第6話 入学式③

 決勝戦でもナナバは一撃で勝利した。まあそれも当然である。確かに決勝戦の相手はこのトーナメントで勝ち抜くだけの強さはあった。しかし彼はモモリーニよりも遥かに格下であったのだ。


 会場は拍手で包まれた。そしてキテンと戦う相手がついに決まったのである。



 ◆ ◆ ◆

 ナナバは闘技場でキテンを待っていた。

彼は今回のトーナメントで勝ち残った強者である。晒された自身の肉体に注がれる観客の視線。それは彼の気持ちを昂らせ、誰にでも勝てるような気持ちにさせる。


 だが相手は自分が憧れた存在、戦争を経て伝説にまで上り詰めた圧倒的強者。

かの有名なフローツ特戦隊以上の力を持っているだろう。戦争が終わった今、彼らのような戦士と戦う機会は2度と訪れないと思っていた。だが、なんの因果かこのような機会が自分に巡り合ったのだ。


自分はトーナメントの王者であり、そして挑戦者でもある。

自分の幸運に感謝せねばならないと思った。



◆ ◆ ◆

メインイベント キテン対ナナバ


 本来であればモモリーニがキテンの相手になるはずだった。しかしそのモモリーニを一撃で屠る戦士が現れた。そう、ナナバだ。これはひょっとするのではないか?会場にいる観客たちは一様にそう思い始めた。



キテンはその頃、内心焦っていた。すでにナナバが闘技場で待機しているが、自分も行くべきなのかわからない。誰かに聞こうと思ったが自分の周りには誰もいない。それゆえに困っているのだ。

(どうして誰もいないんだよ。誰か一人ぐらいつけてくれよ!めんどくさい、もう行ってしまおうか。どうせ行くんならここから飛び降りて闘技場に現れたらかっこいいだろうな。どれ、力を解放して飛び降りるとするか)

 


 ドズーーーーン。


大きな音が闘技場全体に響き渡った。


「待たせたな、ナナバよ」

決まったな、キテンはそう考えた。概ね彼の想定通りであった。確かに、観客の誰もが彼の一挙手一投足に注目している。だが、彼には一つ誤算があった。


ドサッ、ドサドサッ。


 急に観客たちが倒れ始めたのである。キテンは何が起こっているか全くわからなかった。だが、原因は彼にある。


「フフッ、ハハハハハッ!

そうだ!それでこそあなただ!誰よりも馬鹿でかいエネルギーを漏らしながらやってくる絶望の象徴!崩壊の権化!伝説の体現者とはよく言ったものだ。

嗚呼、ただの人々が遭遇すれば意識など保っていられるはずがない!

さあ、やりましょう!全力でいきますよ。」

 

 ナナバは歓喜に震えながら炎の剣を構えた。

思い出すのは彼の経験した最初で最後の戦。

自身の経験した中で最も印象に残っている出来事。

あれほどの恐ろしさを感じたことはない。あれほど憧憬を抱いたことはない。

そう、これこそがキテンだ。


「そうか……。」


 キテンが歩き始める。

ナナバは知っている。いざとなれば彼が目にもとまらぬ速度で走り回れることを。

自分にそれに対応することができるのか。

できる。

ナナバはそう考えた。

今までどれだけ彼の動きをまねしたと思っている。

どれだけ研究したと思っている。

憧れだから勝てない?

いや、そんなことはない。

彼に追いつくために、いや、追い越すために努力してきたのだ。

私にならできるさ。

ナナバは彼にできる最高火力で炎の剣を爆発させた。



 この程度ではキテンを足止めできるとは思っていなかった。一瞬でいいのだ。

一瞬の隙を作れさえすれば自分の最高の一撃をたたき込める。普段は炎魔法で作った剣を使っているが、そんなのでは自分の本領を発揮できていない。本来は拳に炎をまとうのだ。

拳にエネルギーを込めろ。すべてを炎にするのではない。闘気にも変換するのだ。今回は炎:闘気を1:1に設定。

イメージするのは水鉄砲。大抵の相手には範囲攻撃する方が効果があるが、それではキテンにはダメージが通らないだろう。エネルギーを一点に放出する。

爆発によって生じた煙によって視界が塞がれた今がチャンス。自分の全力をたたき込むのだ。


 ナナバが全力で放った拳はキテンの腹にまともに入った。まだまだこれからといわんばかりに殴ろうとしたとき、今度はキテンの拳がナナバの腹にクリーンヒットする。かなりの苦痛にナナバの顔がゆがむ。だが、ナナバはとまらない。もともとこの攻撃に耐えるために鍛え上げた肉体だ。たったの一撃で戦闘不能になるわけがない。


 それから追撃を回避するためナナバは一気に10メートルほど距離をとった。キテンの状態はどうなっているだろうか。そう考えて待機していると煙が晴れていった。現れたキテンは上半身裸になっており、吐血もしていた。ナナバは自分の攻撃が彼に通じたことに喜びを覚える。


 これから追撃しようと思ったときにふと気づく。そう、さらされたキテンの肉体であった。ナナバは彼の筋肉にみとれてしまっていた。不揃いな腹筋。異常なまでにゴツゴツとした二の腕。それを見ただけでナナバは勃起していた。しかし、普通の人が見たら、そこまで興奮するような筋肉ではない。見た目だけならナナバの筋肉の方がきれいなくらいである。しかし、殴った感覚はまるで大岩をたたいているようだった。では、なぜそこまで硬い腹を持つようになったのだろうか。それには理由がある。


 元々キテンを含む真央国民たちは生まれながらに強いわけではない。しかし、彼らには強い特性が備わっているのだ。そう、回復能力である。実は回復能力だけはすべての国の中で最も高い。まあ、一週間で治るような傷が一晩で治るようなもんだが。その中でもキテンは突然変異体であり、真央国民の中でもさらに異常なまでの再生能力を誇る。彼は傷を負ったごとにすぐに再生が開始されるのだ。


 ここで豆知識を加えるが、肉体の強度は体の破壊と再生が繰り返されるほど強くなる。キテンはその仕組みと自身の再生能力の相性に良さに気づき、ある修行を開始する。そう、名付けて自傷訓練である。自らのすべての部位をハンマーでたたき、ちぎれた筋肉や折れた骨を優れた再生能力ですぐに直す。10分もあれば完治するので、このつらい修行を一日に10回は繰り返し行う。それを終戦まで続けたのだ。それ故にいびつな形の筋肉と異常なまでの強度の肉体を得ることに成功したのである。


「やはりこのままでは無理か」

キテンは淡々とそうつぶやいた。


「それはどういうことです?」

その言葉の意図がわからないナナバは尋ねるしかなかった。


「俺が伝説の体現者と呼ばれるのには理由があるのだ」


「ふむ?」


「俺が真央国出身なのはこの見た目でわかるだろう。その真央国にはある伝説が存在するのだ。大昔のことだ。当時最強だと言われていたナバナ国の戦士も獅子王国の戦士たちも倒せないという最強の厄災が出現したのだ。人々はもう滅びるかに見えたがとある一人の戦士が登場する。そう、真央国の戦士だ。彼は種族の限界を突破して最強の力を手に入れたらしい。そしてその力を得た姿をハイパーフィネックスと名付けた。その力で厄災をも退け、英雄となった、と」


「ほう、そのようなことがあったのですね。あなたも相当強い戦士だ。しかし、あなたの見た目は普通のキャットピープルですが?」


「ああ、そうだ。しかし、伝承はそれだけでなく、どうやってその力を手に入れるかまでの詳細も含まれていた。貴様も魔力や呪力、闘気の元となるエネルギーは同じものであることは知っているだろう。そして体の中にあるエネルギーの容器の大きさには限界があり、エネルギーの容量はそれ以上にはならないと。しかし、それは間違っている。己の中のエネルギーを圧縮していくことでエネルギー量を増やすことができるのだ。そして、圧縮により最大までエネルギー量を増やした後は徐々にエネルギーの容器が大きくなっていき、最終的には己の体の大きさまでになる。そこまで行くと己の真の姿を感覚的につかめるようになり、自然と変身が可能になるのだ。そう、このようにな」


「はあああああああああああああああーーーーー、

ぬああああああああああああーーーーー!」


「はあっ、はあ。

だが、エネルギーの容器の大きさを変えることができるのは俺たち真央国民の中でもほんの一部だ。容器を大きくする際、少し容器にひびが入るのだが、ほかの種族や再生能力の低い奴らがやると徐々にひびが広がっていき、最終的には割れて、エネルギーをためることすらできなくなってしまうのだ。俺は生まれ持った再生能力のおかげでひびを直しながら成長させることができた。それ故にこの姿にまで到達することができたのだ」


「話が長くて悪かったな。さあ、続きをやるか!」

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