蛮族料理人【ミスジ・ハラミ】恐れるなボクがやるさ、食材になる道があるさ

 サーカディアン・リズムが、宿泊していた宿屋から魔物が集まっている禿山に向かって宿を出た同日──宿屋の食堂では、ある騒動が持ち上がっていた。


 厨房の四角い窓から見えている禿山の山頂から突然、爆発音が響き渡り。

 山の形が崩れて変形していくのを戦斧を研いでいた。

 南方地域からやって来た、蛮族料理人【ミスジ・ハラミ】は、戦斧を研ぐ手を休めると。

 窓辺に寄って爆煙が上がる禿山を眺めながら呟いた。

「なんだぁ? 急に山が爆発したぞ?」


 不思議そうな顔でハラミは、山で捕まえてきた体長が三メートルほどある、巨大〝山ザリガニ〟の首を戦斧で叩き落として鍋に放り込んだ。

「山のザリガニは、煮込むといいダシが出る」

 センザンコウの皮鎧を着たハラミは、椅子に座ると中央地域の料理レシピ本を読みはじめた。

「南方地域とは異なった食材がいっぱいあるな」

 ハラミは未知の食材を求めて、旅をして中央地域のこの町にやって来たところで、旅費が底をついた。

 しかたがないので、旅費を稼ぐために、宿の女性主人に頼み込んで厨房で働かせてもらっていた。

「近くの村に空から落ちてきたのは、宇宙の船だと言うから。宇宙の生物が船の中にいるかも知れない……未知の生物はどんな形をした食材なんだろう、早く調理したい」


 ハラミが住んでいた南方地域には、アルマジロの皮鎧を着た親戚の凄腕蛮族料理人がいて、ハラミは彼女を尊敬していた。

 椅子から立ちあがったハラミは、煮込んでいる山ザリガニの頭の煮え具合を見て言った。

「いい味のダシが出てきた、コレで野菜を入れて弱火で数時間じっくり煮込めば、山ザリガニスープの完成」


 ハラミが上機嫌で、スープの灰汁あくをすくっていると。

 食堂の方から、男の怒鳴り声が聞こえてきた。

「誰だぁ、このマズい料理を作ったのは! 野蛮な蛮族の料理なんてこの中央地域じゃ、料理じゃねぇ」


 次の瞬間、厨房からボール状に丸くなったハラミが飛び出してきて、料理に文句を言った兵士の男をセンザンコウ球体で、ぶっ飛びした。

 皮鎧を着た少女形態に変形したハラミが、片腕を横に向けると厨房から戦斧が飛んできて、ハラミの手に握られる。

「ボクが作った南方料理の文句なら、聞こうじゃないか……どこが、マズい料理だって?」

 センザンコウボールで吹っ飛ばされた男は立ち上がると、テーブルの上の皿に盛られた焼いた肉の塊を指差して言った。

「これが、料理か! ただ、肉の塊を焼いて塩コショウしただけじゃねえか! こんなモノに金を払えるか!」

 ハラミが、南方料理の名誉のために反論する。

「はぁ? 注文は南方ステーキだったろう、焼いて軽く塩コショウ……これが、南方料理の基本だ! 薄味の料理に好みの調味料で味付けして食べるのが南方流だ」


 男が意地悪そうな笑みを浮かべて、ハラミに言った。

「ほう、そうかい。客に詫びて食事代をタダにする気はないようだな……聞くところによると、南方では四つ足のモノは椅子や机でも調理して食べるそうだな」

「それが何か?」


「じゃあ、オレが四つ這いになったら。調理できるのか」

「お望みなら、ただし食材が皿に乗っていたらの話しだけれど。床に調理した料理をぶちまけるワケにはいかないから」

「言ったな、それじゃあオレが皿の上に乗ってやるから調理してみろ……食材になってやる」


 男の仲間たちが厨房から大皿を運んできて、男が皿の上で四つ這いになった。

「ほら、四つ足になったオレを調理してみろ」

 戦斧の柄を握りしめてハラミが言った。

「本当に調理してもいいのか? 料理の代金はもらうぞ」

「おぉ、やれるもんなら迷惑代も含めて払ってやらぁ……ほれほれ、調理してみろ」

 ハラミの戦斧が挑発している男の近くを、サァッと通過した。

 次の瞬間、大皿の上に肉の刺身が現れた。

 頭蓋骨や肋骨などの人骨が、刺し身にアクセントを与え。

 男肉の刺し身には、温野菜が添えられていた。


 男を調理したハラミが言った。

「つけ合せの温野菜はサービスだ……さあ、代金を払え」

 顔面蒼白になる、男の仲間たち。

「隊長が本当に調理されちまった⁉ 元の隊長にもどしてくれ!」

「蘇生させてもいいが、その分の追加料金はもらうぞ」

「払う、払うから隊長を元の姿に!」

「先払いだ、どうもおまえたちは信用できない」

 一人が硬貨の入った袋をハラミの方に放り投げ、布袋を受け止めたハラミが袋の中を確認する。


 再びハラミが、刺し身の上に戦斧を通過させると、隊長は人間の姿にもどった。

「ヒィィィィィッ!」

 刺し身になっていた顔面蒼白の男は悲鳴を発すると、食堂から逃げ出して仲間の男たちも後を追って食堂から飛び出して行った。


 残ったハラミは、硬貨が入った布袋をジャラジャラさせてから、数十枚の硬貨だけを取り出して呟いた。

「これだけあれば、十分……さてと、お金も稼げたから。そろそろ、空から宇宙のモノが落ちてきた村に向けて出発しますか……どんな食材に出会えるか楽しみ」


 蛮族料理人ミスジ・ハラミの着ているセンザンコウの皮鎧が、陽の光りを反射して金色に輝いた。


『ミスジ・ハラミ』プレエピソード~おわり~

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