第24話 Moto3 フランス

 5月初め、気持ちのいい季節にフランス・ルマンにやってきた。花々が咲き始め、目にやさしい日々を過ごしている。

 パリから南へ200km。昨年もE-GP3で走っているので、コースは理解している。基本ストップ&ゴーのサーキットで、レイアウトはMOTEGIに似ている。勝負どころはダンロップブリッジの手前のシケイン。左の第3コーナーと右の第4コーナーである。それと裏ストレート後の第9コーナー。ここが抜ける場所と私はふんでいる。気をつけなければならないのは、ダンロップブリッジを過ぎた下りの右コーナーだ。集団で走ると接触しかねない。

 フリー走行で、私は1分42秒台を出していた。残念ながらQ2には入れず、Q1からのスタートである。エイミーは1分41秒台でQ2進出を決めている。

 監督のジュン川口が話しかけてくる。

「ここは右コーナーが多い。先ほどのMotoGPの予選で転倒が相次いだ。すべて左コーナーだ。タイヤの使い方でタイムが決まる。そこで、スペシャルタイヤを使う。わずか3周しかもたない。アタックチャンスは1度だけだと思え。最初の2周でタイヤをあたためて3周目にチャレンジだ。どうだ、やってみるか」

 もちろん私はうなずいた。そこで、残り5分までタイヤ温存をはかるためにピットに残留した。他のマシンは1分41秒台半ばを出している。Q2にすすむためには、1分41秒台前半を出さなければいけない。 

 そしてピットアウト。まずは様子見で走る。2周目にタイヤをあたためる。特にタイヤの左側をあたためるようにした。そして3周目アタック。第3コーナーまではアクセルオンで、マシンを倒して走る。そして第3コーナーで飛び込み。前にマシンはいない。そこからは右・左とマシンを倒すことが多い。シケインでの切り替えもうまくいった。最終コーナー前で前のマシンが見えてきた。じゃまをされなければいいが、立ち上がりでラインをふさがれ、少し大きめのラインになってしまった。

 予選終了。結果は1分41秒254でQ1の2位タイムを出すことができた。Q2進出である。ピットにもどってくると、監督のジュン川口とエイミーが笑顔で迎えてくれた。

「よかったぞ。Q2はソフトタイヤでエイミーとスリップを使い合え」

 という監督の言葉に二人でうなずいた。

 Q2開始。エイミーに続いてピットアウトする。2周目はエイミーのラインを確かめる。前にもいっしょに走ったから、ほぼ同じだ。3周目アタック。エイミーの走りについていくことができた。1分41秒382を出すことができた。やはりスペシャルタイヤの方が速い。

 一度ピットにもどって残り5分でまた出ていく。今度はエイミーが後ろだ、私のペースではスリップについても遅かったのか、裏ストレートで抜いていった。エイミーが本気で走るとついていけない。トラブルさえなければトップ争いできる実力を備えてきている。エイミーは1分41秒088で予選6位となった。私は予選10位である。ちなみにTR社のジム・フランクは予選5位とまたもやエイミーの隣となった。何かの因縁かもしれない。

 夕方のMotoGPのスプリントレースを見ていて、マルケルの走りに目を見張った。予選13位から順位を上げて、2位でフィニッシュしたのだ。その要因はスタートダッシュにあった。アウトポジションから徐々にインポジションに変えて、シケインの第4コーナーでインにつけ、ダンロップブリッジを過ぎるころには5位まで上がっていたのである。私も予選10位とアウトポジションなので、マルケルのラインは参考になると思った。

 その日の夜、ホテルでマネージャーの澄江さんと一緒の部屋になった。

「個室がとれなくてすみません」

 と澄江さんは謝ってきたが、私は澄江さんを姉みたいに思っているので、特に気にはしていない。夕食を終えても、眠気はおそってこなかったので、テラス席でカフェオレを飲んでいると、澄江さんが話しかけてきた。

「桃佳さん、寝られないんですか?」

「ええー、明日の決勝をどう走るか考えていたら目がさえてしまいました」

「レーサーって、いつもレースのことを考えているんですね」

「そうでもないわよ。おしゃれにも興味あるし、ふつうの女の子と変わらないと思うよ」

「そうですか? じゃ、月曜日はフリーですよね。エイミーさんもさそってどこかへ行きませんか?」

「いいわね。実はディズニーランドに行ってみたいの。去年行けなかったから」

「デズネーランドパリですね」

「何をナマっているの?」

「これがフランス語の発音です。いいですね。私も行ってみたいです。それじゃ、表彰台にあがったら私がもちます。表彰台をのがしたら桃佳さんもち。ポイントとれなかったらなしでどうですか?」

「ワォ、それじゃがんばらなきゃ」

 と二人で笑い合っているうちに、眠気がおそってきてベッドに入った。


 決勝、天気はくもり。雨がふりだしそうな天気でもある。気温20度、路面温度27度と少し涼しいくらいだ。でもスタート時間には少し日差しがでてきた。

 スタートダッシュはうまくいった。例のインラインに入るマルケルラインもうまく決まった。第3コーナーはアウトになるが、第4コーナーでインに入れた。ダンロップブリッジをくぐった時には5位にあがっていた。作戦どおりである。

 レースは10台の団子レースになった。私は抜いたり抜かれたりを繰り返していた。

 8周目の右の第11コーナー、3位を走っていたルッシが転倒。ムニュスが強引にインに入ってきて、接触した結果である。ムニュスは接触おかまいなしのライダーだ。この後、ダブルロングラップのペナルティを受け、その後クラッシュしている。焦りの気持ちがでたのだろう。トップ集団は8台にしぼられた。

 17周目、トップ集団は5台にしぼられてきた。アレンソ・オルガダ・ジムフランク・エイミーと私の5人である。ジムは連勝をねらっている。

 ファイナルラップ、バックストレートでエイミーがジムのスリップにつく。そして第9コーナーの前で横に並ぶ。ブレーキ勝負だ。ジムがエイミーにマシンを寄せる。それで二人ともブレーキが遅れて、コースをオーバーランしてしまった。そこを私が抜いていく。そのまま、チェッカーを受けた。

 トップはアレンソ。前回のへレスで悔しい思いをしたので取り返したという気持ちが強いのだろう。2位のオルガダはランキングトップを守った。私は2度目の表彰台。デズネーランドゲットである。

 翌日、エイミーも誘ったのだが、約束があるということで澄江さんといっしょにディズニーランドパリで楽しむことができた。アリスの迷路では澄江さんと勝負をしたが、負けてしまった。

「レーサーに勝てるって気持ちいいですね」

 という得意げな顔をしている。旅慣れている人はこういうところが強い。それとライオンキングのショーには感動した。言葉は分からないが踊りや振り付けがキレッキレだった。それに初めて食べたフォアグラがおいしかった。前に一度食べる機会はあったのだが、ぶよぶよした食感で食べられなかった。でもディズニーランドパリのフォアグラはほどよい硬さで、まるでホタテのバター焼きを食べている感じだった。

 いい思いでとなったフランスラウンドとなった。次回はまたもやスペイン・カタルニア。情熱的なサーキットだ。スペイン人がやたら激しいレースをする。それに振り回されないように気をつけなければと戒めていた。

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