少女

片恋果実

人魚姫じゃないんだから、

声は出るはずだった。


白雪姫じゃないんだから、

息をして、動けるはずだった。


だけど、私は結局、

童話の主人公のような

悲劇も、幸福も得られなかった。


臆病だったから

言葉にすることも、行動することも

出来ないままで。


だから、この“結末”は必然なのだ。


言葉に出来なかった想いは

たぶん、ゆっくり壊死していくんだと思う。

報いかな。じくじく膿んでるみたいだ。


でも、これも恋だったんだ。


恋が果実の形をしていたとして。

私はそれを、あげることも、潰すことも、

捨てることすら出来なかったけど、

もう今はどろどろに溶けて見る影もないけど。


齧ったときの、

甘い味も、苦い味も、酸っぱい味も、

全部ぜんぶ覚えてる。思い出せる。

言葉にできないような、

どろどろに腐敗した果実の味でさえ。


あーあ、こんなになってしまうなら

抱え込んでないで捨ててしまえば良かったな。


でも私は、あなたとこの果実を分け合って、

どうしても一緒に食べてみたかったんだ。

勇気が出なくて、手に持ったまま

あなたを見つめるばかりだったけど。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る