の髪が翅の動きにあわせて揺れている。
昔のギリシャなどを思わせる長い衣装を着て、腰を緑色の紐でしめている。
「人間どもを追い払ってくださり、感謝申し上げます。」
画像の音声をメイドさんが翻訳してくれる。
「私は妖精国の女王、ファラと申します。」
「私はメフィスト。私は主の指示に従っただけだ。感謝されるようなことはしていない。」
「ですが、私たちの森を破壊から救ってくださいました。」
「驚いたな。妖精ってホントに存在してたんだ。」
「そうですわね。私もおとぎ話の中だけの存在と思っていました。」
「妖精国を代表してお礼申し上げますわ。」
「礼なら主に言ってくれ。俺に言われても困る。」
「どういたしましょう。今は森がむき出しになってしまい、ここを離れるわけにはいきません。」
「問題ない。今、主に来てもらう。」
俺はメイドさんと共に転移した。
「えっ、人間ではないですか!」
「はい。ヤマト国代表のススム・ホリスギと申します。」
「何を今更!妖精が人間から受けた仕打ちを忘れたことはありません!」
「私の生まれた国は、ここから離れていますので、妖精と人間の間に何があったのか知りません。」
「知らないで済む事ではありません!」
「はい。非礼があったことについてはお詫び申し上げます。」
「くぅ……。」
「ですが、今はむき出しになってしまったこの国のことを考えましょう。」
「えっ?」
「私の国ならば、十分な森も余地もあります。」
「ちょ、ちょっと待ってください。今言語回路を切り替えます。これは北にあるブランドンの言語ですね。これで伝わりますか?」
「驚いたな。ブランドンの言葉も話せるんですね。」
「私たちは知識の共有ができます。ブランドンに住んでいた者の意識と共感すれば容易い事です。」
「それは凄い能力ですね。それで、ここの住民たちと確執があるのでしたら、いっその事、移住しては如何ですか。」
「私はまだあなたを信用した訳ではありません。」
「どうしたら信じてもらえるんですか?」
「私にすべてをさらけ出しなさい……と言いたいところですが、あなたには私の信用を得る必要なんてありませんでしたね。」
「……、別にいいですよ。隠すことなんてありませんし、それで妖精の皆さんが安心できるのなら何でもやってください。」
「あ、あなたはバカなんですか!国の代表というのなら、色々と思惑もあるでしょう!」
「思惑はありますが、隠すようなことは無いという事です。」
「一国の代表が、そのような事で良いのですか!」
「俺もそうだけど、アルト国のアルベルトも同じタイプですね。ナンバーツーが優秀ならば、王は国民に対して正直になっていいんですよ。」
「ナンバーツー……だと?」
「わが国には、イライザという優秀なスタッフがいますし、アルトにもアリスという優れた王妃がいます。この二人には表に出せない思惑がありますよ。」
「本当にあなたには隠す心はないというのですか。」
「大丈夫です。あれですか、妖精の共有とかいう特技ですかね。」
「その通りです。ただ一方通行ではなく相互に理解できるため、妖精の側にもリスクがあります。」
「妖精の秘密も全部引き受けましょう。さあ、お願いします。」
「はぁ、変な人間ですね。」
全部オープンにするという意思表示で両手を広げた俺だが、女王ファラはおでこをぴったりと密着させてきた。
その瞬間に感じたのはデータの暴走だった。
出ていく情報と入ってくる知識。
それが終わった時、感じたのは人間の身勝手さと残虐性だった。
「どうしたのですか?」
「人間でいることが苦痛に感じる。」
「そうですか。人間がどれほど残忍なのか分ったでしょう。ですが、あなたは恥じる必要はありませんよ。」
「えっ?」
「あなたの知識の中にある、日本人の特殊性。和というものの見方・考え方は素晴らしいと思いますわ。」
「それは……。」
「共生という思想で国が作れるのなら、私どもも参加したいと思います。」
「来てくれるんですか?」
「はい。」
「となると生命の樹が移せるかどうかですね。」
「この森ごとマジックバッグに入れて移せるでしょう。ダメなら、苗木を掘り出してもらえばいいだけです。」
「あっ。」
「それから、メイドさんとも共有をお願いしたいのですが。」
「はい、私はかまいませんが。」
「ススムさんの知識にあるのは、そういう魔法があるというだけで、具体的な魔法式が欠けています。」
「ぐっ……どうせ俺は……。」
「悲観することはありませんよ。魔法が使えないというだけで、多くの魔法を生み出したのはススムさんなんですから。」
メイドさんと共有することで、妖精たちは転移魔法と重力魔法とシールドを使えるようになった。
これだけで、妖精は弱い存在ではなくなったのだ。
新しい住処は、伊勢になった。
神聖な力が満ち溢れているスポットだという。
移動した森も生命力に満ち溢れ、メフィストを監視者に据えたことで、妖精たちは世界中に出現するようになった。
妖精を迎えた翌日、俺の掘り出した木箱には、1/10サイズのマジックバッグ型ポーチ1万個が入っていた。
色も柄も様々だ。
これには妖精たちも大喜びだった。
「ススムさん、このポーチはすごいです。食べかけのお菓子や果実をいくらでもしまっておけるんですから。」
「そうか、普通サイズのお菓子って、一人じゃ食べきれないもんね。」
「ええ。いただいたお金も持ち歩けるようになったので、町で買い物ができるんですよ。」
「でも、人間の目にふれると、網で追い回されたり……。」
「転移魔法があるので簡単に逃げられるようになりましたし、重力魔法で報復もできるんですよ。」
「えっ、でも今までだって魔法は……あっ、そうか火や氷は相手を傷つけるから使えなかったのか。」
「うふっ、重力魔法なら相手を傷つけずに対処できますからね。妖精にピッタリな魔法なんですよ。」
次の日には1/10サイズの鑑定メガネを1万本掘り出した。
現在の妖精は、5千人程なのだが、生命の樹が活性化しているため、すぐに増えそうだというのだ。
だから、妖精のものを掘り出す時は、1万単位にしているのだ。
そして、妖精との出会いを一番喜んだのは、エルフとドワーフと鬼人のお針子さんたちだ。
本業の合間に、妖精たちの服を作りまくるのだ。
ドレスにパンツスーツにワンピース。
妖精は全員女性タイプなのだ。
生殖行為による繁殖はしないので、単一性なのだ。
しかも、20才くらいで成長が止まってしまい、寿命の500才まで外見は変わらない。
そこへ、服を着替えるという楽しみができてしまった彼女たちは、魔法で髪の色や目の色を変えて、ファッションを楽しんでいる。
新しい服に着替えた妖精たちは、アンズさん経由で世界中に現れる。
言ってみれば広告塔になっている。
そして、また注文が増えてしまった。
うん、人手が足りない……。
そこで、俺は妖精たちに仕事を与えた。
貧しく、生活に困窮している子供たちを見つけたら、本人の希望があればヤマトに移住してもらう。
そのための施設を愛知県付近に建設した。
当然、面倒を見るメイドさんも増員する。
中には母親が一緒だったり、病弱な女性だったりもするが、一年かけて基礎教育を行い、もう一年で職業訓練だ。
基本はお針子さんである。
【あとがき】
イメージはティンカーベルなんですよね。
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