第5章  風雲、風塵①

 エラン地方。国境という名の辺境。森の中の大洞窟の1番奥に、黒ずくめの十数名の武人の姿があった。100人程が洞窟の外で待っている。、


「これか」


 黒ずくめの男達のリーダー格と思われる者がニヤリと笑った。

 古い剣が1本、大地に刺さっている。


「とりあえず抜いてみるか」


 男は剣を握った。握っただけで強烈な電撃を受けた。男は痛みに顔をしかめて手を引いた。


「やはり魔術か。おい、この剣の魔法を無効化しろ」


 10名ほどの男達が呪文を唱え始めた。だが、なかなか終わらない。


「まだか?」

「申し訳ありません。もう少しなのですが」

「では、最後の手段だな。娘をこちらへ」


 1人の美少女が連れてこられた。進軍の途中で誘拐した村娘。年齢は14~15歳といったところだろう。


 リーダー格の男が、娘を地面に刺さった剣の前に引きずり出した。剣を抜き、娘の首をはねる。血が飛散する。リーダーの男は、美少女の生首を掴んで剣にたらふく血を浴びせた。剣が血を帯びて真っ赤になった。


「生娘の生き血で眠れるドラゴンを起こし、剣を引き抜きやすくした。お前等、もう一度呪文だ」


 また呪文が唱えられ始めた。リーダーは待ちきれず剣を握る。雷撃を受けたような激痛。しかし、先ほどよりは軽い痛みだ。リーダーは引き抜けると確信した。


「ぬおおおおおお」


 リーダーが全エネルギーで魔法を発動した。すると、少し剣が動いた。


「もう少しだ」


 呪文を読み上げる声が大きくなった。

 剣が光った。引き抜かれたのだ。先ほどまでの古びた剣ではなく、新品のような輝きを放つ剣に変わっていた。剣が蘇った。それは、ドラゴンを封印していた伝説の聖剣だった。


 その時、大きな地鳴りがした。


「ドラゴンが目を覚ます。帰るぞ」

「本当にこれで良いのですか?」

「ドラゴンを復活させて、剣をいただくことが出来た。一石二鳥ではないか」


 男達は洞窟から出て、待っていた100騎と合流。全速力で自分たちの根城に帰っていった。



 それから約1時間が経過して、洞窟からドラゴンが這い出してきた。


「ゴーッ」


その雄叫びは近隣の村まで届いていた。



 ドラゴン復活の報はすぐに国内に知れ渡った。当然、討伐隊がスグに編成された。その数、1万人。隊長はリー将軍。副将はシュウ将軍。


 僕は久しぶりにリーやシュウと再会した。


「レン、元気だったか? 千人長まで出世したらしいな」

「はい。護衛隊にいたときに鍛えてもらえたおかげです」

「元気そうで良かった」

「無茶をさせてくれるので、逆に出世がしやすいです」

「500騎で3000人を相手にする、とかだな。噂は聞いている」

「はい、私は疎まれているようですね」

「ソフィア様の件か?」

「はい。ですが、お二人が抜けてソフィア様の護衛の方は良いのですか?」

「何人か人員補充をしたから大丈夫だ」

「今回は安心しろ。いくらドラゴンが相手でも1万人いるからな」

「1万人とは大袈裟に聞こえるかもしれないが、念には念をいれないとな」

「私も微力ながら最前線で戦います」


 その時、1人の兵士が走ってきた。


「リー様、シュウ様、レン様、ご客人です」

「誰だ?」

「ライ様という千人長とロウ様という千人長です。あとは、シローという方が…」

「レン、知り合いか?」

「はい、同じ学校でした」

「では、ロウというのはあの時の大会の優勝者か?」

「よく覚えてらっしゃいますね」

「会ってみよう」


 すぐに3人が現れた。お互いに挨拶をした。


「ライは何故? お前は東部方面軍だろう?」

「レンのことが気になったからな、上司に直訴して来た」

「ロウは?」

「俺も同じようなものだ」

「ロウはまだ士官学校生だろう?」

「学徒動員、希望したら前線に出られるんだ。何度か戦場に出たら千人長になった」

「シローは?」

「俺もレンに会いに来た。雇い主の許可は得ている」

「そうか、みんな、ありがとう」



 1万人に、ライとロウが千騎ずつ連れてきたので1万2千人になった。

 僕達は翌朝出発する。







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