ゴールの先で


しんしんと降る雪

庭の梅の花が

雪を被って俯いている。


私はそれを、

食卓に置いたマグに手を添えて

暖房の効いた部屋から

ぼんやりとみている。


娘が、家を出て3年。

息子も、この間家を出た。

私は今、この広い一軒家に

1人で暮らしている。


夫とは上手くいかなかった。

はじめはなんでも素敵にみえるもの。

でも恋の魔法が解けてしまえば

何かしら、この失礼な男、ってね。


しばらくは“父親も必要よね”とか

だましだましやってたけれど

夫婦喧嘩が酷くって

子どもに静かに泣かれたら

もうそんなこと言ってられない。

だからお別れした。

手に職あるってこういう時強いのね。


それで、がむしゃらに

片親で馬鹿にされないように、と

働いて働いて

きっと寂しい思いもさせたけど

二人ともいい子に育ってくれた。


だけど、時々

料理の分量が変わったことに

子どもの声が聞こえないことに

部屋の明かりが少ないことに

紅茶の温もりがあるのに寒々しい部屋に


心に穴がぽっかりあいたみたいな

不思議な心地がする。

そうして、ぼんやりと外を眺めて

過去を思い返すことが増えた。


私は幸せ者だと断言できるし、

きっと世間一般的にも、

それなりに幸せな人生を歩んでいる。


子どもたちの自立だって、

寂しくはあるけどそれ以上に

ここまで立派に成長してくれたことが

本当にほんとうに、うれしかった。


それなのに、心はひゅうひゅうと

隙間風のように、空いた穴を主張する。


この心のうろは、

一体何を欲しがっているのだろう。






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