第38話 恐ろしき長女

 私とメタリーナは並行しながら歩いていった。

 鼓動が未だに元に戻らない。

 恋ではないのは明らかだ。

 チラッと長女を見た。

 メタリーナは優雅に揚げドーナッツを食べながら歩いているが、一切隙を感じられない。

 仮にもし攻撃しようとしたら、あっさりかわされて致命傷の反撃をこうむる事になるだろう。

 それくらい彼女の身体から目に見えない不気味な何かがまとっていた。

 こんな未知数の恐ろしさを持つ相手にロリンとムーニーに会わせて良い訳がない。

 このまま適当に歩かせて時間を稼ぐ――いや、すぐに見抜かれてしまうだろう。

 素直に案内した方が良いのかもしれない。

 彼女の機嫌を損ねたら、最悪な未来が待っていそう。

 なんて事を考えながら城の跡地に戻ってきた。

 もう完成したみたいで、ロリンとムーニーがハイタッチをしていた。

 まだ長女には気づいていなかった。

「ろ、ロリン!」

 私は出せる限りの声で二人に呼びかけた。

 先にロリンが気づいた。

「おっ、メタちゃ……」

 だが、隣にいる長女を見るや否や、途端に言葉を失って顔を強張らせていた。

 ムーニーがガシャーンと手に持っていたフラスコを落として、真っ青な顔で彼女を見ていた。

「め、メメメメメメ、メメタリーナ……お、おね、おね……さ、さま」

 まるで極寒にでもいるかのようにムーニーの声や身体、指まで震えていた。

 それに対してメタリーナは揚げドーナッツを全て食べ終えたのだろう、紙袋をクシャクシャにして丸めた後、ボールみたいに投げて遊んでいた。

「なんだ。もうロリンと会っているじゃない」

 メタリーナはそう言いながら馬なし馬車の方に近づいてきた。

 馬なし馬車は前みたいに上につのが付いておらず、底に小さな車輪もなかった。

 代わりに薄い板が屋根みたいに貼り付けられ、車輪は前よりもサイズが大きくなり、長方形の四つの隅らへんに一つずつ置かれていた。

 メタリーナはじっくりと馬なし馬車を観察していた。

 ロリンとムーニーは黙ってその様子を見守っていた。

「ふーん、なるほどね」

 長女は何度も頷いた後、ムーニーを見た。

「これを使って連れて帰ろうとしていたのね。それだったら、先に連絡しておかないと。

 連れてくると行ったきり、ぜーんぜん戻ってこないから、お姉ちゃん心配してわざわざ様子を見に来たんだよ?

 なんか言う事ない?」

 穏やかに言ってはいるが、最後の『言う事ない』が彼女の本音を物語っていた。

 たぶんかなりイライラしているみたいだ。

 そう思った時、私の全身に鳥肌が立った。

 ムーニーも長女の殺気を感じたみたいで、今にも号泣しそうなくらい目に涙を浮かばせていた。

「おね、おねえ、さま、えっと、その……ごめ、ごめんな……」

「はっきり言って」

 メタリーナの声が急に鋭くなった。

 まるで砲丸みたいに強烈な一言にムーニーはビクッと飛び上がらせた。

「ご、ごめんなさい」

 ムーニーは震えながら頭を下げた。

 これを見たメタリーナは「よろしい」と穏やかな声に戻ると、「それにしても面白いものを作ったね」と馬なし馬車に興味津々といった顔をしていた。

「これが『叡智』と『天才』の共作……でも、これじゃあ、島までどれくらいかかるか分からないわよ」

「あ、あの……メタリーナお姉様」

 ムーニーが恐る恐るといった様子で口を開いた。

「なに?」

 メタリーナが遊んでいた紙袋の魂をグシャッと潰した。

 これにムーニーはビクッとなっていたが、深呼吸した後、話し始めた。

「実は……」

「待って、私が話す」

 ロリンがムーニーの話を遮ると、メタリーナの方を向いた。

「もうこんな馬鹿げた事は止めましょう。チャーム王子をメタの元へ返して」

 彼女はムーニーに比べて長女に物怖じしている様子はあまりなかった。

 むしろ毅然きぜんとした態度で話していた。

「ロリン」

 だが、メタリーナがおもむろに手袋を外して素手を露わにした。

 紙袋の塊を素手に持ち変えると、なぜか塊が燃えてあっという間にチリチリになってしまった。

 これにはさすがのロリンも動揺していた。

 ムーニーがまたガタガタ震えてしまった。

 メタリーナの紅い瞳が光った瞬間、私の背筋がゾワッとした。

「あなたはいつから長女になったの?

 私に物言いできるのは、四女まで。

 九女のくせに私に指図するな」

 メタリーナは強めの口調で言うと、足早にムーニーの所に行った。

「ねぇ、ムーニー」

 妙に優しい声で話しかけているのが不気味で、それはムーニーにも伝わったのか、腰が抜けたようにストンとその場にへたり込んでいた。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」

 呪文みたいに謝っていたが、メタリーナは全く聞こえていないかのように話を続けていた。

「まさかあなたもロリンと同意見じゃないよね? 知ってるでしょ、お姉ちゃんが人に裏切られるのが何よりも嫌いってこと……」

 そう言って、突然ムーニーの腕を素手で掴んだ。

 かと思えば、なぜか手の隙間から蒸気が出ていた。

「あああああああああああ!!!」

 断末魔みたいに悲鳴をあげるムーニー。

「やめて!」

 私は駆け寄ろうとしたが、長女にギロッと睨まれてしまった。

 たったひと睨みだけで、私の脚が動かなくなってしまった。

 まるで本能が彼女に接近する事を拒絶しているみたいだった。

 メタリーナはゆっくりと肩から手を離した。

 ムーニーはうつ伏せに倒れ、嗚咽が聞こえてきた。

 ムーニーの肩からあり得ないくらい蒸気が出てきたが、その隙間からおぞましいものが見えた。

 骨だ。骨が剥き出しになっている。

 手に触れただけで皮膚を溶かしたっていうの?

 チラッとメタリーナをみると、罪悪感なさそうな顔をして手袋をはめていた。


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メタリーナ、恐ろしい方でしたね!

触れただけで皮膚を溶かすとか……一体何を食べたらそんな身体になるのでしょうか……え?


はい……って、うわあああああああ!!!

よ、妖精の国の兵士さん、こんな所に……って、何をするの?!


やめ、離して!

やだ! 地球に戻りたくない!

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