久シブリニ思イッキリ暴レテヤルゼ

「さて、と」

 ルーヴェンディウスは暗闇の中、地下牢の奥を見た。手をかざすと空中に彼女の頭ほどの大きさの光の球が現れ、光差さぬ地下牢を照らす。


 まっすぐ奥へと続く通路の左右にはいかにも頑丈そうな鉄格子が並んでいるが、目指すはそこではなく、さらに先だ。そのまま歩いて行くと、目的地が見えてきた。


 通路の最奥部にもはやり鉄格子が嵌められていた。

 その牢も他の牢と同様、その中に捕らえておくべき囚人の姿はないように見えた。


 しかしそうではない。

 さらに奥、牢の奥壁。一見何の変哲もない壁のように見えるが、少し視線を上にずらすと壁に鬼のような形相をした顔が浮かび上がっている。


 いや――浮かび上がっているのではない。壁に埋め込まれているのだ。重犯罪者を収容するこの収容所の地下最深部において、さらに壁に埋め込まれなければ捕らえることのできない相手。


 壁に埋められていた顔の瞳がぐるりと動いて侵入者に向けられた。


「誰ガ助ケニ来ルノカト思ッタガ、マサカアンタガ直々ニトハナ、ルーヴェンディウス」

 壁の男がそう言うと、周囲の壁に亀裂が走った。


「フンッ!」

 男が気合いを入れると、牢の壁が粉々に砕け散った。壁に埋め込んでもこの男を拘束することは到底かなわなかったのだ。


「相変わらずの馬鹿力じゃの」

 ルーヴェンディウスが呆れて言うが、男はそれには何の反応も示さず鉄格子に手をかけ、まるで飴細工のようにいとも簡単にそれをねじ切って外に出てきた。


 男は腰ほどの高さしかないルーヴェンディウスを見下ろし言った。

「話ハ、アトラスノ野郎カラ聞イテル。マッタク、何モカモ気ニ食ワネー」

「じゃが、協力してくれるのじゃろう?」


 今まで壁に埋め込まれ固まっていた肩をほぐすように回すと、ゴリゴリという音が聞こえてきた。

「当タリ前ダ。俺ハドンナ時デモリリム様ノ配下ダ」


 そう言ってリリム軍随一の猛将、『猛進』のヴェーテルはにやりと不敵な笑みを漏らした。

「久シブリニ思イッキリ暴レテヤルゼ」


 決行まであと十五日。

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