EP01-08・放課後の帰り道に……クエスト発生?

私は焼却炉から重たいゴミ箱を頑張って手で持って教室へと帰ると、教室のドアの前でクレオが待っていた。ミサキの記憶だと……彼は部活に……サッカーをしに行く時間のはずだけど……


「おかえり」

「ただいま。あれ? なんでいるの? 私の記憶では……部活に行ってるんじゃなかったっけ?」

「ああ、今日は……ね。面白そうだから一緒に帰るよ」

「? わかったわ」

「……やりぃ……」


クレオは小さくガッツポーズをする。なんでかしら?

私はいい加減ゴミ箱が重いので教室に入りゴミ箱を置く。すでに机の位置は元に戻り、教室掃除は終わっている様に見えた。


「あ……カクタ君……」

「カクタじゃん? あれ? 部活いかねーの?」

「今日は休み。ちょっと用事がね」

「お、……がんばれよ!」

「ちげーよ!」


クラスメートの男子は少しニヤニヤしながら私の方を見た後、スポーツバッグを抱えて挨拶をして教室を出ていく。残った人間もバッグを持って教室を出ていく。あ、ユズラだけ残ったね。クレオが不満そうな表情になる。


「……イラスト部じゃないのか?」

「今日はお休みするって連絡しておいたよ」

「……ちっ……」

「ふーん。そんな態度で良いんだ? 口が滑っちゃうかもなぁ……」

「……もうバレたよ」

「え? まじで?」

「鑑定あるんだってさ」

「ええ? マジで??? やばくない?? 相手の事、色々わかっちゃうの?」


本当に仲が良いな。喧嘩するほど仲がいいっていう言葉の見本ね。何のことをしゃべっているかわからないけど、楽しそうに見えるね。

私たちはあまり会話が無く……いや、クレオとユズラが過去の事を色々言い合っている中、校門を出ていく。私は道行くものがすべて珍しいので、思わず立ち止まって景色を見たり、現実のクリエーター様が製作した家や乗り物を見て鑑定をかけていく。本当にすごい世界だ。

自動車の動作制御のプログラムを見て感心していると、後ろからクレオが私の肩をたたいてくる。


「な、なぁ……その。そろそろテレポートを……」

「え?? そんなのもあるの?」

「ああ。ごめんなさい。朝はじっくりと見られなかったから……凄いのね。この世界。全部が凄い品質……」

「……なにがだろ?」

「うーん、ゲームの世界に比べて挙動がリアルとか?」

「あっちも物理演算のプログラムがすごくなったんじゃなかったっけ?」

「自動車かな? 自転車もあったよな? マウントで飛ぶ奴はあったし……」


二人は何やら考えているようだったが……バレない様に人気のないところに……あ、その前に『パーティ申請』しないと。一緒の登録地点にテレポートできないわね。

私は彼らの忠告に従ってUIが他の人間に見えない様に壁を背にして操作する。

『周囲の人間を検索』すると、凄い人数が検索されていく……『MAP』にも『現在位置を知らせる点』が出てくる。この街全体を検索してしまったようだ。『MAP』が光る点で埋め尽くされてしまった。物凄い人口密度ね。情報処理しきれているのが凄いわね。

私は対象を絞り、周囲10メートルに絞った。それでも数人がヒットする。名前がしっかりと表示されたのを見届けると『パーティ申請』を送る。


「え?」

「あれ? 何の音?」


ユズラがスマホを取り出して画面を見る。クレオはすぐに理解した様で、目の前に表示されたであろう『パーティ招待』のメッセージに気が付き、空中に表示されたUIを指を震わしながら押そうとしていた。

上手に彼は押せたようで私の『パーティメンバー』にクレオが入ってくる。ん? カクタクレオの横に(Oniyasha)と表示されているな……WODFのプレイヤー名も表示されるのかな?


「……すげぇ……なんだこれ? どういう仕組み?」

「え? なんなのこれ? 空中に……」

「ユズラ。押してみて」

「……う、うん」


ユズラもボタンを押せたようで彼女も『パーティメンバー』のリストに入ってくる。名前の脇に(YuzuKarin)と表示されているな……彼らの冒険に必要なステータスだけが視界の左下に表示される。全員健康で体力全開の様だ。スタミナが少し減ってるか……


「なぁ、なんか……目の隅に……HPとか色々表示されてんだけど……」

「すごいね、VRみたい。あ、でもあれ、見づらいんだよね……これは凄いしっかりと見える」

「そうなの? 私にとってはこれが普通なんだけど……」


「凄いな……あれ、名前を触るとなんかウィンドウが……」

「それで音声やメッセージを送れるわよ?」

「え? どうやって入力を?」

「文字マークを押すと普通に文字入力の画面が出るわ。音声の時は音声ボタンを押して喋れば音声をメッセージできるわ……あ、ユズラからメッセージ来た」


【なにこれすごい!!!ww】

【なるほど、これはすごいな……】


二人ともすぐに使いこなせるわね。流石WODFをプレイしてるだけあるわね。

あれ? なんで操作できなかったんだろ……あちらと同じ仕様なのになんで? まぁ、いっか。


「ログも見えるし……チャット機能だけ使える感じか……」

「他の人からは見えないんだよね?」 

「パーティ情報に関してはパーティメンバーにしか表示されない?」

「あれ、マップ……ミニマップに表示が……」

「うお! 本当だ……」


さっきからなんか凄い興奮しているみたいだけど、なんでだろ? 二人ともWODFをやってるみたいだから……ゲーム画面と同じはずなのに。私には差がわからないんだけど……何か違和感を感じるな……


「あれ? なんかミニマップの片隅に黄色いビックリマークがあるんだけど?」

「あ、こっちでも見えるな……まさか……」


「あ、クエストね」


二人とも目を見開いてこちらの方を見る。


「し、知ってるけどさ!」

「え? ちょっと……現実世界でもクエストって発生してたの??」


何をおかしなことを言っているのだろうか? クエストなんて歩けばそこら中にあるのが当たり前じゃないか? 喜んでやっているプレイヤーばっかりなのに。なんでだろう?


私はクエストログを読む。どうやらとても困っている様なので早速移動をする。

なにやらプラスチック製の入れ物を持った人がキョロキョロと辺りを見回し、ベンチの下などを覗き込んでいる。


困って何かを探しているモーション、ベタな演出ね。こちらの世界でも同じとは。


「どうしたんですか?」

「え? あ、あの……ミーちゃんがいなくなって……」

「ミーちゃん?」

「あ、飼い猫の……あ、これが写真です……動物病院に行くのに勘づかれて……逃げ出して……」


「わかりました。探すのを手伝いましょう」

「え? 本当ですか? ありがたいんですけど……」


「……まじか」

「困った人を助ける……のがクエストだもんね……」


二人は驚いているようだったが、猫を探している女性はきょとんとした感じになっていた。

私はクエストログを見て、『猫のミーちゃんの姿を確認』 にチェックが入るのを確認する。

こういう時はスカウトの『探知』スキルを使うとよかったんだよね。『探知』っと……

私はミニマップに表示された「?」マークの方に行くと、木の上に猫が登ってこちらの様子を怯えながら伺っているようだった。


「え? ほんとにいるし……ミニマップの「?」マークってそう言う意味? 手掛かりなの?」

「探し放題じゃない……」


「クエストのものは探しやすいのよね。『コレクションメダル』は探しにくいんだけど……」


私はサポートAIとして、プレイヤーの『コレクションメダル』探しを手伝った事があるが。ミニマップに表示されない仕様だったため、世界中のいたるところを連れまわされた挙句に、疲れ切ったプレイヤーを慰め、課金をやめない様に誘導するのが大変だった様な記憶がある。それに比べるとクエストはいいわね。場所が表示されるし。


私はストレージから『猫のエサ』を出す。巨大な猫型魔獣から家ネコサイズまでネコ型ならなんでも自由に『ティム(懐かせる)』できるプレイヤーご用達のアイテムだ。


探していた猫のミーちゃんは『猫のエサ』に気が付くと、慌てて木の枝から降りてこちらへと近づいてくる。

「うお! 猫まっしぐらだ!」

「ちゅーるのCMみたいだね……」


私は二人が何に感動しているかわからなかった。目の前の猫の目がらんらんと輝いているのに気が付き『猫のエサ』を『ストレージ』から出したネコ皿に盛って、食べやすそうな地面に置く。


「にゃーん」


「さぁ、どうぞ……」


一心不乱に食べてるな。毛の表現もすばらしいな……あちらの世界より毛の表現が繊細でシャープに見える。アンチエイリアシングがうまくいってるのかしら? 撫でてみると、あちらの世界では感じられなかった触感におどろく。ふわふわでさらさらしている。

私は猫の上の『ティムゲージ』を見ると、みるみるとMAXに近づいていくのに驚いていた。

こんなに簡単に上昇するなんて……この子は弱いのかしら? 思わず私は『鑑定』してみる。強いネコは最低でも数十分はティムするのに時間かかるのに……ん? 腎臓結石? 病気かしら? 私は『健康ポーション』も与えて治療しようと、新たにネコ皿を追加で出した後に『健康ポーション』を注いでおいた。


「ねぇ、この子の上にゲージが……」

「見えるな……」


「パーティのプレイヤーの行動は視れるのは常識でしょ?」

「……そうなの?」

「ああ、そうだな……あちらの世界だと……普通はパーティと自分以外の表現は切るからな……ハハハ」


クレオが猫を見ながら若干ひきつった感じの半笑いを浮かべている。ネコが好きじゃないのかな……こんなに可愛いのに。

私はエサと健康ポーションを飲み干し、体を私の足に擦り付けてくる。この可愛い子をひょいっと抱っこして先ほどの依頼主の場所まで歩いていく。グルグルという音が聞こえるな……この可愛い体のどこからこの不思議な音が出てくるんだろう。


「ミーちゃん!! よかった!!……すごいですね……抱っこできるなんて。他人にはシャーシャーいう子なんですが……」

「え? そうなんですか? いい子ですよ」

「そうですか。ありがとうございます」


私は依頼主に手渡す。プラスチックの入れ物に入れられてるな。これで運んでいるのか……かわいいな……


「あ、お礼を……直ぐにあげられる物はないので……こちらに来てください。無料でセットします」

「え? ありがとうございます」


私は美容室の名前が書かれた名刺を渡される。恐らくそこの店員なんだろう。

彼女はお礼を言うと、何度かお辞儀をしながら急ぎ足でその場を離れて行った。

ちょっと疲れが……心労が溜まっている様に見えた。彼女にも『健康ポーション』を飲ませるべきだっただろうか?


【クエスト コンプリート!】


私たちのパーティの頭上には何時ものクエスト達成の文字が表示される。


「え?」

「……すげーな」


ログが流れ、三人の頭上に『Level UP!』の文字が浮き上がる。こちらの世界でもこの演出が出るのね。


「……まじか!!」

「え? レベルアップ???」


何故か三人ともレベルがとても低かったので、簡単なクエストでも上がったのだろう。経験値が隠されているWODFでは唐突にレベルが上がる事があるんだよね。


パラメータの鍛錬度や、スキルの習熟度は数値とバーで細かく表示されるのに。






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