壊れた世界の魔石取扱人

八咫

第1話 災厄の日

なんのこともないただの一日。

 なんの記念日でもなかったこの日が人類にとって永久に忘れることのない一日になったことをまだ、誰も知らない。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 バンッ、音を立て机が少し揺れる。

 地震を思わせる小さな揺れから、その日は始まった。


「あ、地震だ」 「震源地どこだ?」  「またぁ?」


 クラスが地震によってざわめきながらみんな避難準備をする。ここ最近地震が続いているのでみんなの避難準備も大丈夫だ。すぐに、机の下に隠れていく。そんな中、机の下で携帯をいじっている人がいた、天羽蓮だ。


 体系は身長176㎝で横はどちらかというと細い。高校二年生で、顔は整っているほうだ。学校に秘密で持ってきた携帯で調べてみると各地で同じような地震が起きているらしい。


 震度5か、結構大きいな。これが各地で起こっているとなると……。


「大丈夫か?、これ」


 思わずつぶやいてしまったその時だった。


 携帯の画面にものすごい速さで情報が流れ込んくる。

 慌てて形態を凝視して移り変わる画面から情報を得ようと凝視する。

 すると、少しばかり見逃せない情報が流れていた。


「え!?、他の国でも同じような地震が多数起きてるのか、というかこの地震の震度8だ、記録超えてるな、急遽定めたのか?」


 こう喋っているいる間にもどんどん速報が出てくる。その速さはほとんど見れないほどだが、かろうじて断片的な情報は探ることは出来る。

 俺は人生でも中々ないほどの集中力を要してそれを見ていた。


 しかし、それも終わる。


 突然画面が真っ暗になり、スマホが熱を帯びた。

 あまりの暑さに、思わず携帯を落とした。


「情報量が多すぎて落ちたのかよ」

「おい、どうなってるんだこれ」


 悪態をつきながらスマホを拾う俺に、心配そうな顔をした隣の席のクラスメイトが聞いてきた。


「・・・・・・全国、いや世界各地で同じような地震が起きているらしい。プレートがないところでも同様にだ。ひどいところでは過去最高の震度8があった。日本にはまだ来てないが…その内くるであろう。」


 地震で物が落ちてきて声が聞こえなくなっていく中で大きな声で言った俺の言葉に想像を絶する事態が起きていることを察し、クラスメイト達は絶句する。

ちなみに今日は学校全体が自習であり、一部の教員を除いて会議のため出張に行っている。


「・・・・・・提案がある。今も地震が続いているわけだが、今のうちに校庭へ行かないか。可能性の話だが校舎が崩れるかもしれない。」


 まだ揺れている中、蓮はすでに動き出そうとしていた。

 校舎が崩れるなど現代日本においてありえない、ありえてはいけないようなことである。

 したがって反対するものも確かにいる。というかそれが普通であろう。

 文明が大きく進んだ現代では学校の建物が一番頑丈に作られているのだから。


「でも、この地震の中で行くとかリスクがありすぎないか? その間に命を落とす可能性はたくさんある。校舎が崩れるなんて聞いたことがないし。小さすぎる可能性を恐れてもっと危険なことをするなんて……、僕はいけない。」


 クラスメイトの一人が言ってきた。続くように他のクラスメイトも文句を口にする。

 クラスメイトの思考は至ってまともだ。しかし、


 俺の脳裏に思い浮かぶのは最後に見た動画だ。学校が崩れ落ちていく動画だった。場所はアメリカ、技術は日本のほうが上かもしれないが、崩れていた学校は新しかった。

 この古い学校では持たないような気がする。いや、持たないと断言できるだろう。

 しかし、この話をしたって、これもまた信じる人は少ないだろう。他の例としては某震度7の地震に何回も耐える家がつぶれている写真もあった。


 これもまた、信じる人は少ないだろうが……。


「みんなの気持ちもわかる、でも俺は行くよ。」


 周りに動揺が走るが、止めようとするものはいなかった。個人の意見を尊重するのがこの学校の校風だからな。教育が行き届いている証拠だ。


 覚悟を決めて走り出そうとした時だった。


「俺も行くぜ」 「私も行くしかないわね」 「僕も行かないとね~」 「私も行きます」 


 よく遊ぶ四人が立ち上がり声を俺の肩に手を当てる。

 目頭が熱くなるのを感じながら俺は言った。


「ありがとう。だけど良いのかい?行くまでで死ぬかもよ?」

「気にすんな。どうせ死なないよ。」


 まだ付近の人が開けていた扉を通って廊下に出た。

 ヘルメットを被り、手には手袋をはめる。


 窓ガラスは割れ、その破片がそこら中に飛び散っている。

 廊下はすでに戦場とかしていた。


 そこからはよく覚えていない、ガラスに気を付けながらがむしゃらに走った。

 階段を飛ばし、全力で廊下を駆け抜ける。

 途中危ない目にも合い、少々血を流しながらも無事にたどり着くことが出来た。


 へとへとになりながら校庭の真ん中で座り込む、そして校舎に向けて振り向いたとき、轟音とともに感じたこともない大きな揺れが俺たちに襲い掛かって来た。



 揺れの中で唯一見ることが出来たのは、校舎が崩れ落ちていく姿だった。




 揺れが収まるとそこには校舎だった残骸がある。慌てて駆け寄ってみるとあたりには死臭がはこびっていた。

見なくても何があったのかわかる。他の学年や先生たちも倒れている。これ以上見ることが出来ないと思い、背を向けて歩き出そうとしたその時、


「待ってくれないか」


誰かが声をかけてきた。

しばしの逡巡の後、ゆっくりと後ろをまた見てみるとそこには、血だらけになりながら背にもたれかかっている生徒がいた。


そう彼の名前は御剣。先ほど、俺の案のリスクを指摘したクラスメイトだ。


「......蓮のいう通り通りだったよ、リスクを言わずにみんな行かせればよかったな。」


 御剣はもともとよく遊んだ仲だ。今回は学級委員であり皆をまとめる立場にあったからこそ、俺たちと一緒に行けなかったのだろう。全く……、責任感がありすぎるんだよ。


「蓮、僕はもう長くない、君の手で殺してくれないか?」


その御剣が苦しそうに笑う。


「できるわけがない、友達だぞ」

「だからこそだよ、この状態だととても痛いんだ、苦しいんだ、もう開放してくれ、」


 御剣が知覚に落ちている包丁を渡してきた。

それを見て、俺も覚悟を決める。

俺は包丁を握りしめて、すぐに終わらせれる場所に狙いをつけた。


「御剣、最後に約束してくれ、もし死後の世界があるのならば……俺が死ぬまで待っていてくれないか?」

「そんなことか、待っているよ。それよりも早く……頼む……。」


 弓関係で鍛えられているので狙いは外さない。しかし友人を殺すのは初めてだ。震える手を抑えながら......


 俺は刺した。


「アハハハハハ、苦しくないんだな。死というものは。……………蓮、絶対に死ぬなよ。」


御剣は首元に感じる痛みを受けながらも笑っていた。そして、笑いながらまぶたを閉じた。


「さて、行くか。」


 内心の震えを悟らせないように冷静に言い俺たちは歩き出した。


 何かが変わったこの世界へ



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 僕、御剣雄二は最後に蓮たちを見ながらを体から何かを手放した。


 そして、あたりが明るくなったと目を開けたそこには、明るい闇の世界が広がっており、大きく厳つい顔をした男が手下らしきものを連れて人々を分けていった。

 周りには人、人、人、人でできた長い列があった。

 待っていても何もなさそうなので進む。1週間くらいかかってようやく男の人のところまでたどり着いた。


「カッカッカッ、お主の名前は御剣奏太というのか、ふむ……奥で仲間が待っているぞ、お前さんのことをな」


 閻魔様みたいな人がそう言って笑った。みんなというとクラスメイト達か!待っててくれたのか。……謝らなければな。


「ふむふむ、お主も後の5人を待つようだな、これは……、このままでは入りきらなくなるのぉ。いっそのことお前たち専用の部屋を作ろう。あそこだな」



 閻魔様(仮)に言われた扉の中に進んでいくとそこには、見知った顔があった。


「あ、御剣~」 「お帰り~」


 罵倒されると思ってたのにかかって来たのは温かい言葉だった。


「……なんで?」


 口から出てきたのはそれだけ、でも伝わったようだ。



「だって、御剣は意見を言っただけで、俺らは自分の意志で残ることを決めたんだぜ。」

「そうそう、御剣は悪くないわ」

「それより、蓮達をモニターで見れるようにしてくれたんだ。見ようぜ」



 みんなにつられてモニターを見に行くとそこにはありえない光景が広がっていた。

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