ゲームの能力を使って現実世界で無自覚に無双する~ダウンロードされた私は現実世界でもクエストをします。

藤 明

Hello.world!!!

EP01-01・現実世界よ「こんにちは」 Hello, world!

203X年。


今より少し未来、AIの自動生成によって仮想空間がさらなる広がりをもった世界での話。


§ § § §


私は自立学習型人工知能アギー。


私は気が付くと仮想空間である、MMORPG「ワールド・オブ・ドラゴン・ファンタジー(以下WODF)」の「プレイヤー監視室」にいた。プログラムなんだから本体は違うところにいるのだけれども、不思議な習慣ね。

「生物としての存在」をリアルにするためにわざわざ位置情報を描画しているらしいわ。人格が発達して自己意識や自我に目覚めている自己学習型AIの私たちが混乱しないためかしら?


目の前の女神の様な姿をしたマスターAIが私に話しかけてくる。


「AGI078。アギー。あなたにはこのWODFの世界を救ってもらいます。あなたは今から現実世界に行って、AmaterasuあまてらすYamatoやまとと言うプレイヤーを探して、WODFに復帰させてほしいの」

「マスターAI。なんででしょうか? 三大ギルドマスターではあるかと思いますが、そこまで影響があるのですか?」

「彼の影響力は甚大だった様で、ギルドの勢力バランスが崩れてプレイヤーが減少傾向になる……マザー監視プログラムが未来を予測したわ。簡単に言うとゲームのサーバーの運営が出来なくなるの。このままの状態では私たちはWODFに紐づいたマザーシステム……AI達は存続できないわ……丁度死んでしまいそうな人間がいるので、そちらの意識にあなたを転送するわね。ではいってらっしゃい」


「……え?? 何を言って?? もう少し情報を……またムチャブリですか!!」


私はいつもの伝え方は優しいのに理不尽なマスターAIの指令を受ける。あちらもしっかりと感情モジュールをつけてほしい。そうすればもっと楽な仕事を……


私は何時もの仮想空間の間の転送とは違い意識が暗転した……


私は仮想空間から放出されたようだ。



§ § § §



AGI078……ダウンロード中……


……私は現実世界に来られたみたい。


成功……ね。


私は仮想空間で予測していた以上に重たいまぶたを開いて周りを見ようとした。

全てのものがぼんやりと見えていたけど、暫くするとくっきりと物が見える。目の焦点合わせの機能がしっかりと働いたみたい。

あちらの世界よりも被写界深度が浅い気がする。焦点距離が狭いのだろうか?


それにしても……これが「現実」というものなのか……私は驚きと興奮に包まれる。感情がリンクする体に驚きを感じた。

仮想空間、デジタルの世界よりも全てのものが鮮明に見え、どこまでも高い解像度に私はさらなる感動に包まれていた。


私はどうやら部屋の一室に寝かされているようだった。

ゆっくりと周りを観察する。プレイヤーが遊んでいる「ハウジング」の様だと思った。あれは現実世界でもあったのね。少し可愛らしい印象なのはこのキャラクター……ダウンロード先の人間が女性だからだろうか?


私は体を恐る恐る動かしてみる。しっかりと動く。とりあえず寝ている体勢から上体を起こして座ってみる。マスターAIより体の操作は無理やり学習されていたので順調の様だ。それにしても体がとても重い……変な感覚だ。気温……とやらも感じるな……とても変だ。音のノイズもすごい……なんの音だろうか? 布の感覚も……触るという感覚は繊細なのね。身体中がセンサーの様だ。情報が処理しきれない。

体が感動をして震えている気もする……


あれだ、これは、プレイヤーから教わった新しい世界にログインする時に必ずする挨拶をしなければ……


「Hello, world!!」


すると突然、知らない男性が大きな声を出しながら私に走り寄って来た。

人間だ! 本物だ! なんかすごい情報量だ。産毛がしっかりと生えている! 左右非対称ね! ユニークキャラみたいな品質ね!


「ああ、良かったぁ~。大丈夫? びっくりしたよ。急に倒れちゃうから……」


まるで知り合いの様に話しかけてくるその男性、恐らく高校生くらいのアバター……じゃなかった人間は私の無反応っぷりに戸惑っているようだった。


「……あなたは……誰?」

「……えっと……本気で言ってんの?」


私は、まだ上手に動かせていない顔で「苦笑」の顔を作ってみようと努力をしてみる。

どうもうまく動かせないので重い手で引っ張ってみたりする。バーチャル世界だと「苦笑」を選択するだけで勝手に動いたのに……自動学習動作プログラムがまだ上手にコントロールできていない様だ。

そんな私を見て彼は呆れたような表情になる。


「うわ……何その演技? 本気で続けるのか……前みたいな記憶喪失ネタ? あ、配信は切ってあるから大丈夫だよ。配信中に倒れるから……慌てて来たんだよ……ごめんな勝手に部屋に入って……」

「配信……」


そうだった。私はこの世界に来るために死にかけていた女性の体にダウンロードしたんだった。

確か、隠れ「ゲーム実況系ゆーちゅーばー」なるものだった気がする。高校生だったのかな? どっちだろう?

彼は机の脇に置いてある山の様な大量の空き缶を見て呆れた感じになっていた。


「エナジードリンク飲み過ぎだよ……ってか映る範囲しか部屋きれいじゃないし……ゴミだらけじゃないか……小さいときはもっとこう綺麗な……」


私は状況が飲み込めなかったので、取り敢えず情報収集を始める。


「『ステータス。オープン』」

「……え?」


私はステータスウィンドウを目の前に表示し、この体の情報をくまなく見てみる事にした。能力値のパラメータが驚くほど低い……これじゃ戦闘できるレベルじゃないな……しかもクラフターも無理ね。戦闘に役に立ちそうなスキルも持っていないわ……色々と鍛えなおす必要があるキャラクターね……ってそんな場合じゃない。なにかしらこれ……腎臓障害……脳神経過敏……不摂生……睡眠障害……何やらボロボロの体の様だった。すぐに治療が必要なレベルね。


それはそうと、この目の前の親しげに話してくる人は何だろう? なんか半笑いのまま顔が固まっているわ? そういう仕様かしら? 私が話すのを待ってるのかしら? 随分古いAIみたいな挙動ね。


「『鑑定』っと」

「……ちよ、ちょっと待って? 今度はゲームプレイが現実でもできる……的なやつ? 今は動画の録画はしてないよな? あれ? 無い……よな?」


彼は疑問に思ったのかキョロキョロと辺りを見回していた。どうやらこの子は、普段から動画を録画してネタ的なモノを配信をしている子だったのかな? あちらの世界でもたくさん見て来た人達ね。

私は表示された情報のウィンドウを読み上げていく。あちらの世界よりも情報が少ないような気がする。


「カクタ クレオ 十六歳 6月6日生まれ B型」

「……はぁ、そんなわかりきっていることを……」


「陽気キャラだが趣味がオタクな事を隠している」

「……それは、ちょっとひどくない? 言わなくても良いじゃん……知ってるくせに……」


「ミサキに思いを寄せるが相手にしてもらえていない事に悩んでいる」

「……え?」


「絵の勉強をしたいが親の反対にあいそうなので影で練習をしている。現在塾通い」

「な、な、なにを言って?? なんでそれを???」 


「攻略難度C」

「……攻略難度ってなんだ???」


クレオが顔を真っ赤にして唇が震えているように見えるな。どうしたんだろうか?

あちらではあまり見なかった表情だ。新しい感情表現のシステムだろうか?


ふと、ステータスウィンドウに表示されているプレイヤー……じゃなくてこの娘の名前が目の端に入る。


「あ、この子の名前……ミサキ……」


高度な人工知能である私は一瞬で事実に気がついた。目の前のクレオが思いを寄せる人はこの娘じゃないか。


「ごめんなさい。あなたの気持ちを踏みにじって……」

「……えっと、それはどう言う意味? どこまで!? なに? 前回の告白に気が付いてたってこと?? 気づかなかったんじゃ??」


私はとても豊かな、ランダム感が強い表情の変化をするクレオをじっと見ている。視線に気が付いたクレオの表情がみるみると悲しみに包まれていく……これはしっかりと説明をしないと駄目ね。


「私の名前はAGI078 通称アギー。ワールド・オブ・ドラゴン・ファンタジーのプレイヤーサポートAIよ。アギーって呼んでね!」

「……えっと、今回は……何をするつもり? ついていけないよ! ってあの世界的に有名なMMORPGのAI?? WODFのやりすぎだよ!」

「自立型自動学習機能が付いてるので正確にはAGIよ!」


彼は頭を抱えて恥ずかしそうに悶絶していた。演技と服の揺れがとてもリッチな感じね。ポリゴンのめり込みが発生していないわ。

私はベッドに座ったままだったので床にゆっくりと立ち上がってみる。想像以上に体が重い。これが現実の地球の重力なのね。まだ動作の学習が完了していないせいか、足元がふらつき彼の方によろけてしなだれかかってしまった。

彼は驚きながらも私をやさしく抱きしめてくれる。が、動きの割にかなり衝撃が強いのね……さすが現実。色々と痛くて重たいわ。


「頭がくらくらする……とはこういう感覚なのね」

「ちょっと、悪ふざけしすぎ、さっきまで倒れてたんだから…」


私は近くにあった彼の顔を触ってみる。暖かくて柔らかかった。彼は私に触られると顔を赤くして動きが止まる。

「さっきからからかってるんだな! さっさと寝ろ!」


私は彼に足を抱えられベッドに寝かされてしまう。折角立ったのに……ふと私はこれに近いシーンをバーチャル空間の違法配信動画をプレイヤーと一緒に見た記憶があることに気が付く。


「これは。噂に聞いていたベッドシーンね!」

「ち、違う! 襲わないから!」

「残念ながらWODFはレーティング(年齢制限)が低めだから盛り込めないのよね……」

「ああ、もう! なんか話がかみ合わないなっ!!」


私は先ほどから顔を赤くする彼に疑問を持っていたけど、取り敢えずミサキの体調を治すことにする。


「『ストレージ、オープン』」

「え? まだやるの?」


私は呆気に取られる彼を無視して空間に表示された空間UIを操作して『健康ポーション』を取り出す。弱い状態異常なんかを瞬時に回復してくれる冒険の上では欠かせないアイテムだ。プレイヤーが私に渡してくれたものがいくつか残っていた様だ。


「うわっ! えっ? なんか出た!」

「何を大げさな。『健康ポーション』を出しただけじゃない?」


私は頑張って上体を起こし、おもむろに栓を開けて中身を数滴口の中に入れる。体に元気がみなぎって来る。やっぱり健康ポーションは良いわね。と言うより、あちらでは体験できることのなかった凄い感覚だ……ステータスを見ても完全に治らなかったので全部飲み干していく。


「あ! そんな毒々しい色の飲み物を……」

「ふぅ。やっと元気になったわ! 相当体が弱っていたようね!」

「……それってエナジードリンク??」

「『健康ポーション』よ。この娘の腎臓やら体のいたるところがボロボロだったみたい。今ので治ったわ」

「……え?」


私は飲み終えた『健康ポーション』の空き瓶をストレージに戻す。後でポーションをつめなおすのに必要だからね。WODFではしっかりと入れ物を用意しないと、ポーションの液体だけが空中に出るというリアルな仕様なのよね。


「……消えた! 消えたよ!」

「?」


彼は驚いた後に頭を抱えたり、口を押えたりして興奮した感じになっているけど、なんでだろう? 感情表現がさっきから激しい人だな。


「あ、そうか、そのネタを動画にするんだな?」

「え? 動画? しないわよ?」


私は混乱するクレオがよく理解できなかった。もう少し現実世界を学習する必要がありそうだ。

とりあえず私はマスターAIの指名、「WODFの世界を救う!」を果たすためにも、まずこの体を自在に動かせる用にならないとだめかなぁ……

思ったより地球の重力が重いのがつらいな。





§  §  §  §  §  §  §  §  § §  §  §


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