ワールド・ダンジョン・クライシス ──現代にダンジョンが現れて世界の危機ですが気ままに冒険します

三瀬川 渡

第1話

 


 日本時間の7月1日、午前8時丁度。

 突如として世界中を謎の巨大地震が襲った。


 しばらくして揺れは収まり、その場で頭を押さえて蹲っていた人々が恐る恐る顔を上げると、世界中で巨大な扉が出現していた。



 ────────────────────


 幼い頃から冒険への強い憧れがあった。


 しかし現代において、あらゆる未開の地は踏破され尽くし、未知の場所を冒険するのならば深海か宇宙へ行くかしかないだろう。

 それでも、人類があっと驚くような発見は恐らくそうそう期待できない。


 フロンティアスピリッツなど僕が生まれた時代には既にフィクションの中だけの存在でしかなかった。



 僕の名前は久保幹兎くぼみきと

 高校に通い始めて3ヶ月程の高校1年生。


 僕の家は母子家庭で、父は僕の物心つく前に他界してしまっている。

 生活に困窮するほど貧しい訳ではないが、それでも他の家庭よりはお金に余裕がないということを小さい頃から何となく察しており、なるべくお金の掛からない趣味を持つことが多かった。

 父の遺した古めの漫画や小説を読んだり、要らない紙の裏に落書きをしたりというものだが、どうしても周りの子達の話題に着いて行けず、少しずつ1人で居る時間が増えていった。


 これは生まれ育ちよりも僕の内向的な性格が主な原因かもしれないが。



 そんな僕は今、滅茶苦茶困っていることがある。


 今日は学校が休みだったので1日ゴロゴロするぞーと意気込んでいたのだけど、朝っぱらから凄い大きな地震に叩き起こされるという最悪の目覚め。

 半分寝たままの脳みそで必死に頭を守りながら、母と2人暮らししている格安中古物件が軋む音を耳に刻んだ。


 地震が終わる頃には意識が覚醒し終え、状況確認の為に部屋を見渡すと、部屋のど真ん中にバチクソデカいドアがおっ立っていた。


 えっ、どこから?

 っていうか、死ぬほど邪魔なんだけど……。


 部屋中に散乱する小物を踏まないよう、ドアのようなものの周囲を回って観察してみたがどう見てもドアだ。

 上辺が天井にめり込んでることから察するに、高さは3メートル程で横幅は1.5メートル位だろうか。

 質感は黒くて頑丈そう。


 ドアの中央部には“Pray to realm.”とかよく分からない英語が書かれてある。


 突然現れたってことは漫画とか小説とかでよく見るファンタジー的なやつかもしれない。


「あっそういえば、凄い地震だったけどお母さん大丈夫だったかな」


 スマホを見ると通信がかなり不安定な状態だった。

 皆が一斉に連絡を取ろうとしているのだろう。

 とりあえずコミュニケーションアプリであるレインを起動し、母に「無事、部屋にいる」とだけ短く送ってすぐに圏外になってしまった。

 あぶな。


 残る問題は部屋の中に突然現れた黒い扉である。

 どうしたものか。


「触ったら意外とあっさり動いたりして──」


 そう言いながら黒いドアに触れると、光沢のある黒い扉は煙のように消えてしまい、黒いドアの枠だけが取り残される。

 開け放たれたドア枠の向こうは石畳の通路のようなものが続いていた。


 えっ。


 薄い扉が一枚立ってただけだよね?

 どうして通路が?


 ……。


 やばい。生まれて初めてこんなワクワクしている。


 こういうのって日本では規制が入りそうだし、探索するのなら今の内だろう。


 入って……みるか。


 そう思って中を覗いてみると、内部から今の時期にそぐわない涼しい風が流れ込む。

 中はかなり涼しい。

 長袖を着た方が良いかもしれないな。


 そんなことを思いながら、やや薄暗い通路に目を凝らすと、奥にテカテカ光る何かがいるのに気がついた。

 ナメクジだろうか。



 僕はキッチンから塩を袋ごと持ち出し、ジャージの上下に着替え、スニーカーを履いて枠の中へと踏み入れた。

 中は壁自体が微弱に発光しているのか薄暗いが、歩けない程ではない。


「中はやっぱり涼しいな……」


 今は7月の頭だというのに内部は凄く涼しい。

 一体どうなっているのだろう。


 等と考えていたが、通路の奥から微かに聴こえてくる水の跳ねるような音が僕の意識を思考の海から引き戻した。


 ぴちゃん、ぴちゃん。


 そういえば、中にぬるぬるの何かが居るんだった。

 最初に見たテカテカ光る存在を思い出す。


 石畳の通路の先に目を遣ると、丸っこい水色のブヨブヨとした存在が体を震わせながらゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 透き通った色のぷるぷるとした何か。


 もしかして、スライム……かな?

 あの扉はもしかして別の世界に通じる扉だった?


 スライムと仮称を付けた生き物は僕の存在を認識したらしく、体を小刻みに震わせている。

 こうして見ると可愛い……かもしれない。


 そんなことを考えていると、突如スライムが何か少量の液体のようなものをぴゅっと噴き出した。

 それがジャージの裾に付着すると、煙をあげて裾の端が溶け始める。


「うおわああああ!!貴重なジャージが!!」


 他人に聞かれたら社会的な立場が危うくなりそうな叫び声を発しながら、僕は持っていた塩を反撃とばかりにスライムへとぶち撒ける。

 大量の塩に水分を吸われたスライムは急速に体積を失い、萎んでいく。


 最後に小さな丸い透明な物が残ったが、恐らくスライムのコアのような物だと判断し、念の為に潰しておく。


 ──────────

【ステータスが発現しました。『つよさをみる』と唱えるとステータスを確認できます】

【固有スキル、『初回限定ドロップ』を入手しました】


 名前:久保幹兎

 所有ポイント:1

 固有スキル:初回限定ドロップ

 スキル:無し

 [機能]

 ──────────


 突然目の前の空中に四角いウインドウが表示される。

 うわっ、何これ。


 無意識の内にスマホ感覚で初回限定ドロップの文字をタップすると、新たな説明が表示される。


【『初回限定ドロップ』:初めて倒したモンスターから初回限定で1番ドロップ確率が低いアイテムをドロップする】


 なんかゲームみたいだ……。

 ちらりとスライムのコアらしきものを潰した場所を見ると、サッカーボール大の虹色に輝く水晶のようなものが落っこちている。

 慎重に触れてみると、【スライムのスキル結晶・全】という表示が出てきた。


 なんか貴重なアイテムかもしれない。

 ビニール袋に入れて持って行こう。


 スキル結晶というアイテムは水晶のように所々尖った部分があり、ビニール袋に入れると袋が少し破れてしまった。

 重さも結構重く、もしかしたら軽めのボウリングの球位の重さがあるかもしれない。


 まあ、持ち運べるし良いだろう。


 迷わないように油性ペンで壁に矢印を描き、更に奥へと進んでいく。

 既に塩は使い果たしてしまったのでスライムは避け、左右の別れ道をクラピカ理論で右に進んだり、心なしか風が吹いている方向を目指して進んでいく。


「結構奥まで続いてるのかな。どうしよう、一旦戻った方がいいかな?」


 と、悩んでいると下へと降りる階段らしき物を視界に捉えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る