第2話 担任

 4月。新学期。2年Aクラス。

 教員になって今年で4年目になる。だいぶ慣れてはきたがまだまだアクシデントなどの対応には戸惑ってしまう事がある。

「とりあえず自己紹介から始めようか。」

 新しいクラスで初めてのHR。生徒はなんとなくお互いを探りながらこちらを見ている。

「じゃあ始めは先生から行こうか。え~、私の名前は乃木達也です。27歳。担当教科は現国です。高校時代の部活はバドミントン部でした。趣味は特にありませんが寝る事は大好きです。以上です。今年一年宜しくお願い致します。」

 パチパチパチとまばらな拍手が起こる。

「こんな感じで今度はみんなにやってもらいたいと思います。じゃあ席順で行こうか。じゃあこっちの一番前の荒井さんから。」

 と窓側の一番前を指名する。

「はい。あの、えっと、荒井美香です。好きな科目は数学で、苦手な科目は体育です。宜しくお願いします。」

「じゃあ次、その後ろ。」

「はい!佐倉京介です!好きな科目は体育で、苦手な科目はそれ以外です!宜しくお願いします!」

 宇和島の言葉にみんなが軽く笑う。この言葉のおかげでクラスの緊張が少し緩んだのを感じた。

 その後もそれぞれの自己紹介は進んだ。ふざける者、真面目な者、声が小さい者、それぞれだった。

 ただ、気になる生徒が一人いた。それは自己紹介に特徴があった訳ではなく、その前から気になっていた生徒だ。

 名前は真野玲子。

 一年の時は担任ではなく、二年になって初めて接する事になる。

 一言でいうと真野は美人な生徒だ。身長は154位だろうか、黒髪でショート。一見して大人しそうな雰囲気があるが、しっかりと芯のある表情をしている。

 けれど私が気になったのはそこではない。引っかかったのは真野の学籍簿だった。学籍簿には本人の住所や親の名前、勤め先まで書かれている。私はここの担任になると決まってから一通り目を通した。そして真野の学籍簿で目が留まった。


 父・真野光成 52歳 河元出版勤務

 

 この名前と勤務先を見た時に「まさか」と思った。こんな偶然起きるはずがないと。ただ時間がたっても胸のざわめきは収まらなかった。仕事が終わっても、家に帰っても、次の日になっても気になってしょうがなかった。

 名前も勤務先も、そして年齢ははっきりはしないが違和感を覚える年齢ではない。だから真野怜香の自己紹介の時には変に緊張してしまったのだ。

 何か父親に関する話が出てくるかもしれない。

 そう思って話を聞いたが特別な事は話さず、みんなと同じような自己紹介で終わった。当たり前だ。分かってはいたけれどどこかで期待していた。


 真野光成。


 ・・・・。


 もし自分が思う人物で間違いなかったらどうするのだろうか。

 私は一体何をするのだろうか。


 真野光成。


 この男は10年前に自分の兄の「乃木裕樹」を人生を不幸にした人間なのだ。

 

 

 

 

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