13

「では、着いてこい」


 そういうと、ネアトは四人に構わず部屋を出て行ってしまった。


 残された四人は、どうすると視線を飛ばし合ったが、真っ先に決断したポロンが立ち上がった。


「行く」


 そういうと、風のように部屋を出て行った。


 目は虚ろでおしゃべりではないが、決断の早さは疾風と同じ。こうと決めたら周りなど見てないのだ。


 残された三人もしょうがないと肩を竦めてから部屋を出た。


「どっちに行ったんだ?」


 先に出たロロが左右を見るが二人の姿はどこにもなかった。


「まったく、落ち着きがないんですから!」


「相変わらず素早い子ね」


 怒るシャルロに苦笑するララン。


 自分たちと同じくあの地獄をクリアし、格闘技も自分たちに匹敵する。ただの虚ろ目と見ていたら痛い目に合うことだろうよ。


 ……しかも表情が読めない子だからね、一旦目を離したらそう簡単には捕まらないのよね……。


「ちょっとララン!なんとかしてくださいな!」


「ララン、どうするよ?」


 二人が一斉にラランを見た。


 ……だからどうしてあたしにいうのよ……。


 三人より常識を持ち抜け目ない女だから。と、全然自覚していないララン班長であった。


 ため息一つ吐き、内ポケットから禁止されている携帯通信機を取り出して操作する。


 画面には訓練所の上から見た概略図が現れ、操作するごとに建物の角度が変わって行く。


 いずれこんなことが起こるだろうと予測していたラランは、ポロンの携帯通信機に発信器を仕掛けておいたのだ。


「うん。二番ゲートに向かってるわ」


「さあ、行きますわよ!」


 まるで自分が見つけたかのように胸を張り、着いてこいとばかりに2番ゲートがある方に進み出した。


「感謝の言葉はなしかい」


 内ポケットに携帯通信機をしまいながらラランが苦情をいうが、そんなものを聞く二人ではなかった。


「なにしてんだ、早くこいよ」


 まるで手間の掛かる妹を呼ぶような口調と態度を取るロロ。


 気の短い者なら怒るところだが、ラランが一番の変わり者(問題児)。監視カメラに向かって肩を竦め、先を進む二人のあとを追った。


 元中央ターミナルから元貨物搬送庫を通り抜け、教官たちのスカブ・シードがある格納庫へと続く二番ゲートを出たところでネアトとポロンに追いついた。


「おっ、さすがだね」


 やってきた三人へと振り返り、ネアトはおもしろそうに笑った。


 勘の良い少女たちは、先程の行為が自分たちを試すものだと理解した。


「ふん! あのくらいで引っ掛かる程マヌケではありませんわ!」


 まんまと引っ掛かったのだが、それを認める程シャルロは素直ではなかった。


「それより説明していただけません? わたくし、頭ごなしの命令されるのや小バカにされるのが嫌いですの!」


 百人が百人、お前は命令される立場だろうと突っ込むこと間違いなしだが、自分を貫くタイプに突っ込んでも無駄。逆に突っ込まれるのがオチである。そういうタイプをコントロールしたいのならそのまま前を向かせたまま、足を引っ掻けてやるのが1番である。


 ……ほんと、おれも引っ掻けられたっけ……。


「それは失礼した。シャ★○◆■」


 真面目な顔で足を引っ掻けてやろうとしたが、シャルロの怒りが余りにも可愛いいので上手く言葉にできず、更にシャルロを怒らしてしまった。


 そんな光景を見ていたラランとロロは驚いた。


 シャルロは、表面的にはキツく自己中心的な女に見えるが、決して嫌な女ではない。無知無能でもない。いったことは守るし、人を傷つけるようなことはしない。そんなこと本人にいったら激しく否定するが、シャルロはとても可愛いい娘である。この中で一番女の子らしいと断言できるくらい乙女であった。


 ……この男、あれだけの時間でシャルロの本性を見抜いている……。


 当然である。この手のタイプは経験済みだし、そういうことにも勘は鋭いのだ。


「シャルロ」


 噴火まであと3秒といったところでラランが抑揚のない声でシャルロを制した。


 まるで冷気を吹き掛けられたようにシャルロから怒りが消え、フン! とそっぽを向いてしまった。


 ……ふふん。なかなか人を扱うのが上手いこと……。


 ネアトの視線に気がついたラランは、ことさら良い笑顔をして見せた。


「それで、どこに行くんですか?」


 ……やれやれ。この娘が一番見ていて恥ずかしいよ……。


「これからおれのスカブ・シードに行く。そこでお前らのパイロットスーツを作る」


「パイロットスーツ?」


 ポロンがネアトを見ながら首を傾げた。


「ああ、ポロンだけのパイロットスーツを作るんだよ」


 その可愛いい仕草にネアトは微笑み、ポンポンと優しく頭を叩いた。


「んじゃ、こんどはしっかり着いてこいよ」


 いって格納庫へと進み、自分のスカブ・シードへとやってきた。


 ネアトが新しく選んだスカブ・シード──『ソジュア工房』製の機体は、汎用性に富み、戦いから偵察、防衛にいたるまでこなすばかりか初心者にも扱い易く、変革し易機体でもあった。


「わたくし、『ニドスー工房』製が好きですわ」


「オレは『シャラズ工房』製だな。なんたってリグ・シードがカッコイイもんな」


 シャルロの呟きにロロが乗った。


「そうだな。どちらも二人に合ってるな」


 工房ごとに特性があり、相性がある。ネアトも全ての工房製に乗ったが、一番相性が良いのは『ソジュア工房』製であった。


「それに根拠はあるんですの?」


「あるよ。けど、どうしてかは内緒」


 シャルロの険しい眼差しを笑顔で受け止めた。


「中佐もいちいち構うのは止めてください。シャルロも軽く受け流しなさい。いつまで経っても話が進まないでしょうが」


「受けよめと受け流そうとわたくしの勝手ですわ」


 プイとそっぽを向くシャルロ。行動パターンも可愛いい乙女だった。


「早くして」


 いつの間にかタラップを昇ったポロンが四人を見下ろしていた。


「おっと、悪い悪い。では、我が愛機にどうぞ」


 三人を促し、タラップを昇った。

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