第3話 金をゲットしたい!

 あれこれ女神様クレマンティアと交渉していたが、急に呼吸が苦しくなった。


『あら、湖から助けられたようだわ。このままでは、死んだと思われてしまう。帰りなさい』


 グァハハッ! 水を吐き出して、やっと息ができた。ずぶ濡れで寒い。凍りそうだ。


「サーシャ王女!」

 誰かが王宮に連れて行ってくれるみたい。気絶したいほど、寒い!


 どうやら気絶していたみたい。風呂桶の中で気がついた。服のままお湯に浸かっている。

 ガタガタ歯の根が合わない。寒くて死にそう!

 

「手間のかかる王女よね! こんな真冬に湖に落ちるなんて……もしかして自殺なのかしら?」


「そりゃあね! あんな好色な王の第四夫人だなんて、誰だってなりたくないんじゃない」


 ぐったり湯に浸かっていたら、メイド達が言いたい放題だ。

 悪いけど、逃げるつもりだから、この城を好色王アマースが攻めてくるかもよ。


「もっと熱いお湯を! さっさと運びなさい!」

 命令する時は、ビシッと言わなきゃ舐められる。サーシャは、修道院育ちだから、王宮のメイドに命じるのを躊躇っていたら、どんどん舐めた態度を取られていた。


「はい!」と慌てて、お湯を汲みに行った。誰もいなくなったので、頭までお湯に浸かる。


 何回か熱いお湯を足させて、やっと身体の芯まで温まった。

 ずぶ濡れの服を浴槽に脱ぎ捨て、メイドが差出す布を身体に纏う。

 このままでは、やっと暖かくなったのに湯冷めしちゃう。


「乾け!」と唱えたら、あらあらら不思議、お肌も髪の毛も艶々に、乾きました。


「早く下着と寝巻きを!」

 驚いているメイド達を急かせて、やっと寝巻きを着てベッドに横になれた。


「熱いお茶にハチミツを入れて持ってきなさい」

 砂糖も少しはあるみたいだけど、今日の気分はハチミツだよ。


 それと、少し考えなくてはいけないからね。糖分を摂って、脱出プランを練らないといけないんだ。


 女神クレマンティアから死にそうになりながら貰った知識。ほとんどは受け取れなかったけど、脱出ルートに役立ちそうなのもあった。


 隣国アスラへ行くルートの途中で港町ヨシュアがある。ここら辺では一番大きな港町だし、宿も多いから泊まると思う。


 ここからは、どうやって宿泊している宿から抜け出すか? なんて考えても無駄。とにかく、逃げ出すしかない。


 ヨシュアの港から、できればアズール海を南の大陸まで渡りたいけど、人間の船の運行表までは女神クレマンティアも知らないみたい。前世だったらスマホがあったのに! と無駄な知識が思い浮かぶ。


 それは、港で考えれば良い。今できるのは、金を準備する事。サーシャ、文無しだからね。船賃が払えるか! それが問題だよ。

 

 密航? この世界でそんな舐めた真似をしたら、奴隷落ちだよ。船員達にやられた挙句、娼館に売り飛ばされちゃう。ぶるぶる……。


 あっ、アイテムボックスにしまってあった金のブローチ、女神クレマンティア様の祝福付きだから、売れば……。いや、それは無いな! これから女の子が一人で生きていくんだ。加護は絶対に必要だ。


「無いなら、盗むしかない!」

 前世では万引きもした事がないけど、非常事態だ。それに、母親マリアを殺された慰謝料と養育費を貰うと思おう。


 アズール海を渡り、交易都市エンボリウムに先ずは行きたい。

 そこで暮らせるようなら、それで良いし、駄目ならその先の防衛都市カストラ自由都市群パエストゥムを目指そう。


 金目の物は、一応は王女として遇しているから部屋にある。でも、それでは船に乗れない。


「この燭台、趣味の悪い修飾があるけど、きっと高く売れるわ。でも、これをもたもた売っている暇なんて無いと思う」


 いくら邪魔な王女でも、隣国の第四夫人にならないと困るのだから、ある程度の護衛と一人は侍女が付いてくる。

 侍女は、眠らせば良い。護衛は、旅の初めから早く寝て、遅くまで起きないと思わせよう。


 やはり、この脱出計画の鍵は、金だ。サーシャの真面目さに文句を言いたい気分だよ。

 サーシャは、魔物を何匹も討伐していた。肉や毛皮を修道院で使うのは、仕方ないけどさ。魔石を真面目に院長に差し出す必要はなかったんじゃない?


 趣味の悪い燭台を手に持って「鑑定!」と唱えてみる。値段がわかれば良いかな? と期待したけど『金メッキの銀の燭台』としか分からなかった。


 多分、これまで鑑定を使った事がないから、レベルが低いんじゃないかな。


「そうか、アイテムボックスも小さいわ。これから、アスラ王国に出発するまでに大きくしたい」


 とりあえず、意味なく置いてあるクッションを二個入れてみる。

 枕があるのに、クッションって必要ある?

 うん、このくらいなら大丈夫!


 さて、今日から城を漁ろう! 食事は、この部屋で食べる。他の王族とは別なのは、こっちも不愉快だからありがたいよ。

 特に、サーシャを強姦しようとした第一王子リグズェール、手助けした第二王子コレール、それに助けようともしないで眺めていた第三王子パレス


 旅立つ時は、相手側の使者も来るから顔を合わせる機会もあるだろう。

 絶対に復讐してやる! 首を洗って待っていな!


 食事は、いつも質素。これは、多分使用人用だね。でも、修道院よりはマシだから、サーシャは文句なんかつけなかった。


「デザートにオレンジが欲しいわ」

 私は、文句を言うけどね。一瞬、反発しようとしたメイドに厳しく命令する。

「早く持って来なさい! ナイフも一緒に持ってくるのよ」


 ああ、嫌だ! 前世の私が嘆いているけど、生き残るには仕方ないんだよ。これまでの態度が悪いとはいえ、弱い立場のメイドを虐める趣味はない。

 あのクソ王子達には、仕返しをする気、満々だけどね。


 脅したのが功を奏したのか、オレンジを山盛り持って来た。これは、南の大陸からの輸入品だ。存在は知っていたけど、修道院では、食べた事なかったよ。


 ナイフで皮に傷をつけて、一つ剥いて食べる。

「美味しい!」サーシャの中にいる時から十五年、こんなに美味しい物を食べたのは初めてだ。

 勿論、アイテムボックスに二個入れておく。全部、入れたら変に思われるからね。


 さて、寝た振りをして、家探しに出かけよう。

 王女の寝巻き、これきっとあの王妃オルグェーヌのお古だね。洗濯してあるけど、レースとか綻んでいる。嫌だ、嫌だ、母親マリアの殺人犯のじゃん!


 それに、こんなの着て出歩いていたら、目立つ。メイドの服を手に入れたい。

 アイテムボックスから、見習い修道女の服を出して着替える。

 灰色のボロ服だけど、寝巻き女が彷徨くより怪しくないだろう。


「さて、そろそろ行きますか!」

 ざわついていた城内も静かになった。使用人達も寝たのだろう。

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