第7話 検証班の女性
次の日。
待ち合わせをしたダンジョンのゲート前でボンヤリと立つ。
今日は第二層に行くつもりだったので、目覚まし時計とハリセンを持ってきた。
左手に目覚まし時計、右手にハリセンの万全な体制だ。
しかし……周囲からの奇異の視線が気になる。
初日にここに来たときも似たような視線を浴びていたからな。
そんな変な格好をしているつもりはないのだが。
「あっ、スレ主さんですよね!? お待たせしました!」
ボケーとしていたら、そんな声が聞こえた。
声の方を見ると、黒髪ボブのパンツルックのスーツを着た女性がいた。
ザ・キャリアウーマンみたいな人だ。
「ええと、検証班の方ですか?」
「はい、そうです! 今日はよろしくお願いしますね!」
俺が尋ねると、彼女はにっこりと笑って頷いた。
感情表現が豊かというか、とても明るそうな人だった。
検証班と自分で言うあたり、もう少し理屈っぽい感じの人かと思っていたが。
全くそんなことはなさそうだ。
ちなみに彼女はダンジョンにある裏技を探し検証するのが趣味らしい。
自分のスレのくせに、あまり流れを追ってないからどんな会話が繰り広げられてるかは分からないが、かなりいろいろ調べているみたいだった。
「それじゃあ、早速いきますか! 第二層でよかったですよね?」
「はい。今日は第二層の裏技を試してみようと思いまして」
彼女の問いに俺は頷く。
そして一緒にダンジョンのゲートをくぐりながら話をする。
「そういえば自己紹介がまだでしたね! 私は
「おお、ご丁寧にどうも。俺は
まずは第一層の草原に出て、第二層に続く遺跡を探すことになった。
第二層へ行くには、転移陣の置かれた遺跡を探し出す必要がある。
一度第二層に到達してしまえばゲートをくぐった直後にどの階層に行くのか選択できるようになるが、最初の一回だけは自力で転移する必要があるのだ。
並んで草原を歩き遺跡を探しながら俺は泉さんにこう尋ねた。
「裏技の検証とか始めたきっかけってなにかあるんですか?」
「きっかけですか……。そうですね、強いて言うならOLでいることに嫌気がさしているから、ってのが一番ですかね。社会の歯車ではなく、社会を動かす側の人間になりたかったんです」
「ふぅん。でもそれだったら、普通に自分で探索者をやればいい気がしますけど。わざわざ裏技を検証していく必要はないような」
「……私は、どうあがいたって主役にはなれないんですよ。二十二年前、幼かった私は本当の主役に出会ってしまって、それから主役になることを諦めてしまったんです。だから埋もれている主役を引き立てる役を演じようと思ったんです」
なるほど。
なんだかいろいろ考えているみたいだ。
「って、まあ、私の話は置いておきまして! あれ、第二層に続いている遺跡じゃないですかね?」
照れるように頬を染めて顔をそらすと、泉さんは草原のある一点を指さした。
そこには確かに遺跡らしきものがかすかに見える。
「おっ、ほんとですね。案外早く見つかりましたね」
「ええ、よかったです! それでは早速第二層に上がってしまいましょうか!」
そうして俺たちは遺跡の方に足を運ぶ。
十分ほどで到着した。
崩れかけの神殿みたいな場所で、石の柱がきれいに並んでいる。
その中央にどうやら転移陣が設置されているみたいだった。
「この中央に立って十秒ほど経つと勝手に転移されるんですよ!」
「へえ、そうなんですね。ちなみに泉さんは何層まで行ってるんですか?」
「私ですか? 私は三十四層ですね!」
三十四層。
そりゃすごい。
ダンジョンの最上階は百層だと言われているが、現在トップ探索者でも五十層前後が普通らしい。
三十四層ともなれば、中級者は全然名乗っても問題ないレベルだ。
それでも探索者として活動しないって、自分の中のハードルが高いのだろうか?
ともかく、俺たちは遺跡の中心に立って転移を待つ。
泉さんの言うとおり、十秒ほどで転移陣が起動し、第二層に降り立つのだった。
***
「それじゃあ、これから配信してもいいですか!?」
第二層に降り立つとすぐに泉さんがそう言った。
そういえば今回の目的の半分はそれだった。
「はい、もちろん構いませんけど。面白いこととか言えませんからね」
「それは大丈夫です! 全部任せてください!」
そう言いながら、泉さんはいそいそと鞄から配信用の道具を出す。
どうやら最新の自動追跡型のドローンで撮影をするらしい。
彼女が組み立てるのを待っている間ボンヤリとしていたら、男二人組が近づいてくるのが見えた。
「あの、ちょっといいっすか?」
そのうちの一人が俺たちに向かって話しかけてくる。
髪を染め、チャラチャラしたアクセサリーを身につけていた。
顔立ち的に大学生くらいの年代だろう。
「はい、どうしましたか?」
「あ、いや。本気でその装備で第二層に挑むのかなって。お姉さんもそんなみすぼらしいオッサンについて行くと危ないですよ」
「特にオッサンなんて何をしでかすか分かったもんじゃないですからね。俺らと一緒にいた方が安全だと思います」
男二人は俺たちに向かって相互にそう言ってきた。
言い方は丁寧だが、どこか小馬鹿にしたような雰囲気を漂わせている。
強い言葉で言い返して無駄な争い事にする気もないし、適当なことを言って帰ってもらうか。
そう思っていると、目の前にいつぞやの半透明の板が現れた。
――――――――――
『管理者権限Lv.2』を使用して『プレイヤー名:ミシマ』と『プレイヤー名:スズキ』に『弱点:女性』を付与しますか?
YES / NO
――――――――――
……む?
これって裏技を使うときに出てくるやつだよな?
人間にも使えるのか?
このミシマとスズキってのは、目の前の男二人で合ってるよな?
よくわからん。
しかしわからないままだとモヤモヤするので、いったんYESを押してみることにする。
すると——。
「……ひぃっ!?」
二人はいきなり顔を恐怖で引きつらせて後ずさった。
その視線は泉さんの方を向いている。
そんな視線を向けられている泉さんは困惑しているが、男二人は恐怖に耐えられなくなったかのように叫び逃げ出してしまった。
「ひぃいいぃいいいいい!」
……これってさっきの『弱点:女性』が効いたってことだよな?
なんだか申し訳ないことをした気分になる。
男二人にそんな反応された泉さんは不機嫌そうに頬を膨らませると、いかにも怒っていますという声を出した。
「もう、失礼しちゃいますね! 人の顔を見ていきなり怖がって叫び出すなんて、まったく、ひどいと思いませんか!?」
それ、自分のせいです。
なんてことは口が裂けても言えないので。
「は、ははは。そうですね。ひどい人たちですね」
すまん、若人たちよ。
心の中でそう謝りながら、俺は頬を引きつらせながらごまかすのだった。
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