第25話 この手の世界観で昼行燈キャラは大体有能


「はぁい、はじめまして~。僕がここの司令官に就任する、六牧ろくのまき百乃介もものすけです~」

「「………」」


 霊子ネットを使ったリモート校長挨拶のあと。

 朝礼台にのぼって挨拶をした、これから天2の司令官になる本土の軍人さんは……。


「まぁ~、テキトーにやろうね。テキトーに、ね?」


 20代なのに学生服……なのは置いとくとして。

 いかにも中間管理職ですといった覇気のない姿で、にへらっと笑い愛想を振りまいていた。



「あれ、本当に軍人さんですの?」

「ボクに聞くな。だが、司令官と呼ぶには何とも頼りなさそうな……」


 ザワザワと動揺が広がる生徒たちの中。


(……やべぇのが来たな)


 俺は、嵐が来たのを確信した。



(“司令技能レベル3の昼行燈キャラ”がまずヤバいって偏見は置いとくとしても……だ)


 六牧司令のステータスをチェックした俺の、目に映ったモノ。


(参謀3に隠密3、諜報3、夜戦2、開発2、情報2、幻視1……)


 このガッチガチの裏工作ビルド。


(完全完璧に……首輪付きだな)


 職業軍人。

 つまりは、誰かしらの指示を受けてここへとやってきた人物。


 この技能お化けっぷりを見るに、バックにいるのは相当な存在だと容易に想像できた。



(佐々君と天常さんってビッグネームもいるし、そこに目を向けてる誰か、だろうな)


 なんて。

 それっぽい考察をしている風だが。


 ぶっちゃけ、誰が裏にいるかなんてわかりきってる。


(そりゃまぁ、動くよな)


 HVVハベベ世界観において、もっともブラックボックスな部分に手を出している一族。

 この物語のヒロインを輩出し、戦争に終止符を打つべく動き続けている存在。


 ――俺の推しを踏み台にしようと目論んでいる、俺にとっての……敵。



(隈本御三家その最後にして最大の名家、建岩たていわ家。“神秘の建岩”……俺は、お前たちを、知っているぞ!)



 建岩家は日ノ本の、ひいてはこの世界における救世の希望だ。

 だがただ一点。俺の推しの扱いに関してだけは、絶対に相容れない存在だ。



(すべてはHVV世界の人類存続のため。神にも悪魔にも魂を売り、血を吐きながらもあがき続けるお前たち一族に、俺は敬意を払おう……だが)


 だが。


 だが!


 だがっっ!!!


(俺の推しを、黒川めばえを利用することだけは、絶対に、許さんっ!!!)



「………」


 覚悟を決めろ。


 ここからが本番だ。


(あの子の、幸せな未来を手に入れるには、避けられない存在だ)


 俺はこのためにここにいる。


 俺はこのためにここにきた。


 だから。



「それじゃあ~、これからいろいろと、よろしく頼むねぇ~」


 みんなを脱力させる人当たりのいい笑顔で頭を下げる、この司令官殿に。


「ハッ! よろしくお願いします!!!」


 全身全霊のお辞儀をもって、宣戦布告した。


「うわぁ、キミ、元気がいいねぇ。へっへっへ。それじゃあ僕の分も、いっぱい頑張ってくれるかい?」

「ハッ! 己の使命を、全うします!!」


 わざわざのお声がけありがとう。

 向ける視線から警戒色が、バッチバチに届いてるぜ?


 せっかくあちらさんから顔見せてくれたんだし、ぜひとも仲良くしようじゃないか。

 色々な意味で、な?



「ちょっと、あなた声大きいのよっ」

「ふんぎっ!?」


 背後からパイセンにひと蹴りされて、場が和む。

 俺とパイセンの関係、周囲からは猛獣と猛獣使いみたいに扱われているらしい。


 おかげで前よりちょっとだけ、みんなから話しかけられるようになった。

 

 今回も効果は絶大。

 六牧司令から向けられていた警戒の目が、フッと緩んで逸れたのを感じた。



「すんませぇん」

「ふんっ」


 平謝りする俺に、小さな仁王立ちで鼻息を鳴らすパイセン。

 変な空気になりそうだったのを、なんとなく察して動いてくれたのかもしれない。


「ありがとうございます」

「……気をつけなさいね?」


 パイセン、マジで頼りになるっ!!

 今度好物のタピオカミルクティー奢ります! トールで!


   ・


   ・


   ・


「――さて。それじゃあ司令として、最初の指示をみんなに伝えるよ~?」


 仕切り直して、六牧司令がみんなに目を向け口を開く。


「本日これから緊急特別訓練として、実戦を想定した小隊規模による軍事演習を行います。わかるね? 実戦を想定、だ」


 ゆるゆるだった彼の目が、途端に鋭く、冷たくなった。



「これより20分以内に精霊殻、および指揮車の最終点検、各パイロットの出撃準備を整え、出撃せよ! 目標地点のデータは現時刻をもってキミたちのリンカーに送信済だ!」

「「!?」」


 突然の指示。

 生徒たちへと広がる困惑は。


「……始め!!」


 けれどもそれに、甘んじる時間を与えられなかった。

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