勇者病

この世界の子供たちが一度は罹患する精神疾患であり、その症状は大まかに分けて二種類あると言われている。物語や噂話しの冒険譚に憧れ、派手な技を出し大活躍する全能の自分を夢想する“お花畑思考”と、強い自分を夢見て日夜鍛練を行う事でいずれ至るであろう最強の姿を幻視する“俺様最強思考”。

前者は挫折しやすく飽きやすい。ちょっとした訓練でもすぐに弱音を吐くが、変に自尊心ばかりが高く扱いが難しい。

後者は只管に自分を追い込み易く、痛みや苦しみを自身が強くなっている証拠と勘違いし、誤った鍛練により成長を阻害してしまう危険性がある。ただし弱音は吐かず言われた事は黙々とこなすため、指導者の導き次第では大きく化ける可能性がある。

それらの特徴から、前者を“仮性”、後者を“真性”と呼んだりする。


“勇者病”(真性)には二種類のパターンがあると言われている。一つは剣の道に目覚め邁進する者、多くの真性患者に見られるのがこの“剣の勇者様”の症状である。


もう一つの症状が魔法の道を極めんと勉学に励む“魔法の勇者様”症状。これは日頃から魔法の知識に触れる機会の多い貴族の子女に見られる症状で、平民ではまずないと言われている。

この“魔法の勇者様”を発症した場合、研鑽の末授けの儀の前に魔法を行使する子供もいると言う事は広く知られており、病状が発覚し次第魔法の教師を付けると言う事は貴族間ではよく行われている事である。


勇者病による魔法の発現、この現象は主に<仮性>の症状で多く見られると言われている。

頭部に意味も無く包帯を巻いて片眼を隠し、“我が魔眼はこの世の全てを破壊する。”とか、左腕に包帯を巻いて“我が身に封印せし邪神の力がこの身を焦がす。この封印の左手が全てを薙ぎ払う!”とか言ってる子供たちにとって、魔法の詠唱はもはやご褒美の様な物である。

積極的に取り入れ独自の呪文を作り出す彼ら、そんな彼らの中には意図せず本当に魔法を発動してしまう子も現れる。そして有頂天になり魔力枯渇でぶっ倒れると言う所までがセットである。


そして極々稀にそんな<仮性>の症状を持った<真性>症状の子供がいる。そんな彼らの事を“勇者病”の中の“勇者病”、“勇者病”の頂点、“勇者病”<極み>と呼ぶのである。

特に高位冒険者の中にはこの<極み>が多くみられる。ストイックに己を鍛え上げる勤勉さ、夢見がちに高みを夢想する無謀とも言える勇敢さ。この二つが上手く嚙み合った時、人は更なる次元に上り詰める事が出来る。高位冒険者とはそうしたどこかイカレた人間の集団なのである。


無論そこに行き着く事が出来ず、儚く散って行く命の方が遥かに多いのも<極み>の特徴である。


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