第5話・プルシャの姐御海に立つ……生物エネルギーを求めての狩り……そして宇宙へ
異世界の海岸まで、迷惑な低空飛行でやって来た、プルシャは宇宙船形態から女型形態へと変形を開始した。
片目を前髪で隠して、太い二本の三つ編み後ろ髪で、首から下を鎧を身に着けた女性形態に変形した超異世界女型要塞プルシャ姉型は、そのまま歩いて海の中に入っていった。
太腿まで海水に浸かる、プルシャの腰から上には霞の雲がかかっている。
プルシャの近くをガルムは飛行して護衛している。
要塞船形態から、首から下を鎧姿の女型になったプルシャにイケニエは落胆した。
「なんでだよぅ、なんでビキニアーマー姿。を移行させて、巨大女に変形しないんだよ!」
ブリッジにいるプルシャの仮想体が、気落ちしているイケニエに言った。
「しかたがないんですよ、あんな極小のビキニアーマーで腰まで海に浸かって、海中を歩いて移動したら脱げちゃって上陸した時に見えちゃうかも知れないでしょう」
「要塞船なのに、ナニが見えるって言うんだ? 宇宙船の噴射口か?」
イケニエの空気を読まない、セクハラに繋がる危険を含んた質問にパイが一言。
「そんなコト、言えるか」
そう呟いて、その場の空気を誤魔化して。
イケニエは意味もわからずに頭を、カミュに一発殴られた。
◇◇◇◇◇◇
女型形態で上陸したプルシャは、どこに隠してあったのか? 巨大なビーチタオルで濡れた体を拭くと、要塞船形態に変形した。
船外に出たイケニエが、感じていた疑問をプルシャにぶつける。
「最初から不思議だったけれど……どうして、要塞戦艦じゃなくて、要塞船なんだ?」
《戦艦って呼ばれるのに抵抗があるのです。元々は宇宙都市として建造されたもので、それが戦いが激化してきたから武装させられて……宇宙要塞に》
「そうだったのか」
無人島の浜に着陸した三ツ首のガルムが、戦槍を構えて言った。
《まるで、闘技場のような見通しがいい平らな無人島じゃねぇか……ここでなら、召喚した怪物と思いっきり戦えるな》
カミュが拳を打ちつけて、金属音を響かせて言った。
「傷つけずに捕獲するだけってのが、少し難しいが……やってみるか」
リズム、カミュ、狂四郎、メリノ、ハラミ、イケニエの六人と三ツ首のガルムの一体が、船外でリズムがこれから超召喚する怪物の捕獲をする者たちで。
ラチェット、メロン、ドール、ヤゲンたちは船内でスクリーンを見ている。
リズムが言った。
「最初に言っておきますが、巨大生物の超召喚魔法はかなりの魔法力を消費するので、それ以上の魔法援護は体力が回復するまでムリですよ」
少し浮かんだ大鍋の上に立った、特攻服姿のメリノが言った。
「心配するな、最終的にはアタイがヌイグルミに変えちまえばいいんだろう、楽勝じゃないか」
単眼を隠す、サングラスをした狂四郎が言った。
「打ち合わせした通りに、計画が進めば良いでござるが、生命エネルギーに満ちたモンスターは大人しく捕まってくれるとは思えないでござる……多少は弱らせてからでないと」
カミュが狂四郎に続いて、戦闘態勢に入った。
「とにかく、やってみないコトにははじまらねぇな」
イケニエが、意気込んでいるカミュの肩を、チョンチョンと指先でつついて訊ねる。
「どうして、戦力もありそうもないオレを、捕獲作戦に引っ張り出したんだ?」
「怪物の注意を引く、
「そんな囮役は、イヤダだ!」
「もう遅い、リズムの召喚術が、はじまっている」
リズムが召喚呪文を唱えると、大地に魔法円が出現して、棍棒を持った【
無理矢理に召喚されたキュクロプスは、怒り棍棒を振り回してイケニエを追い回して暴れる。
振り下ろされる棍棒から逃げるイケニエ。
「どうして、オレばかり追いかけて来るんだよ!」
カミュが言った。
「よし、あの活きが良い、凶暴なキュクロプスを捕獲すれば」
リズムが泣きそうな声で言った。
「ごめんなさい、ごめんなさい、魔法が強すぎてごめんなさい……超召喚魔法の暴走が止まりません。他の凶暴なモンスターまで召喚されちゃいます」
「なにぃ?」
大地の魔法円に続いて、空や海にも数個の魔法円が出現して、二体目の凶暴なモンスターが現れた。
現れたのは漆黒で赤い血のような模様が浮かぶ不気味なドラゴンだった、鋭い牙が生えた【吸血ドラゴン】が召喚された。
カミュが言った。
「これはまた、元気そうなヤツが現れたな……あの牙で咬まれて血を吸われても、ヴァンパイヤにはならないから安心しろ」
キュクロプスに続いて、吸血ドラゴンにも追われはじめたイケニエが絶叫する。
「だから、なんでオレばかり追ってくるんだ! あんな牙で咬みつかれたら血を吸われる前に串刺しだろう!」
リズムの召喚魔法の暴走は止まらない。
「ごめんなさい、ごめんなさい、魔法が強すぎてごめんなさい」
今度は巨大な怪鳥が空から現れた。
戦斧を持って喜ぶ、蛮族料理人ハラミ。
「ゾウを捕まえてヒナのエサにするという、【巨鳥ルフ】胸肉が美味しそう」
海からは【六牙の巨象】さらに巨大なカマキリ【モンスターマンティス】まで現れた。
キュクロプス
吸血ドラゴン
巨鳥ルフ
六牙の巨象怪物
モンスターマンティス
困惑しながら、必死に島から怪物たちを出さないように奮闘するガルムとハラミ。
《多すぎだろう! この数の怪物を傷つけないで捕獲するなんて至難の業だぜ……誰か怪物の動きを止めろ!》
もう泣き出しそうな声でリズムが言った。
「ごめんなさい、ごめんなさい、もう一体が召喚されてしまったようです……たぶん、これで暴走は終了します」
最後に現れてのは、とんでもないモノだった。
白い翼を背中に生やした大天使だった。
いきなり召喚された、巨人天使は不機嫌そうな顔でリズムを睨みつける。
「ひっ、ごめんなさい」
召喚された怪物と天使はイケニエを無視して、バトルを開始した。
ヌイグルミ魔法使いのメリノが、困惑した声で言った。
「狙いが定まらねぇ、怪物たちの動きを止めろ!」
狂四郎が、空に向かって鎖を投げてガルムに向かって言った。
「忍びの強靭な鎖でござる、この鎖を怪物に巻きつけて一時的に怪物と天使の動き封じを」
ガルムが怪物と天使を鎖で一網打尽にする。
カミュが言った。
「今だ、メリノ! ヌイグルミ魔法を」
「ヌイグルミになっちまぇ!」
鎖が千切れるのと、メリノの魔法が掛かるのが、ほぼ同時だった。
ボンッと白い煙が上がり、怪物と天使はサイズはそのままに、可愛らしいヌイグルミに変わった。
カミュが、勝利のポーズをする。
「捕獲成功! 見事な連携だった、狂四郎は忍術なんて使えたのか?」
「忍術は茶道や書道と同じ、武芸の嗜みの一つでござる」
◇◇◇◇◇◇
捕獲したヌイグルミが、プルシャの船内に運び入れられ。
プルシャが、もどってきたカミュたちにブリッジで言った。
「これで、宇宙へ飛び立てます」
「ヌイグルミでも、生体エネルギーの吸収が可能なのか?」
「大丈夫ですよ……ほら、大天使の翼の一部がほころんで、中のコットンが少し飛び出ているでしょう……吸収されている証拠です」
カミュがプルシャに訊ねる。
「そろそろ、話してくれたらどうだ……オレたち、異世界人を集めて
微笑むプルシャ。
「やはり、あなただけはすべてお見通しみたいですね……わかりましに、お話しします。あたしが宇宙へもどる目的は『あたしと、ガルムを廃棄した、帝国に一泡吹かせるためです』」
プルシャの、しゃべるビキニアーマーブラから、ガルムの声が聞こえてきた。
《終戦した途端に不要だと、オレとプルシャの、姐御を捨てやがった……あの、神を名乗る皇帝野郎》
「神? 皇帝は神を名乗っているのか?」
「ええっ、自称神を名乗っていました」
「そいつぁ、いい」
カミュが嬉しそうに拳と拳を打ちつけて、金属音をブリッジに響かせる。
「
「利害が一致しましたね……ピピ、宇宙に向かって離陸しますから。眠っている三人目の艦内管制オペレーター【クー・ロン】を、あなたの電撃で起こしてきてください」
下半身触手タコ宇宙人のピピが、
「えーっ、あたしですかぁ……クー、メチャクチャ寝起き悪いですよ……アンドロイドのクセに」
「クーを起こせるのはあなたしかいないでしょう……お願いします」
「寝起きで不機嫌なクーにバラバラにされたら、ちゃんと肉片をバイオ溶液の中に入れて、培養再生してくださいね」
ピピがブリッジを出てしばらくすると、電撃の音とピピの絶叫が聞こえてきた。
数分後──自動ドアが開き、気を失ったピピがブリッジに放り込まれる。
放り込まれたピピに続いて、パジャマとスリッパ姿でマクラを小脇に抱えた不機嫌そうな女が、ブリッジに入ってきて所定のオペレーター席に座って言った。
「まったく、気持ちよく眠っていたのに。オレを起こしやがって宇宙に向けて発進か?」
「ええっ、お願いします【クー・ロン】」
顔にメカ線があり、瞳が放射線状の星型をしたクーが、発進レバーを握る。
「面倒くせぇ……それじゃあ、未知の宇宙に向けて異世界から飛び立つぜ。乗組員はその辺にしがみついていな……超異世界女型要塞【プルシャ】姉型、発進!」
クーがレバーを倒すと、女型要塞プルシャは、島を吹き飛ばして離陸した。
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