第40話 アチキはアチキに優しい人の味方

 食べ歩きという行為は一見、行儀の悪い行為にも見えるが、屋台の料理を食べるのもまた一つの文化である。少なくとも獣人街において、こうして歩きながら食べるのはマナー違反ではない。


「……トリスもレグルス大公の方が王だと思ってたりしますか?」


 肉串を食べながら、ルミナは隣を歩くトリスに問いかける。何だかんだで皇族として、さっきの熊店主の言葉が気になっていたのだ。


「正直、考えたこともなかったッスね」


 トリスは腕を組み、真剣に考え込み答える。


「アチキはアチキに優しい人の味方ッス」

「えぇ……」


 ニカッと笑いながら告げたはぐらかすようなトリスの言葉にルミナは納得がいかなそうな表情を浮かべていた。


「さっきの肉串の店主は主語が大きくなってただけだ。あんまり獣人で一括りにしない方がいいぞ」

「わかっています」


 釘を刺すように言うソルドに対して、ルミナは頬を膨らませる。


「わたくしだっていつまでも世間知らずの小娘ではありません」

「屋台を凝視しながら言っても説得力がない……」


 それから屋台をまわる度にルミナはあれが食べたい、これが食べたいと言ってソルドの手を引く。そんな様子を一歩下がったところからトリスは微笑まし下に見守っていた。

 屋台を周る中でルミナは 店先に吊された大きな鼠を見て顔を引き攣らせた。


「獣人って鼠まで食べるんですか……」

「これは食用の奴だから衛生的には問題ない。まるで獣人が鼠なら何でも食べるみたいな言い方はやめろ」


 真っ青な顔をしているルミナをを咎めるようにソルドは説明する。

 獣人の食性は基本的に雑食だ。トリスが肉串を食べるように、草食動物の獣人が肉を食べることは往々にしてあることである。


 もちろん、宗教や味覚の好みは人間と異なることも多いが、そこまで大きく人間と差があるわけではないのだ。


「食用鼠は一時期問題になったッスよね」


 しかし、その特性を細かく理解している人間は少ない。


「獣人は鼠も食べるって誤解が広まって人間の中には雇ってる獣人にそこらで捕まえたドブネズミを食わせた奴もいるくらいだしな」

「理解のない人間の行動は恐ろしいですね……」


 人間が獣人に対して行った非道にルミナの顔が曇った。

 現在まで帝国内で蔓延っている獣人差別には、こういった人間側の無知や勘違いによって引き起こされたものも少なくない。

 両手いっぱいに屋台で購入した食べ物を抱えながらもルミナは改めて人間と獣人の隔たりの深さを実感していた。

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