ユニーク装備を試してみよう!

 新宿ダンジョンの探索を始めて数分後……


『ピキュー!』


 うお、茂みからなんか出てきた!

 一抱えくらいの、ぶよぶよした塊みたいなモンスターだ。頭頂部には葉っぱを生やしている。


「“リーフスライム”か!」


 新宿ダンジョンに出現するモンスターは事前調査済みだ。このリーフスライムは、新宿ダンジョンにおいて最弱。神保町ダンジョンで言うゴブリン的な立ち位置のモンスターらしい。試運転の相手には丁度いい!


「――光の空、闇の湖底。隔つるはただ一枚の薄氷うすらいのみ。しかしてただ前だけを見て!」


 <薄氷のドレス>の効果を発動させる呪文を唱える。すると俺の全身が薄青い光に包まれた。今の俺は耐久が1になるという絶大なデメリットを受ける代わりに、魔力が十倍となっている。


「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むはひとかけらの氷のつぶて」


 一番慣れた呪文を唱える。今までとは比較にならない魔力が俺の手に集まり、ゴゴゴゴゴ……と地響きが聞こえるほどだ。


『ピ……ピキュ……?』


 あまりに膨大な魔力にリーフスライムが固まっている。その姿は「え? 撃たないよね? それ、俺みたいな下っ端に対して撃ったりしないよね……?」と言っているかのようだ。申し訳ない気持ちがなくもないが、運が悪かったと思ってあきらめてほしい。


「【アイスショット】――――!」


『ビギュァアアアアアアアアアアアア!?!?』


 巨大な氷の塊が射出された。大きすぎてもはや俺の視界がそれで埋まったほどだ。隕石かと思うほどの勢いですっ飛んでいった氷の弾丸はリーフスライムを当然のようにすり潰し、ズガゴゴゴゴゴゴゴォッッ!! と地面に広い溝を掘りながら数十メートル先で止まった。



<新しいスキルを獲得しました>



 脳内に声が響く。どうやら今の戦闘で新しいスキルを手に入れたらしい。

 それは嬉しいんだが……うん……


「…………ぜ、絶対にここまでの火力はいらない……!」


 強すぎて使いづれーよ。これ仮に味方がいたら百パーセント巻き込んで魔物もろとも吹っ飛ぶぞ。





――――――


白川雪姫

▶レベル:26

▶クラス:魔術師(氷)

▶ステータス

力:11

耐久:28

敏捷:28

魔力:308

▶魔術

【アイスショット】:氷属性。氷の弾丸を飛ばす。詠唱「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むはひとかけらの氷のつぶて」

【フロスト】:氷属性。冷気によって範囲内の相手の敏捷を下げる。詠唱「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは冷ややかなる霜の吐息」

【アイスヴェール】:氷属性。冷気の衣で対象の氷耐性を上昇させる。詠唱「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。彼の者から凍てつく夜気を遠ざけよ」

【アイスアロー】:氷属性。氷の矢を高速で飛ばす。詠唱「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは疾く駆ける氷の矢」

【アイスゴーレム・ヘッド】:氷属性。氷でできたゴーレムの頭部を召喚する。詠唱「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは氷の巨兵、しかしいまだ未熟の身なれば、その首のみを我がしもべとす」

▶スキル

【オーバーブースト】:三十秒間全能力値を倍にする。一日一回のみ。

【クラス補正倍化】:レベルアップ時のクラス補正を倍にする。

【一撃必殺】:耐久が自分の十倍以上の相手と戦う時、まれに魔力が十倍になる。

【氷の視線】:目を合わせた相手を確率で“拘束”状態にし、氷耐性を弱める。

【氷結好き】:氷属性の魔術を少し強める。氷属性以外の魔術を使うとスキル消失。

【魔術好き】:魔力を少し強める。魔術以外で敵にダメージを与えるとスキル消失。

【冷酷非道】:拘束状態にある敵へのダメージを増加させる。

【孤軍奮闘】:群れと戦闘を行う際に範囲攻撃の威力上昇。

【インプスレイヤー】:インプ系の敵と戦う時に能力値高上昇、さらに敵の能力値減少。

【戦闘狂】:ダンジョンにいる間、精神力が少しずつ回復する。

New!【加虐趣味】:一撃で倒したことのあるモンスターと戦う際に攻撃力上昇。


――――――



「……いや、【加虐趣味】て」


 リーフスライムとの戦闘後、自分のステータスを確認して俺は呟いた。

 【冷酷非道】といい、ちょくちょく不穏なスキルが増えているのが気になる。とりあえず俺に変な性癖はないということは言っておきたい。


 道化インプ戦によって俺のレベルは一気に上がった。


 伴って、いくつかスキルや魔術も増えている。協会に報告するために一度確認してしまったので“New!”表記は消えているが、魔術は【アイスゴーレム・ヘッド】、スキルは【インプスレイヤー】と【戦闘狂】がそれだ。逆に【インプキラー】はなくなった。協会の職員いわく、【インプスレイヤー】に進化した、ということらしい。


 ……どうでもいいが、スキルも魔術も短期間に増え過ぎじゃないか?

 スキルはともかく、詠唱も覚えなきゃいけない魔術はそうポンポン増えても困る。贅沢な悩みかもしれないが、わりと切実である。咄嗟に出てくるかはかなり怪しいぞ。


「まあ、慣れるしかないんだろうけど」


 とりあえずは薄氷シリーズのほうが優先度高いだろうな。

 切り札になり得るものだし、配信的にもユニーク装備を使っての戦闘は必須だ。配信でグダらないためにも使いこなせるようになっておかないと。


『ピキュ!』


『ピキュ!』


『ピキュ!』


 おお、新たな生贄がやってきた。


 さっき仲間がやられたのは見ていなかったのか、それとも人間を見かけたら襲う習性があるのか。まあどっちでもいい。

 <薄氷のドレス>の効果は魔力体再構築――要するにダンジョン内で死ぬかダンジョンから出るまでは持続する。今も絶賛発動中だ。とりあえずこのまま魔術は全部試しておこうかな。


 リーフスライムを片っ端から狩っていく。


「お、ドロップアイテムだ」


 リーフスライムが力尽きた場所に、一枚の葉っぱが落ちていた。装備品ではないので素材アイテムだろう。新宿ダンジョンのモンスターは素材アイテムを落としやすいという特徴があると聞いてたが、本当みたいだ。


 素材アイテムはこのまま売ってもいいが、別の使い道もある。

 せっかくだからダンジョンを出たらそっちも試してみよう。


『キュゥウウー!』


「ウサギ型モンスター……“アルミラージ”か!」


 そんなことを考えていたら、新たなモンスターがこっちに向かってきた。猪ほどもある角の生えたウサギ型モンスター、アルミラージだ。


『キュウ!』


「うわっと!」


 勢いよく突進してきたアルミラージの角を、横っ飛びしてなんとかかわす。

 動きが速いな。俺が苦手なタイプの相手だ。普段なら【氷の視線】の出番だが、せっかくだから<薄氷のドレス>以外のユニーク装備も試すとしよう。


「【滑走】!」


 <薄氷のピンヒールドレス>の効果発動。再度突っ込んできたアルミラージを、氷の上を滑るような動きでかわす。

 おお……本当にスケートしているみたいだ。普通に走るより明らかに速い!


『キュウ!?』


 独特な動きに翻弄されるアルミラージ。チャンスだ。俺は<初心の杖>を構えた。


「【アイスショッ――」


 あ。


 魔術に意識を向けた結果、足元がおろそかになった俺は一瞬でバランスを崩した。地面がすごい勢いで近付いてきて、思いっきり俺は転び、


 ぐにゃり。


「あれ?」


 気付けば俺はダンジョンの外にいた。ダンジョンゲートを挟んで、順番待ちの列の反対側。つまりダンジョンから出てくる時の位置である。


「し、死んだのか……? 今ので……!?」


 どうやら俺は【滑走】の制御に失敗して転んだ結果、その衝撃で魔力体を崩壊させたらしい。普段ならそうはならなかっただろうが、<薄氷のドレス>使用中は魔力体の耐久が1になる。そのせいだろう。


 ダンジョン探索者になってから初の死亡。

 死因、滑って転倒。


 か、かっこ悪っ! 絶対月音に馬鹿にされる! とりあえず配信で【滑走】を使うのはやめておこう……!


 ……ネタになりそう、なんて一瞬考えてしまった俺は、もしかしてかなり配信者に染まっているのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る