第13話 Only Light STAFF(後編)
クレアと
俺はクレアを連れて街の外まで来ていた。
早朝の
「あの、こんなところで一体何をさせようと? ク、クエストだって受けていませんけど……?」
「今日のは別にクエストじゃないからな。まあ、その
不安そうなクレアを引き連れて
ビビリ
「これからやってもらうことは簡単なレベリングだよ。魔物を倒して強くなってもらう。それだけだ」
「た、戦うんですね? ちょっと怖いけど頑張ります!」
「そう
「な、なんだ……それならいけそう……良かった」
「これから行くところのスライムを、できるだけ多く狩ってもらうからそのつもりでいてくれ」
「はいっ! わかりました!」
内容を聞いて落ち着けたようだ。
これなら安心だな。
そして雑談まじりに歩を進めること二十分――
「さあ、ここが今日のきみの仕事場だ。ここにいるスライムが全部いなくなるまで
「無理ですーっ!」
業務開始を促されたクレアが、再び叫んでビビリ始めた。
「無理って、さっきは自分でもできそうだとか言ってたじゃないか」
「た、確かに言いましたけど……でも、こんな多いだなんて聞いていません! そこらじゅうスライムだらけじゃないですか! 何ですかここ!?」
「『
ギルマス
スライムの生息条件にめちゃめちゃ
「なりたてFランク冒険者の相手としてはちょうどいいんだけどさ、なにせ数が
「じゃあ連れてこないでくださいよ! Fですよ私!」
「大丈夫、俺一応Bランクだし、強さだけならAランクかそれ以上ってギルマスに言われているから。それに、いざとなったら助けてやるから。ね?」
「ほ、本当ですか? そんなこと言っておいて
「しないしない。きみに怪我されるのが一番困るんだ」
何せプロジェクトの中心人物だからな。
「怪我する前にフォローに入る。だから安心して戦ってくれ」
「し、信用しましたからね?」
「おう。あ、そうそう、戦って倒したスライムはスーちゃんに全部食わせて」
「全部、ですか? 別に
「絶対そんなことにはならないから。とにかくそういうことで
「わ、わかりました……じゃあ、行ってきます」
さて、いよいよか。お手並み
クレアの武器は杖――と言っても、
魔法で何かするだけではなく、おそらく直接叩き殺すことも
クレアは一番近くにいたスライムに狙いを定めると、大きく振りかぶった杖を一気に振り下ろした。
相対したスライムは
「うん、一撃か。問題なさそうだ」
さすがに最弱と呼ばれる魔物相手にてこずるようなことはない
だが、俺が
「それじゃスーちゃん、お願いね」
「ピッ!」
クレアから命令されたスーちゃんは大きくその身を
「へえ、食ったらゼリー部分がそのまま足し算されていく感じか。コアの部分は変わらないんだな」
以前俺が倒した巨大スライムのコアはスーちゃんの何倍も大きかったので、コアは他の生物と同様、栄養を吸収してゆっくり成長して行くのかもしれない。
まあ何にせよ、これなら帰るころには相当デカくなっているだろう。
この前食べた巨大スライムくらい大きくなっていると嬉しいんだけどな。
それだけあれば初日の結果としては十分すぎておつりがくる。
「あの分なら大丈夫そうだし、様子を見つつ俺もその辺のスライムを狩るとしようか」
……
…………
………………
そして四時間が経過した。
「よーしクレア、そろそろ街に帰ろう」
「は、はい……つ、疲れたぁ……」
クレアは俺の終了宣言を聞くなり、その場に
「そんなに疲れた?」
「あ、当たり前ですよ! 何匹倒したと思っているんですか!?」
「そうだな……大体だけど二百匹くらい?」
「三百です!」
そうか、予想よりもだいぶ数を倒してくれたようだ。
ゼーゼーと呼吸が荒いクレアに、心配そうに
見た感じ
元々の大きさが縦横ニ十センチくらいだったので、
「三百か、それだけ倒せばいくらスライムオンリーでもそこそこ強くなれたんじゃないか?」
「は、はい。レベルは5つも上がりました」
「そいつはよかった。お疲れ様」
「と、ところでスーちゃんのことどうするんですか? 言われた通り全部食べさせましたけど、こんなに大きかったら街に入れませんよ?」
「大丈夫だ。街に入る前に元の大きさに戻すから」
「ど、どうやって?」
頭にハテナマークを浮かべたクレアから一度視線を外し、スーちゃんのほうを見る。
「確認だけど、スライムに
「は、はい。正確には痛覚神経がないのはゼリー部分です。ゼリー部分はコアを守るための鎧――私たち人間で言う髪の毛みたいなものです」
「なるほど、わかった」
俺はクレアに向き直り、
「俺は今からたぶんきみが信じられないようなことをする。叫ぼうが
「わ、分かりました……で、でももし誰かに言ったら……」
「……………………」
「い、言いませーん! 絶対に秘密にします!」
俺の様子から勝手に最悪のパターンを想像してくれたようだ。
まあ実際のところ情報
念には念を入れてだ。
「よし、じゃあ始めるぞ。スーちゃん」
「ピ?」
「ちょっと失礼」
――ズブッ。
「なーなななななななななななななな!? スーちゃんに何をしてるんですかーっ!?」
「|肉を分けてもらっている。あ、髪の毛だっけ?」
「どっちでもいいです! 何でそんなことを!?」
「味見をするんだから実物がないと困るだろう?」
「あ、味見……? 何の……?」
「スライムに決まっているじゃないか。知らないだろうから教えてあげよう。スライムって実はものすごく美味いんだぜ」
「キ、キャアアアアァァァァッ!! ……あ」(ガクッ)
あ、気絶した。
体力的に限界だったところに精神的にくる話をされて逝ってしまったか。
「おーい、起きてー」
「ピー」(ペシペシ)
「う~ん……はっ! い、今ものすごく悪い夢を見ていたような?」
「スライムを食うって話か? 悪いけどそれ夢じゃないぞ」
先ほど切り取ったゼリー部分を、手の上でサイコロ状に切り分ける。
そして食べる。
うん、悪くないな。
この前食った巨大スライムと比べて甘みは弱いが、すっきりとした味わいというか、とにかく上品な味というか……。
「食感は随分と柔らかいな。ゼリーというよりもジュルに近い。この前のスライムはデカくても身はしっかりゼリーだった。もしかしてコアの大きさに比例して肉が硬くなるのか?」
「ほ、ホントに食べてるぅ……」
「スーちゃん、ちょっとコレ食ってみてくれ」
「ピッ!」
敬礼したスーちゃんに俺が渡したものは、近くで取れた果物だ。
あいにくあの時みたいなマンイーター(だっけ?)がいなかったので普通の果物だが。
「よし、果物が
「ひゃあああぁぁぁっ!? またスーちゃん刺したあああぁぁぁっ!」
「思った通りだ。消化した部分の
今回俺が渡したものはリンゴとオレンジ・
スーちゃんから取れた肉からは、しっかりとその二つの味が感じられる。
「スーちゃん、今度はこれ飲んでみて。安物のワインなんだけど」
ビンの味が混じったらたまらないので、念のため俺が直札身体にかける。
スーちゃんの一部がワインレッドカラーに染まった。
そこの部分を切り取り、また一口。
「美味い!」
安物ワインなのに高級感のある味に変わっていた。
ワインゼリーは大人にも人気のあるスイーツだ。
爆売れの予感しかしない。
「前食った時も思ったけど、普通に食うよりスライムと一緒に食った方が味が
硬さの調節もできるし、美味くやればジュル系調味料も充実させることができるかもしれない。
ポン酢ジュルとかこれで作ったらすさまじく肉に合いそうな予感。
「よし、大体わかった。これなら十分いけるぞ! クレア!」
「は、はい……?」
「今日最後のきみの仕事だ。はい、これを持って」
「これ……包丁?」
そう、包丁だ。
俺のではなく、このために用意した彼女用の新品である。
「これを使ってスーちゃんのゼリー部分を、元の大きさくらいまで切り落とすんだ」
「嫌ですうううぅぅぅっ! 何でそんなことしなくちゃいけないんですか!?」
「そうしなければスーちゃんが街に入れないだろ?」
「ご、ごもっとも……でも、何で私が?」
「きみがスーちゃんのご主人様だからだ。あと、この作業がきみの日課になるから」
「日課!? ま、毎日これをやれってことぉ!?」
「そうだ。さっきの俺を見て何となく
「ま、魔物を食べるだなんて……そんな悪夢のような計画を……何で……?」
「それはな、魔物がとてつもなく美味いからだよ」
じゃなきゃこんなことわざわざやらない。
「嘘だというのなら食ってみろ。ほら、さっき俺がスーちゃんに食わせたリンゴとオレンジ、それにワインの部分がまだそこに残ってるぞ」
「い、嫌……食べたくない……」
「ふう、やれやれ……この世界の魔物食への
「あ、当たり前ですよ! そんな気持ち悪いこと!」
「でもな、一回食べるとみーんな
じり……じり……
俺からクレアが後ずさりを始める。
逃がすわけには行かないので、俺も歩いて
「まあ
「や、やめてーっ! それ近づけないでーっ!」
「
「金貨1枚!? い、いや……でも……」
「どうする? やる? やめる?」
「や、やりまぁす! さあ来い!」
気合いを入れて開けた口の中に、俺はゼリーを放り込んだ。
パクン。
もぐもぐ。
「------------ッ!? う、美っ味ああああぁぁぁぁぁっ!?」
「はっはっは。そうだろうそうだろう」
「噛んだ瞬間、口の中いっぱいにリンゴとオレンジの味が! 生絞りジュースを飲んだってここまで濃厚な味にはなりませんよ!? それにワインのほう! アルコールの香りと味は残っているのに成分が完全に飛んですっごく食べやすい! これならお酒に弱い人や子ども関係なく美味しくいただけます! いやホント、何これ? スライムがこんなに美味しいだなんて……信じられない」
「美味しいだけじゃなくて魔力回復にも効果的なんだぜ。安物のマジックポーションよりも魔力回復効果があるんだ」
「本当ですか!? 言われてみれば……」
まるで神の
「これが、冒険者ギルドで配給されるようになるんですか?」
「ああ、きみの頑張り次第だけどな」
「私やりますっ! 何をすればいいでしょうかっ!?」
「とりあえずスーちゃんの肉を元の大きさまで切り落としてくれ。切り落とした肉は全部
「はいっ! わかりました!」
言われた通り、クレアは肉を切り落としていく。
一度味わったおかげか、もう
みるみるうちにスーちゃんが元の大きさに戻っていく。
「あ、そうそう。きみ用の収納袋は結構大き目のを用意するけど、それでも入りきれなかったぶんは食べていいよ」
「いいんですか!? こんな美味しいものを!?」
「ああ、ただしあくまで納品優先な。強くなればなるだけいっぱい狩れるだろうから、まあ頑張れ」
「はいっ! 頑張りますっ!」
クレアの瞳はやる気に満ち溢れている。
この調子なら、しっかりと働いてくれそうだ。
「スーちゃんがこんなに美味しいとか
「ピイイイィィィーーッ!?」
味に
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《あとがき》
新ヒロインのクレア回終了です。
量産体制も整い、次回からは新メニュー開発で冒険します。
あの三人組も出てきますよ。
《旧Twitter》
https://twitter.com/USouhei
読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。
作者のやる気に繋がりますので。
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