第38話 選抜試験

「お? お前も話聞いてみるのか?]

「まあな、あんなに美味い弁当作る店って興味きょうみあるし」


「まあ、こんなところに店を出す弁当屋だから報酬ほうしゅうの方はあんま期待きたいできなそうだけどよ」

「まかないが3食出るんでしょ?」


「あんな美味しいお弁当作るくらいだし、まかないには期待しかないわね」

「王都の一流レストランで食べた料理よりはるかに美味しかったもの」


「最悪、お金が出なくてもご飯が出れば元取れそうだし」

「内容次第しだいだけどね」


 ――ザワザワザワザワ……

  ――ザワザワザワザワ……


「……思ったより人が集まったな」


 弁当販売終了後、人員募集じんいんぼしゅう告知こくちをして訓練場に移動してみたのだが、あの場にいた冒険者のほとんどが来たのではないかというぐらい盛況せいきょうだ。


「人が集まって悪い気はしないけど、いくらなんでも多すぎるな。こりゃ人数しぼらんと」


 遅くなってさわがれても困るし、早速さっそく始めようか。


「えー、みなさんお集まりいただきありがとうございます。当出張弁当屋の店主けん、現サンブリー領主りょうしゅのカイト=ウマミザワです」


 ――え? 領主様?

 ――ってことは貴族? 何で貴族が弁当屋?


 ――いやいやいや、いくら何でもフカシだろ?

 ――でも貴族の詐称さしょうは重罪だぞ。


 ――ってことは本当に領主様なの!?

 ――やべえ、俺さっき兄ちゃんとか気安きやすく言っちゃったよ……。


「領主と言っても先日あったゴタゴタがきっかけで就任しゅうにんしたばかりのなりたてです。元々は皆さんと同じ冒険者をやっていました。そして、私の本業はあくまで料理人であるつもりです。だから気安くせっしていただいて結構けっこうですよ」


 この言葉でかなりの数の冒険者がホッとしたように見えた。

 公的な場じゃなければうるさく言わんよ、俺は。


「んー、まだ会場の空気がちょっとかたいかな? じゃあ、もうちょいくだけられるように話し方を俺本来のものに戻そうか。現在俺の領地では、前領主のやらかしのせいで、色々な問題が起きてしまっているんだ。現在復興事業ふっこうじぎょうをやっているため、手伝ってくれる人員がほしい」


 問題は複数あるけど、その中でも代表的なものは以下の4つ。


 住民の住居じゅうきょ修復しゅうふく

 公共道路の舗装ほそう

 国境付近の警戒けいかい

 ダンジョンの管理。


 指折り数えて説明する。


「この中のうち3つ、住居の修復、道路の舗装、国境の警戒は国がやってくれる。さっき王様に会って約束を取り付けてきた。みんなにやって欲しいことは最後の4つ目、ダンジョンの管理だ」


 ミーナの故郷こきょうほろぼす戦争のきっかけになったダンジョン――このダンジョンは現在封鎖ふうさ中だ。


 入口になっている場所に大量の土砂どしゃみ、中から魔物が出てこないようにした上で、先のクーデターとは無関係の兵士たちが交代で見張ってくれている。


 しかし、このダンジョンをこのままにしておくつもりはない。

 何故ならダンジョンは金になる。


 ダンジョン内の拾得物しゅうとくぶつの2割を税金ぜいきんとしてもらえるので、管理がしっかりできるなら、ただあるだけで金を生む金の卵だ。


 それに、俺にとってはそれだけではなく、ウォッチャーを始めとした食える魔物が生息している生きた食糧庫であり、狩場であり養殖場ようしょくじょうでもある。

 俺本来の目的のためにも、使わないという手はない。


「このダンジョンの大きさと生息せいそくしている魔物の種類や生態せいたいを調査してくれる冒険者、そして俺が個人的に考えている新商品や新料理のアイデアを実行に移せる能力のうりょくを持った人材が欲しい」


 冒険を希望する者は俺とスパーリング。

 商品開発を希望する者は受付でそのむねを伝える。

 俺は全員にそう伝えた。


「ただし、商品開発にはとある能力が必要になる。死霊術師ネクロマンサー以外は受け付けないからそのつもりで」


 ――死霊術師!?

 ――何でそんな職業ジョブを!?


 ――っていうか冒険者ギルドに所属している死霊術師とかいるのか?

 ――イメージ的に闇ギルドだよな。


 え? 冒険者ギルドに死霊術師っていないの?

 これは盲点だった。

 一人で軍団作れて便利だから、ダンジョン探索なんかでめちゃめちゃ重宝ちょうほうしそうな気がするんだが。


 魔物にまぎれて地形の把握はあくとか。

 宝箱の罠を代わりに食らわせ安全に開けるとか。


 うーん、こまったな。

 最悪、新商品開発は無理かもしれない。


「それじゃあ試験を始めようと思う! 前から順番に1人ずつ、俺と3分間のスパーリングだ! 戦う前に職業と冒険者ランクを大声で言うように! ランク相応そうおうのハンデをつけて相手をする! ちなみに俺はAランク。強さだけならSランク相当らしいから、一切手加減てかげんしないでいいぞ!」


 Sランク相当という言葉を聞いて、冒険者の中に動揺どうようが走る。

 さっきまで美味い弁当を売っていた気のいい兄ちゃんが、まさかそんな奴だったとは。

 そんな内容のざわめきが聞こえる。


「3分間で自分を出し切れ! それを理解したら……かかってこいやああぁぁぁぁっ!」


 ――剣士ソードマン! Cランクだ! いくぜ!

 ――KO! 57秒


 ――魔術師マジシャン! Eランク!

 ――KO! 1分37秒!


 ――重戦士ヘビーアーマー! Bランク!

 ――KO! 2分17秒!


「オラ次ぃ! 手加減してんだから3分くらい持たせてみろ!」


 ――つ、強ぇ……。

 ――Sランク相当ってマジなのかよ……。

 ――料理人で領主でSランクくらい強いとか何者なんだよあの兄ちゃん。


 何者も何も料理人だよ俺は。

 領主も冒険者も、俺の目的や生活基盤確保きばんかくほのためのついでにぎない。


「ちなみに、3分持たなかった奴は問答無用で不合格だからな」


 足切りラインを聞いて気合いが入ったのか、これ以降は合格者が出始めてきた。


 ――拳闘士グラップラー! Cランク!

 ――合格!


 ――魔法戦士デュアルファイター! Bランク!

 ――合格!


 ――舞踏士マカーブル! Eランク!

 ――合格!


 ――魔物使いテイマー! Fランク!

 ――合格!


 大体10人に1人といった割合だろうか?

 ランクごとの俺の動きを見て、どう攻略したらいいのか、どう立ち回れば3分持つのかをしっかり考え、それを実践できる冒険者が抜けているといった感じだ。


 いいね、実に優秀だ。

 そういう人材にこそ、未知の場所の調査を頼めるというもの。


「くそ……あの兄ちゃん最初より強くなってる気がしないか?」

「ああ、使う技の数が増えてるよな」

「職業一体何なんだよ、あの領主様は……」


 最初より強くなっている――その感覚は実は当たっている。

 このスパーリング、実は試験以外に、俺の強化も目的にふくまれている。


 俺の職業、『食客』改め『食王』は食らった情報を学び取り、自分のにすることができる。

 試験で様々な冒険者の技を食らえば、さらなる味を生み出し、新しい料理に挑戦できる機会きかいが生まれる。


 だからこんなメンドくさいことをやる気になっているんだよ!

 せっかく魔力を持てたんだから、自分の魔法で焼き鳥とか作ってみたいと思うのが料理人だからな!


「これで最後かな? 合格者は27名! 合格した冒険者たちはぜひ俺と一緒にサンブリーの街まで来てくれ。さっき美味いって言ってくれた飯でも食いながらくわしい話を――」

「待つのじゃ! まだ1人いるぞ!」


 ――バンッ!


 俺が試験終了を言い渡した直後、それに待ったをかける形で1人の乱入者が現れた。

 冒険者の場所に全く似合わない、見た目10歳くらいの幼女である。


 そう、本部のギルドマスターである合法ロリババアだ。


「わしにも試験を受けさせよ! 合格して美味しいものをたらふく食べるのじゃ!」

「できるわけないでしょ。あんた本部のマスターなんだから。大体、俺の街はここから数日はなれた場所にあるし、どうやってかようのよ?」

「ふふふ……わしにはこれがあるでな。空間跳躍テレポート!」


 言うが早いか、ロリババアの姿は瞬時に消え。

 そして背後に現れる。


「失われた古代魔法の1つ、空間跳躍じゃ。どんなに離れた場所であろうと、わしは行ったことのある場所ならば一瞬で移動することができる。お主がダンジョン探索たんさく推進すいしんするなら、もっとも欲しい能力ではないかのう?」


 確かに。

 いつでもどこでも帰れる上に、いつでもどこでもリスタートできる能力はのどから手が出るほど欲しい。


 ダンジョンは深層に行けば行くほど魔物は強くなるし、強ければ強いほど美味いことが多い。

 たくさんの食材を発見&確保するには、このロリババアの力はぜひとも借りたい。


「……気が変わった。やろうぜロリババア」

「ふふん、そう来なくてはのう」


「さすがに合格するだろうけど、ギルド業務はちゃんとやれよ。他の人に迷惑めいわくが掛からない範囲はんいで手伝ってくれればいいから」


「わかっておる。これでも冒険者たちの頂点じゃぞ? たさねばならない義務は果たすとも。それじゃあ――」


 ああ、始めようか。


「Sランク、大魔導士ソーサラー! 智慧ちえ到達点とうたつてんことアミカ=マギステル、まいる!」

「Aランク、食王! 至高しこうの料理人が目標のカイト=ウマミザワ、行くぜ!」


あんたの持つすべての能力スキル――、

この3分間で味わいくしてやるぜロリババア!




---------------------------------------------------------------------------------

 《あとがき》

 ネクロマンサーで始める新料理。

 わかった人はいますかね?


 《旧Twitter》

 https://twitter.com/USouhei


 第6回ドラゴンノベルス小説コンテストにエントリー中です!

 読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。

 作者のやる気に繋がりますので。

 応援よろしくお願いします!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る