第7話 三者面談

 そして6月。

 三者面談の日が来た。

「初めまして。玲香の父親です。娘がいつもお世話になっております。」

 そう丁寧にお辞儀をしたのは、間違いなくあの男だった。

 告別式で見た男。

 真野光成。

 黒髪で整った短髪。体つきも良くスマートな出で立ち。あの時感じた違和感はそのまま残っていた。まさかこんな人が、というざらつき。


 心臓が跳ね上がるのを抑えながら会話を進める。


 真野はこちらの質問に丁寧な受け答えをする。

 笑顔を崩さない。こちらの言葉にリアクションもきちんとしてくる。

 拭えない違和感を抱きながら会話を進める。

「実はアメリカの大学に行かせようと考えてはいるんですよ。」

「アメリカですか・・・。」

 進路の話になると予想していなかった言葉が出てきた。

「日本の大学に行かせても良いんですが、今後の事を考えると海外の方が将来有利だと思うんですよ。」

「まぁ。それはそうかもしれないですね。それじゃあ真野自身もアメリカ進学を考えているの?」

「・・・。」

 真野玲子はこちらの言葉に答えずに目線をそらしている。

「玲子、ちゃんと先生の質問に答えなさい。」

「・・・。」

「先生すいません。普段こんな感じじゃないんですが、今日私が来たことに恥ずかしがっているのかもしれません。」

「・・・そうですか。」

 真野玲子は目線をそらせたまま。

「そうですね、そこら辺はゆっくり本人からもお話聞ければと思います。」

「宜しくお願い致します。」

 父親は笑顔で頭を下げる。娘の方は変わらずに目線をそらせたまま。

「・・・。」

 父親を毛嫌いしているのか、それとも恥ずかしいだけなのか、どちらとも受け取れる仕草だった。

「それじゃあ先生、今後とも宜しくお願い致します。」

 面談の最後、父親は笑顔でこちらに手を出してきた。

「・・・宜しくお願い致します。」

 一瞬だけ間が空いてしまったが、こちらも手を出し握手をする。そして父親は帰って行った。

「お父さんと一緒に帰らなくていいのか?」

 娘に問いかける。変わらずに無表情でよそを見ている。

「じゃあ、これで終わりだから真野も帰っていいぞ。」

 そういって帰るように促した。

「・・・。」

 しかし真野は動かない。

「どうした?」

「先生は・・・。」

「ん?」

 真野はまっすぐ前を見ながら話す。

「うちの父はどう見えましたか?」

「そうだな・・・がっしりしてて礼儀正しくて頼りがいのありそうなお父さんじゃないか?」

「・・・そうですか。」

「なんだ?何かあるのか?」

「いえ、なんでもないです。さようなら。」

 真野はそういって去ってしまった。

「・・・。」

 何が言いたかったのだろうか。二人の仲は上手くいっていないのだろうか。こちらは当たり障りのない答え方をしてしまったが、真野の望んだ答えは何だったのか。

 少し混乱したまま真野の背中を見送った。

 

 

 


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