第1話 ネカマ

『あなた方は全員「Fantasy Universe Online 2」略して「FUO2」のプレイヤーだったはずです。しかしあの物語は、ゲームの物語ではありません。現実です』


ディスプレイに映るシウラさんの話は続くが、周囲のざわつきがどんどん大きくなる。うわ、初心者プリセットの人も多い。何だか懐かしいなぁ。ちょっとだけプレイした人まで、巻き込まれたならご愁傷様ですとしか言いようがないんだけど。


「話が読めた」

「奇遇だな。俺も読めたわ。

……強制徴発かい」

「装備はどうなってる?」

「普通にアサシン/ソードマンで使っていた装備だな」

「こっちはソードマン/ナイトで使っていた装備だ。まあラストだったし1番強い状態にはするわな」


周囲の装備を見て、自分の装備を確認するけど、3部位全てで課金して手に入れた防御系特殊能力を10枠全てに突っ込んだ通称『カチ装備』を身に付けていた。詳しい能力値はゲームと同じか後で確認するけど、まあ滅多なことでは死なない。というかこのカチ装備を作る前からソードマン/ナイトで死んだことはない。


『物語では最終章で主人公が大いなる闇を打ち払いハッピーエンドを迎えましたが、現実は違います。主人公に該当する人物が最終章前の7章ラストで死亡しています。その代替戦力として、あなた方を招待いたしました』


シウラさんの話はとうとう本題に入り、主人公死亡済みとかいう大変辛い現実を押し付けて来た。確か7章ラストで主人公は大いなる闇陣営に裏切った人と刺し違えて一歩間違えば死亡、みたいな描写がされていたかな。ということはそこで主人公に該当する人が死んで、大いなる闇と戦う戦力としてFUO2プレイヤーを連れて来た感じ?


……ゲーム内では滅茶苦茶戦闘しているが、現実世界で戦闘した経験なんてない。いやこれどう考えても無理だろ。現在進行形で背中に背負っている大剣とか、使ったことすらないんだぞ。


『どうか大いなる闇の打倒に協力して下さい!600万人のFUO2プレイヤー達の力があれば、きっと倒せます!』


600万人。そうは言うものの、ここにはそこまで大人数居ない気がする。恐らく、1万人も居れば良い方か?ロビーが凄く広いとはいえ、端が見えるしな。寿司詰め状態だけど、600万人は居ないと思う……。


「なあ、どう思う?」

「ムリゲー。カチ勢のお前はともかく、俺は1回のエマージェンシークエストで1回はペロるし、最終章の敵ってストーリーの敵なのにやたら強かったじゃん」

「……自分はまあ、基礎防御ステの暴力で一回もペロらなかったけど時間はかかったな。サービス終了間際、ラストのプロフェッショナル基準をクリアしているプレイヤーって何人ぐらいいると思う?」

「3000人は超えてないな。昨日称号獲得人数でプロフェッショナルになっているプレイヤー数を計算したけど、最大で3000人程度だったぞ」

「あー……まあ、カンストで装備も充実しているシアリーが3000人も居たら何とかなるのか?」


このゲームは、基本的には誰とでも遊べるゲームだ。最大12人でクエストに行くマルチ形式であり、その仕様上、サービス開始から5年目までは寄生プレイやスタート地点で放置するプレイが横行した。そのため、次第に真面目にプレイしているプレイヤーはそれ以外のプレイヤーとの区分を望むようになった。


そして運営側は、プロフェッショナルとカジュアルの二つの層にプレイヤーを分ける。プロフェッショナルの基準を満たした者はプロフェッショナル限定ブロックへ移動することができ、そこでクエストを受注することで『プロフェッショナル限定ブロックへ移動出来ないカジュアル層と一緒のマルチ』という状況にはならないようになった。


この制度、最初はとても喜ばれたが、次第に雲行きが怪しくなる。カジュアル同士でマッチングして行くと、エマージェンシークエストがクリア出来ない状況となるのだ。やがてカジュアル層はゲームを辞め、人口が減る。人口が減るとプロフェッショナルの割合が高くなり、割合を減らすために再度基準が設けられる。


次第に求められる技量は高くなり、カジュアル落ちしたことでゲームを辞めるプレイヤーが多発した。そしてどんどん先細った結果がサービス終了という認識だ。まあ今のこの状況を考えると、わざと先鋭化させたという捉え方も出来るけど。


『ゲーム内で保有していた通貨は残念ですが使用できません。しかし、アイテムや装備であれば使用することが出来ます。後日、順番に案内人を用意いたしますので個室で自由にお過ごしください』


ディスプレイに映るシウラさんは、それだけ言うとお辞儀をして去ってしまう。残ったのは困惑している人、ゲーム内に来れたと喜んでいる人、ふざけるなと叫んでいる人などと様々だな。下手したら暴動とか起きそうなんだけど大丈夫かな。


「個室か。これってマイルームがゲームでの状況そのままってことかな?」

「お、じゃあ俺のマイルームは温泉宿になってるな。ちょっと気になるわ」

「自分は完全に女子の部屋だから嫌なんだけど……あとコレクション部屋が恥ずかしい」

「あの何億ゴールドかけたんだっていうマットやポスターの山はゲーム内通貨がない今、財産じゃないか?」

「現実的に考えてマットやポスターにどれだけの価値があるかって話よ……」


ゲーム最盛期の時は、アクティブプレイヤーが40万人から50万人ほどいたため、それなりに装備の整っている人が多い、しかし1年前からレベルキャップが80レべから100レべ、100レべから120レべと極端なインフレが起きたため、5年前のレベルキャップである65レべの人が多い印象だ。


そして何より、レベル5からレベル30の人が半分以上いる。これは面倒な状況だな。この後ロビーに居ても暴動とかに巻き込まれそうだし、さっさとマイルームの方へ移動するか。

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