第28話 下級回復薬

 海亀亭トゥラトゥラの親父さんにアルミラージの肉を渡して、お任せメニューを頼む。


「おお、綺麗な肉だ! アレク、前のビックボアもだけど、解体の腕が良いな」


 褒めて貰えて、嬉しい! 料理は任せておいて、部屋で胸当てとブーツを脱ぐ。修道女見習いのサンダルの方が軽くて楽だからね。

 自分に「浄化ピュリフィケーション」を掛けて、木箱の中に薬草とアイテムボックスの中から鍋とオタマを出したのを入れて、下に降りる。


「女将さん、庭で火を使っても良いですか? 薪を分けて貰えたらありがたい」


 道具屋で買った移動式の窯、前世の火鉢っぽいんだ。

 金属でできているから、冷めるまでは持ち歩けないと思うけど、使ってみなきゃね。

 

 リリーが薪と種火を持って来てくれたから、早速、試してみよう。

 窯の下には灰を少しサービスで入れてくれたから、金属のゴトクの内側に細かい薪を置いて、種火で火を付ける。


「リリー、井戸も使わせて貰えるかな?」


 それは、泊まり客なら良いと笑う。海亀亭トゥラトゥラには風呂もあるけど、追加料金が掛かるし、暖かい気候だから、井戸端で水を被る客も多い。私は浄化ピュリフィケーションで身を清めているけどね。


 お風呂に入りたいけど、脱衣所とか危険なんだもん! それに井戸端でザッパン! はジャスとかルシウスとかやっているけど、半裸だからね。


「何を作るの? 料理はパパに頼んでいるでしょう?」

 たまに節約する為に自炊する客もいるそうだ。


「下級回復薬を作ってみようと思っているのさ」

 リリーは、驚いたみたいだけど、興味があるのか手伝ってくれた。


 薬草を綺麗な水で洗い、それをナイフで刻む。ここまでは、サーシャも修道院で手伝っていた。

 ここからは、女神様クレマンティアの知識頼りだ。


 鍋に浄水を入れるのが、サーシャには秘匿されていた情報だ。

 その前に、調合鍋とコシた後に使う鍋も洗っておく。リリーが手伝ってくれるから、早くできるね。


「浄水!」

 調合鍋に浄水を入れて、刻んだ下級薬草を加えて煮込む。

「香りが立ったら、火から降ろすのがコツなんだ。長く煮込むと色が濁って、効能も悪くなる」


 リリーは、海亀亭トゥラトゥラをやっていきたいと言っていたけど、状況がどう変わるかわからないからね。

 薬師の技術があったら、食べるのに苦労はしないだろう。

 浄水がないと『下級回復薬(劣)』しかできないかもしれない。

 でも、リリーは、女神様クレマンティアの加護を受けたから、浄水も作れるかも?


「冷えたら、コシ器で濾して、薬瓶に詰めたら出来上がりだ」

 薬瓶を手に持って「鑑定!」を掛ける。『下級回復薬(優)』と出たから、大丈夫だろう。


 ギルドに置いてあったのは、『下級回復薬(劣)』だった。私のアイテムボックスにはいっている城の治療師がくれたのは、『下級回復薬(並)』だったよ。

 修道院のは何だったのかな? 色から判断すると、『下級回復薬(秀)』ぐらいだったのかもね!


「お兄ちゃん、すごいね!」

 リリーが褒めてくれた。

「へへへ、子どもの頃から手伝っていたんだ」


「この薬を売りに行くなら箱に入れないと割れちゃうかもね! 丁度良い小箱があるよ! 持ってくるから待ってて!」


 リリーが箱を持って来るのを待っていたら、ほぼ同時にルシウスとジャスも庭にやって来た。


「お兄ちゃん、はい箱!」

「ありがとう!」

 薬瓶をリリーに貰った小さな木箱に詰めていたら、一本手に取って繁々とジャスが眺めている。


「本当にできたのか?」

「見たってわからないんじゃないのか?」

 ジャスは鑑定持ちじゃないと思うよ。


「いや、ギルドで売っている下級回復薬とは色が違うのはわかる。それが良い事なのか、悪いのかは分からないけどな」

 

「そうだな! ギルドのはもっと濁った緑だ。防衛都市カストラの下級回復薬も濁った緑だった。これは、澄んだ緑色だ」

 

 二人とも『下級回復薬(劣)』しか見た事が無いみたい。南の大陸では、それが普通なのかも?


「北の大陸では、濁った緑色の下級回復薬は劣と評価されていた。澄んだ緑色のが高級品なんだぞ!」


 二人は、ちょっと失礼だと思う。

「本当かなぁ! まぁ、大商人の中には鑑定持ちや、鑑定待ちを雇っている人も多いから、見て貰うと良い」

 ジャス、本当に回し蹴りしたくなったよ。


「おっ、そうだ! ミネルバがカインズ商会が、防衛都市カストラへの護衛依頼を出すかもしれないと言っていたから、明日、その下級回復薬を持って行こう!」


 ルシウスも半信半疑みたい。そりゃ、濁った緑の下級回復薬しか見た事がないのだから、仕方ないけどさぁ。ぶーぶー、文句を言いたい気分だ。


「そう言えば、中級薬草も採取していたんじゃないのか?」

 ジャスは、本当に気が付く奴だよ。


「ああ、でも中級回復薬は、薬草だけでは作れないのさ! 他の材料も必要だから、干しておく。少し効能は落ちるけど、仕方ない」


「ふうん、何が必要か言ってくれたら、心得ておくが?」


「ありがたいけど、準竜か亜竜の肝が必要なんだ。だから、北の大陸では中級回復薬は滅多に作れないのさ。南の大陸には、準竜や亜竜がいると聞いたけど?」


 二人が顔を顰める。

「確か木の蛇ヴィゾーヴニルは準竜だったよな! 二度と遭遇したくなかったが……中級回復薬の材料になるなら、ダンジョンに潜るか!」

 ジャスが渋々って感じで口にする。


「アレクは、バリアが使えるよな? 木の蛇ヴィゾーヴニルの毒の息攻撃を防いでくれるなら、楽勝かもしれないぞ!」


 ルシウスの言葉に、ジャスが「そうだな!」と喜び、バンバンとルシウスの背中を叩く。


「痛いぞ!」とルシウスが殴り返して、少し乱闘になった。

 やはり、身体接触は、絶対に許さないという態度を崩さないようにしよう!


「やめて! 花壇が無茶苦茶よ!」


 エキサイトした二人の乱闘で、リリーの花壇が踏まれた。


「「悪かったよ!」」

 二人がリリーに謝っている間に、踏まれて折れた花をナイフで切り取り、花壇に光を与える。


「ほら、リリー、お花をどうぞ」

 ナイフで切った花も光を与えたら、シャンとしている。

「お兄ちゃん、ありがとう! 大好き!」

 リリーに頬にキスしてもらった。

「パパに美味しい料理を作って貰うからね! 期待してね!」


 ジャスが何か言いたそうだったけど、ルシウスに「止めとけ!」と止められた。どうせ、顔が良いから得だとかだろう!


 その夜のアルミラージの料理は、リリーが頼んでくれたからか、とても美味しかった。

 香草焼きは、とてもジューシーで完食したよ。ジャスは食べ過ぎだと思ったけどね!

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