第3話 女子トイレの修理をするのです。

「ここだ。一番奥の洋式の水が流れっぱなしになっている。修理を頼む」

「え? 僕が女子トイレに入るんですか?」

「当たり前だ」

「不法侵入では? 迷惑条例違反では?」

「ロボに性別はない。さっさと修理してくれ」


 言われてみればその通りである。霜川君が女子トイレの修理をして罪に問われる法令は存在しない。


「わかりました」


 早速、霜川君は一番奥の洋式トイレを確認した。確かに水が流れっぱなしになっている。霜川君はタンクの蓋を開け中を確認したところ、排水弁に何か異物が挟まっていた。霜川君はその異物を取り出し彩花に渡した。


「これが挟まっていました」

「なるほど」


 彩花はその異物をまじまじと見つめる。長さは10センチ、幅5センチ程度。黒いビニール袋で丁寧に梱包されているが、中身が何かは分からない。


「これか……ありがとう。もう少し付き合え」

「え?」


 霜川君は強引に連行された。行先は生徒会室だった。


 彩花はパイプ椅子に腰かけ長テーブルの上に例の異物を置いた。タオルで水気を十分にふき取り、ハサミで黒いビニール袋を丁寧に切り取っていく。中から出てきたのは透明なビニール袋で、その中には白い粉が入っていた。


「霜川君。これが何だかわかるか?」

「白い粉です。外見は小麦粉や片栗粉、もしくは粉糖のようです」

「そうだな。今、校内では不審な粉が闇取引されている。これがその現物ではないかと考えている」

「不審な粉ですか。ハッピーターンの白い粉とか?」

「アレの中毒性は極めて高いが違うと思う」

「ではコカインとか覚せい剤ですか?」

「それなら警察案件になる」

「??」

「飽くまでも噂だが、これは〝おっぱい膨らし粉〟と呼称されている不審な粉の可能性が高い」

「まさか、摂取するとおっぱいが大きくなるんですか?」

「わからない。しかし、女子生徒の間ではそう信じられている。とりあえず、この粉の成分を分析してくれ」

「了解シマシタ」


 何故か機械音声が勝手に返事をした。霜川君の腹部が勝手に開き、中から二本のマニピュレーターが伸びて来た。それは白い粉の袋を引っ掴み、霜川君の腹の中へ引っ込んだ。


「タダイマ分析中……粉糖……コーンスターチ……クエン酸……重曹……水ヲ加エ成形スルト、ラムネ菓子トナリマス。タダシ……」

「ただし?」

「何カノ思念エネルギーガ高単位デ検出サレマシタ」

「思念エネルギーとは」

「不明デス」

「なるほど……その想念エネルギーが関係しているのかもしれないな」


 ラムネ菓子で胸が大きくなるとは思えない。その得体の知れない想念エネルギーが何かの作用をもたらしている。霜川君はそう考えた。



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