第27話 緊急特別軍事演習


 実戦を想定した演習。

 ということで、やってきたのは懐かしの、港町(跡地)!


 俺が初めて精霊殻に乗って大暴れした、今は人が住んでいない廃墟群である。


「わぁー、ここからだと壊れた不知火の壁しっかり見えるよっ!」

「あれがなければとうに隈本は戦火に見舞われ、人類の生存域を奪われていたのだな」

「ちゃんと役目を果たしてくれたなんて、政府サマサマだねぇ~」


 契約鎧装備の三羽烏が、設営した基地の一番高いところで遠くを見ている。

 彼らはこれから、小型の敵ハーベストがいないかを調べるという名目で、哨戒任務に当たる。


 機動歩兵イェーガーである彼らの役目は、逃げ遅れた人の救助や雑魚殲滅。

 大物とドンパチやるのがメインの精霊殻ではカバーできない細やかな対応をするための、命を懸けた大切な役割である。


 まぁ、鍛えまくったら普通に大型の敵もバシバシ落とせるようになるんだけどね☆

 契約武装刀DO-TANUKIでズパズパやるのがたんのしぃのよ。



「――あーあー、コントロール・ズーより各員へ。準備はできているかい?」


 指揮車から展開する霊子通信チャンネルを通じて、六牧司令の声が響く。


「ドッグ1、ドッグ2はそのまましばらく待機で。バード1からバード3はこれより哨戒任務に当たってください。なお、ミューズとリャナンシーは本作戦では運用しない。指揮車内で大人しくしているように」

「ハァッ? どうして――」


 プツッ!


 っと、わかりやすく天常さんの抗議の声をぶった切り、通信が終わる。

 ま、彼女とその従者さんは人類的にかなり貴重な存在なので、そういうこともあるだろう。



「んぇー? 聞きたかったなぁー、お嬢のガチな奴ー」

「まぁまぁ、お楽しみはあとにってことで。カケルちゃん的にも同意だったけどねぇ」


 ぶーぶー言ってる鏑木さんを、乃木坂君がなだめすかしているうちに。


「こちらバード1、準備を完了した。状況を開始する。バード2、バード3、俺に続け!」

「おっとっと、ほらほら。バード2、了解」

「ぶーっ! バード3、了解だよっ!」


 三羽烏一番のマッチョマン木口君が呼びかけて、気持ちをスイッチ、動き出す。


(うーん、さすがは木口君。隊長技能レベル2は伊達じゃないな)


 防衛軍からこっそり寄越された人材なだけあって、なかなか堂に入った指示である。

 でも三羽烏の中で脳筋担当してるのは、間違いなく素だと思います。



「……しばらくは、様子見というところか。ドッグ2、キミにも索敵をお願いする」

「了解だ」


 佐々君からの個人通話に応えつつ、俺は戦場をゆっくりと観察する。

 モニター越しに軽く見回しただけでも、そこかしこが崩れ、ひび割れ、閑散としていた。


(ほんの数ヶ月前まで、ここでは人の営みがあったんだよな……)


 道路を人々や車が行き交い、家々からは色んな生活の音が響いて。

 こんな、遠くの波の音が聞こえてくるような静寂は、およそ考えられない日々が続いていた。



「戦って、勝っても、守れない物はたくさんある、か」

「……そう、だな」


 思わず呟いた言葉に、佐々君から重苦しい返事が届いた。

 できるなら、こういった市街への被害ってのも減らしていければと思う。


(戦局が悪化すると、デートスポット減るんだよなぁ……)


 宵闇の乙女にして夜の女神黒川めばえちゃんを連れ出して、色々なところに行きたい。

 ゲームだと、天久佐地区の奪還に成功したら教会行けるんだよなぁ。

 隠れ救世主伝説ゆかりの地だから。


『こんな場所、わた、私には、似合わない、わ……』


 なーんて言いながら、それでも憧れてるのがわかる推しの表情差分!

 しかもそこで“結婚式のマネする?”って選択肢を選んだら! 選んだらっっ!!


 くぅ~~~!! 現実でもお目にかかりたい!!


「くっ……」

「黒木? ……そうか、そうだな。守ろう。ボクたちが、やるんだ」

「あぁ……必ず」


 今からその時が楽しみだ。

 いっそ、天久佐地区をゲーム本編開始まで守り抜くか? いや、さすがにそれはダメか。

 大きく歴史を変えてしまうと、俺も予測が立てられなくなっちまう。


「くぅ……!」

「あぁ、黒木。そんなにも平和を願って歯を食いしばって……ボクは、ボクは!!」


 ぐぬぬ、我慢。我慢だ!

 ハッピーライフまでの道のりは、まだ遠い……!



      ※      ※      ※



 作戦開始から30分。

 定期的に三羽烏から伝えられる報告に耳を傾けながらも、ゆっくりとした時間が進んでいる。


「空が、青いな……」

『本日の上天久佐は晴天です。気温は17℃。湿度は――』

「あら、聞いてもないのに報告なんて、ヨシノさんってば暇してる?」

『――……』

「ごめんて」


 緊張感のないやり取りに、正直あくびが出そうだった。



(パイセンも警戒してたし、なんかありそうな気配はあったんだがなぁ……)


 現状。平和。しかしてさもありなん。

 不知火の壁崩壊時の大侵攻で、唯一人類が完全に守り抜いたのがこの場所なのだから。


 ハーベストは侵攻した場所に特殊なマーキングを施し、世界そのものを侵食する。

 そうして侵食すればするほど、彼らは数を増やし沸いてきて、さらに侵攻を重ねる。


(要はナワバリ争いって奴だよな。染めた分だけ自分の陣地にするわけだ)


 そうやって。

 敵はこの広い地球のほとんどを、奪ってきた。



「人類&精霊VSハーベスト。嘘じゃあ、ないんだよな」


 今、口に出した対立図に嘘はない。

 嘘はないが、すべてではない。


 世界の裏側にうごめく真実。

 その一端に関わっているのが……そう、建岩家。


 そんなところの息がかかった奴が指示した、緊急特別軍事演習。


 何もないはずがない。

 何もないはずがないんだ。



「――ヨシノ」

『ナンデスカ?』

「契約精霊の主人格変更。ヤタロウに代わってくれ」

『了解』


 念のため。

 俺はこの戦場の全域を俯瞰しようと声をかけた――その時だった。



「こちらバード3!! ハーベスト! 敵! 発見! 現在交戦中!!!! 助けて!!」



 バード3――鏑木さんからのSOSが、突如として届いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る