パンデモニウムパレード

@gyarooo

第1話 原因

ものすごい爆音が鳴り響き、街の建物が一気に崩れていく。

それと共に、ヤツは姿を現した。


パンデモニウムパレード

EP1 原因


密陀僧色の触手がうねり絡まった巨体の上部には横に長い口のような物があり、中には真っ白な尖った歯が並んでいる。


どのくらい時間が経ったかわからないが、突如現れた巨大な化け物の前で少女は目を覚ます。彼女の真っ黒なジャケットやズボンは煙で白くなり、反対に真っ白な髪の毛は黒く汚れていた。体の上に乗っかった瓦礫や破片をどけ、倒れたビルの隙間から外に出る。彼女の名前は平井 澪。15歳の少女である。平井は何が起こったかわからないまま歩き出し、化け物の前まで来て止まる。化け物は巨大な体を水色の膜のようなもので覆い、眠っているようだ。平井が水色の幕に触れようとすると、後ろから

「待て!」

と野太い声が聞こえた。平井は身を震わせ、さらに水色の膜ギリギリのところまで指が移動してしまった。平井が水色の膜から少し離れて後ろを振り向くと、そこには自衛隊の格好をした40代半ばくらいの男が立っていた。顔には髭を生やし、一瞬太っているように見えて体全体を筋肉が覆っている。

「やぁ、嬢ちゃん。あの膜は危ないんだ、怪我はしてないかい?」

そう言いながら自衛隊員のおじさんは平井の方に向かって歩いてくる。平井は黙って頷く。

「そうか。他、誰か倒れている人はいなかったかい?」

自衛隊員の質問に対し、平井は俯いたまま返事をする。

「…いや」

「そうか。家はどこ?」

「…………」

平井は黙って当たりを見渡す。街は跡形もなく崩れ去っていて、ここが知っている場所なのか知らない場所なのかもわからない。

「さぁ…多分壊れちゃったんだと思います」

「そうか……じゃあちょっと、おじさんについておいで。」

そういうと、自衛隊員は歩き出した。

平井は黙ってついて行った。


自衛隊員に誘導されてついて行った先は、近くの自衛隊基地のようなところだった。基地に着くと、

「じゃあちょっとここで待っててな」

と言い残し、自衛隊員は行ってしまった。平井は黙って頷き、近くにあったベンチの近くで立っていた。青色のプラスチックでできているそのベンチには、負傷者と見られる腕に包帯を巻いた少年が、うつむいて座っている。自衛隊基地にいる隊員達は、忙しそうに平井達の前を通り過ぎていく。


おじさん隊員に待ってろと言われて数分が経った頃、平井の元に二人の若い自衛隊員が駆け寄ってきた。

「やぁ、まったかい?」

背の高い方の自衛隊員が平井に話しかける。平井は低い声で、いえ…とだけ言う。

「こいつが君の知り合いらしいから連れてきたんだ。身寄りのない子供はここで預かることになってるからコイツに案内してもらってくれ」

それだけ言い残し、背の高い自衛隊員は行ってしまった。

平井は自衛隊員に知り合いなんていたか?なんて思ったが、後ろにいた背の低い方の自衛隊員を見た時、なんとなくわかった。

「久しぶり。澪」

彼の名前は松村 豊。昔の幼馴染で平井の一個下の青年である。平井が10歳の時に引っ越す前よく遊んだ仲だった。平井は松村の家は確かに貧乏だったが、未成年がこんな所で働いていいのか?なんて思ったりもしたが複雑な事情があるかと思い、たぶんボランティアかなんかだろうと思い込むことにした。

「久しぶり」

平井は頑張って作り笑いを見せたが、ひきつってドヤ顔のようになってしまった。

「部屋に案内するからと来て」

「うん」

平井は松村の後についていく。5年も経っているので当然の事だが、自分より背の高くなった松村に、平井はなんだか慣れなかった。前と同じように豊と名前で呼ぶが、ついうっかり松村さんなんて呼んでしまいそうだった。

「でもあんなにバケモンの近くにいたのによくそんな無傷だったな」

「うん…多分倒れたビルとかが盾になったカンジだと思う」

「そっか。幸運だったな。てか澪この辺に住んでたんだね、引っ越してからなんも連絡ないから心配だったよ」

「ごめん。スマホとか持って無かったし…。でも行き場所くらい言えばよかったね」

「うん。まあ確かに。こっちの生活は楽しい?」

「……わかんない。あんま変わんないかも」

話しながら歩いてるうちに、部屋に着く。そこは壁床共にコンクリートで正方形のような個室で、奥の壁に窓が一つあった。家具はベッドと机、ゴミ箱が一つだけあった。

「そっか―。お、ついた。ここが部屋。なんか牢屋みたいだけど、ごめん」

「いやいや。ありがとう」

それだけ言い、平井は部屋の中に入っていく。

平井がドアを閉めようとすると、松村が言う。

「あ、そうだ。忘れてた。ここに来た人全員に一応聞かなきゃいけないんだけど…。澪、あのバケモンについてなんか知ってることとかある?」


「…………」


平井は少し黙る。予想外の反応に、松村は思わず小声で「え?」と言う。

「あるの……?」

松村の額からあせが出る。

「関連性があるかはわからない……。けど、その時から記憶がない。気づいたらビルの下で寝てた。」

「その時?」


時間は少し巻き戻る


巨大な化け物が出現する少し前。平井はベッドのなかで眠っていた。が、隣の部屋からのもの音で目を覚ます。平井は眠りの深い方なので、こんな体験は初めてだった。隣の部屋は、平井の保護者である筒木 緑の部屋だった。彼女は平井の親ではない。平井の親は事故死していたので、保護ボランティアの団体に保護されたのだ。平井の家はなんともなかったが、筒木の都合でこっちに引っ越してきたということになる。

平井は目が覚めたことにより少し小腹が空いたもので、リビングに何か取りに行こうとする。音を立てないようにドアノブを曲げながらドアを開け、つま先で歩きながら部屋を出る。ドアは閉めようとするとキィィと音が鳴るので、開けたままである。階段を降りるために筒木の部屋を横切ろうとすると、ドアが少し開いており中の光が少し漏れていた。少し物音の正体が強盗などによるものだと思っていた平井は、筒木によるものだったとわかり安心した。平井自身、筒木の部屋なんて見たことなかったし、何をしているか気になったので、空いたドアの隙間から覗いてみることにした。そこで、平井は驚きの光景を目にする。


そこには、知らない男に股をつかれて甲高い声で喘ぐ筒木の姿があった。体の9割は完全に露出しており、ドアの隙間からでも本来見えるはずのなかった彼女の体の部位が見えていた。平井は現状に理解が追いつけず、吐き気を催した。なんなら、喉を一度通過し少量口の中まで出ていた。

「……………」

平井は声を押し殺し、理解が追いつくまで黙って見ていた。と言うより、とっくにわかってはいたが知識でしか知らなかったものを現実で見る新鮮さに少し好奇心が生じ、見入っていた。怖いもの見たさという感情もあった。

「…………っ…」

平井は声を漏らす。筒木達がフィニッシュしたのだった。幸い、平井の声は彼女達には聞こえてないようだ。平井は終わったか…と思いなんとなく胸を撫で下ろした。


その時だった。


筒木の腹部から何か触手のようなモノが伸び始めたのだ。そこから記憶が飛んでいる。


「…………終わり。」


いや絶対関係あるじゃん……。と松村は言いそうになったが、思ったよりショックを受けてそうな平井に何も言えなかった。松村は話しているうちになんだか恥ずかしくなり俯いている平井に礼を言い、その場を去った。

平井は松村が去ったのを確認したあと、少しキョロキョロしながらベッドの上に座る。意外とふかふかで、柔らかかった。

平井は窓を見ながらため息をつく。

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