第34話 ゴミクズのような炭と職人
「ちわーっす! 親方いますかー?」
「お、お前さんはカイトじゃねえか。久しぶりだなあ」
ウォータースネークによって
「クーデター
「あー、らしいですね。死ぬほど興味ないんでどうでもいいですけど」
「貴族って言っても名前だけか? それとも土地付きか?」
「土地付きです。それがなきゃ貴族なんてなりませんよ。めんどくさい」
「ちなみにどんくらいもらったんだ?」
「この辺り
「はぁ!? それじゃおめえ……
「はい、一応」
「……敬語で話さなきゃまずいか?」
「公的な場じゃなきゃ前と同じで
「そりゃ助かるぜ。見ての通り俺は敬語が苦手でなあ」
俺も苦手なので問題なし。
敬語なんて、相手を
「で、ご領主様
「さすがですね親方。実はその通りなんですよ」
サンブリーの街では、あの日から今現在に
俺の作ったウォータースネークのうな重や
8割くらいの人は現状鉄板でやる調理で満足しているのだけど、残りの2割はそうじゃない。
俺が「本来であれば炭と専用の調理
実にいいね、その
こういう人がいてくれるなら、領内から新たな料理人が生まれる日も近いな。
俺の野望実現のために、ぜひともその情熱を
「そういうわけなんで、親方にウォータースネーク調理専用の
「お安い
「食わせろってんでしょ? わかってますって」
そう言うと思って、無限袋の中に上等なのを一匹持ってきている。
「はっはっは。そんじゃ
さらさらっと、言われた通りに紙に書く。
「これは……ずいぶん簡単な
ウナギの調理器具は構造が単純だ。
下に炭を入れて焼くところと、上にウナギを乗せて焼くところを作るだけ。
火を起こして
「はい。ただ、上につける金属は
「おう、了解だ。しかし、料理の
「あとでわかりますよ。その間に炭焼き場行ってきます」
「それだけど、俺んとこの炭なら分けてやるが?」
「いや、できれば普通の炭じゃなくて、専用の炭を使いたいんですよ」
……
…………
………………
「ここがヴォルナットの炭焼き場か」
親方に教えられ、街の
以前、俺たちが冒険した
さて、俺が
さっそく探してみよう。
「うーん、すまないけどうちにある炭はこんだけだな」
「
「叩くといい音がする炭ぃ? いい音聞きたいなら楽器屋いけ!」
「……どこにもねえ」
焼き場中の店を探し回ったが、目的の炭は見つからない。
ここは
その上この世界には魔法がある。
「くそー、ヴォルナットならあると思ったんだがなあ」
どうしよう?
ウナギを最も美味しく焼くには絶対あの炭が必要なのに!
あの炭の持つ
「こうなったら自分で作るしか…………でも作り方わからねえ! 料理は作れるけど炭なんて作れねえぞ俺は――!」
「お前はクビだ! 出て行きやがれ!」
――ドンッ!
――ズサアアアアァァァァ……
その人間は俺の前を通り過ぎると、
派手に転んだっていうか投げられたけど大丈夫かな?
「そんな!? 親方頼みます! もう一度だけチャンスをください!」
「もう何度やったかわからねえよ! これ以上お前を置いとくのは無理だ! こっちにだって信用ってもんがある!」
親方と呼ばれた人間は、投げ飛ばされた人――俺と同年代くらいの男――を見下ろしながらこう続ける。
「お前さんの焼いた炭はなあ、使えねえんだよエディ。ガンガン炭を燃やして熱を上げてると、
「そ、それは……でも」
「とにかく、お前さんはウチにはいらねえ。鍛冶スキル持ちらしいが、お前のスキルは使えねえよ。職人になるのは
「お、親方! 待って――」
――ピシャッ!
エディの訴え
経った今仕事場をクビになったエディは途方に
「はぁ、これからどうすればいいんだ? 貯金も少ないし、諦めて実家に帰るしか――」
「すいません、ちょっといいかな?」
「はい? えーと、あんたは?」
「通りすがりの領――じゃなくて料理人
「――っ! ああそうだよ! 一つの例外もなく爆散すんだよ! 材料変えても、焼き方変えても、どうやっても絶対に爆散すんだよ!」
「ほう……?」
この言葉を聞いた時、たぶん俺はものすごく悪い顔になっていたのではないだろうか?
「こんな爆弾みたいな炭、鍛冶になんて使えねえよ……チクショウ! 死んだ親父みたいな一流の炭焼き職人になるって誓ったのに……こんなクソみたいな炭しか作れねえなんて、俺は……俺は……っ!」
「なあ、その炭ちょっと見せてくれないか?」
「ああ!? いいぜ見ろよ! ほらこれだよ! 普通の炭より全然
「どれどれ?」
――キィーン! キィーン!
……ニチャァ。
おっと、思わずまた悪い
これは……間違いない!
この男を逃がしちゃ絶対にならない!
こいつは、俺がもらう!
「ほう、こいつは確かに武器にも楽器にもなりそうな炭だなぁ……全部くれ」
「は? バカにしてんのか!? 全部
「そう言ってるんだよつべこべ言わずにさっさとよこせ早くしないとテメェのケツにこの炭ぶちこむぞわかったら早くしろ全部もってこい」
「わ、わかった。わかったから早口で
わかればいいんだよ。
エディは店の
「サンキュー、いくらだ?」
「いくらも何も、全部タダだよ。高温だと爆散するから暖を取るくらいしか使い道はねえけど、ここらは火山が近いし、温泉もあって年中温かいからな。本当に何にも使えねえゴミなんだよ。持ってってくれるだけで捨てる
「そうか。でもそれじゃあ悪いから払わせてくれ」
俺は袋の中から金貨を1枚取り出しエディに向けて投げた。
「こ、これ金貨じゃねえか! 何でこんなゴミにこんなに!?」
「それだけの価値があると思ったからだよ。その炭に、あとお前さん自身に」
本来の価値を考えたら金貨1枚なんてダンピング価格もいいところなんだけどな。
この世界ではその価値はまだ誰にも理解されていないから何も問題ない。
「俺自身に? あんた何を言ってんだ?」
「今はまだ理解できないだろうから教えてやるよ。ついてこい。飯を
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《あとがき》
この高温だと爆散し、いい音がする硬い炭。
日本人ならおわかりですよね?
《旧Twitter》
https://twitter.com/USouhei
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