第30話 キャロルの引っ越し
カグヤは食事をしたあと厨房の拡張を始めた。ブラウニーたちの厨房と分けるためだ。
建物を作るのは簡単だ。土魔法で骨格を作ってから
それから魔石をふんだんに使って簡単に調理できるようコンロやオーブンをいくつも作って置く。水道はお湯も出せるようにした。氷魔石を使って冷蔵庫もいくつか作った。
「フム、上出来じゃな。」
家妖精ブラウニーたちが入ってくるとうれしそうにあちこち見ていた。働き者の彼女たちは料理や部屋の掃除をするのが大好きなのだ。
「カグヤ様、食器が足りません。」
「おおそうじゃった。」
カグヤはそういうとストレージから食器を出していく。さまざまな模様の大小の陶磁器や透明なガラスのコップ、スプーン、フォーク、箸、ナベ、フライパンと出していく。
『キャロル様の到着です。』
『すぐ行く。』
クモガタから念話が入る。風精霊シルフにセバスとメアリーに伝号を頼み門に向かうとクモガタが門を開け馬車の一行を迎え入れていた。馬車の数は10台で7台は荷物らしい。
キャロルは馬車を降りると迷わず3階のバルコニーの隣の部屋に入る。
「大きな透明な窓が付いて、日当たりも良くて最高のお部屋ですね。」
キャロルの専属メイドがキャロルの部屋を見て驚く。
「やりました。薄暗いお城の部屋からやっと脱出できました。」
キャロルははしゃいでいた。
「そ、そうか、喜んでもらえたなら何よりじゃ。」
バルコニーの隣のもう一つの部屋はキャロル専用の応接室に決まったようだ。さっそくお友達を呼んでお茶会を開く相談をしていた。
その後、衣装室や専用メイド室や従者の部屋が決まっていく。見晴らしの良い3階の多くの部屋はキャロルたちに占拠された。
造園や建築をしていたクモガタたちをすべて呼び寄せ荷物運びを手伝わせる。大きな衣装箱にベッドやフトンだけで半分以上。
「これは衣装代がかなりかかりそうじゃの・・・。」
「針子ができる者は3人いるので材料さえあれば作れます。そういえばカグヤ様のお召し物はどのような物でできているのでしょうか。もし余分があるのでしたらお譲り頂けるとありがたいのですが・・・。」
「これは絹じゃ、蚕の糸から出来ておる。そういえば、9月からの学院での服装は決まっておるのかのう? 」
「はい、とくに決まりはありませんが、目立たない程度の黒と白の服装と決まっております。」
「ではワシのも作ってもらって良いかの?」
「まぁ、お揃いで通えますね。」
「ワシのは一般の生徒と同じにしてくれ。あまり目立ちたくないのじゃ。」
カグヤはストレージから単色に染色された絹を10本出してみる。
「キレイ、つやつやに光ってますね。」
「これはなんて見事な、どこで手に入れられるのですか?」
「他の大陸で蚕を見つけたので作らせた物じゃ。余裕があったら領地で生産しようかとも考えておる。」
「それはぜひ、お願いします。」
カグヤは体の採寸を測ってもらう。
お昼となり皆で昼食を食べる。今日は貝と昆布入りのボンゴレパスタの上にノリがたっぷり載せてある。サラダとコンソメスープ付きだ。
「初めて見る料理です。」
「どうやって食べるのでしょう。」
「この黒い物はなんでしょう。」
「このフォークにグルグル絡めて食べるのじゃ。サラダのドレッシングはお好みじゃ。」
そう言いながらマヨネーズを付けて食べる。
「これは、おいしいですね。」
「サラダがこんなにおいしい物とは知りませんでした。」
「さて、ワシは一度マホ族の様子を見に行ってくる。暗くなる前に戻るので屋敷の間取りや庭園の配置も考えておくと良いのじゃ。」
「あの、カズラ高原に行ってくるのですか?」
「ウム、一人なのですぐ戻れるのじゃ。」
キャロルの相手をテレサに任せて外に出ると、頭は紫、羽は垢、尻尾は黄色、胸は白で彩られたフェニックスを呼び出す。カグヤはフェニックスの背に飛び乗ると
「北西に真っ直ぐ飛ぶのじゃ。」
「まかせるがいい。」
あっ、という間に空の彼方に飛び去っていく。
「飛んで行ってしまいましたね。」
「今のは聖獣フェニックスですか? 伝承の絵にそっくりです。」
その場にいたメイドや使用人たちは膝を突いていつまでも拝んでいた。
トリシア王国の首都クルリからマオ族の集落まで直線で約1200km。何の障害の無い空をカグヤを乗せたフェニックスは4時間ほどかけて到着する。
突然現れたフェニックスにマホ族の人々は大騒ぎとなるが、カグヤが上に乗っていることを確認すると安心して集まってくる。
「皆、久しいの。ドライアドたちとはうまくやっているかの?」
多くの者が平伏している中、マホ族の族長シャチが前に出てカグヤを迎える。
「一同、心待ちにしておりました。心より歓迎いたします。」
「ウム、皆頭を上げるのじゃ。顔を見せてくれ。」
皆が顔を上げる。
「カズラ高原はワシが好きに領地にして良いとの話しなので、ここより北方にある温泉の地下水脈の近くにワシの屋敷を作る。今日は転移門だけ作って、明日より作業を始める。」
「転移門ですか・・・。」
「ワシも忙しいのじゃ。王都クルリのワシの屋敷と繋げる。そういえば、ロート市の冒険者たちとはうまくやっておるかの?」
「はい、最初は警戒してましたが、こちらに敵意が無いのを見て安心したようです。ロート市のギルドの方が来ていろいろと支持をしてくれたおかげで、旅商人や冒険者用に簡易宿舎を作り食料も提供しております。料金設定は安めにしていますので概ね好評です。」
「ほう、わざわざ来てくれたのか、では引き続き頼む。」
カグヤはフェニックスに乗り1kmほど北に飛ぶ。そこに精霊を祭るための大きな
屋敷の自分の部屋に戻るとすぐに部屋を出て食堂に向かう。
食堂はキャロルを支持する貧乏貴族がいるらしく人が多い。
「あら、カグヤ様、もうお帰りで、」
「カズラ高原に転移門を作ってきた。明日から街づくりの作業じゃな。」
「そんなものが本当に存在するのか。」
「空想上の物と思っていたぞ。」
キャロルの従者たちが口々に話し出す。
「あの、私も一緒に行っていいでしょうか? 街づくりを実際に見ていたいのです。」
キャロルがカグヤに聞いてくる。
「それは構わんが、何も無くて地味な作業なのじゃ。」
「はい、ぜひお願いします。」
都会育ちのキャロルの従者たちも興味津々だ。
「では、明日朝食後に出発じゃ。軽装でよいぞ。」
食事をしてから2階の執務室でキャロル、テレサ、セバスたちと屋敷の様子を話し合う。
「何か足りないものはあるかの?」
「家の改築を見て、職人が何か仕事はないかと尋ねてきました。」
「そうか、職人との付き合いも必要じゃからな。セバスとメアリーの判断で何かやってもらってよいぞ。建物の壁は魔法で簡単に作れるが、窓枠とかは職人に頼もうかのう。あと、馬小屋や物置、休憩小屋も必要か。庭師や料理人も必要かのう。」
「貧乏貴族や騎士が思いのほか多くなりそうです。また身分の低い貴族や騎士から娘をメイドとして使ってくれと数件打診されております。」
「問題がなさそうなら使ってみてくれ、婚活や情報収集絡みじゃろうが、普通に働いてくれればそれで良い。軽く考えていたが、食堂も分けたほうがよさそうじゃな。」
「フフ、にぎやかになりそうですわね。」
「邸内のルールは追々作っていけばよかろう。」
「それから、カグヤ様に縁談が多数舞い込んでおります。」
セバスはテーブルに積まれた書類の山を見る。
「あれ全部そうなのか。・・・あー、ワシにその気は無い、すべて処分じゃ。」
「はい、ではそのように。」
「あ、待ってください。折角ですので情報収集も兼ねて私がチェックします。」
キャロルが慌てて止める。
「そうですね、年頃の貴族の情報はとても大事です。」
テレサも援護する。
「まぁ、構わんが・・・。」
「それでは3階に一室を作って資料室といたしましょう。情報は強力な武器となるのです。」
メアリーも乗り気だ。後にカグヤ邸は結婚相談所と呼ばれるようになるが、それはズッと先の話だ。
「そ、そか、ほどほどにの・・・。」
まだまだ資金が必要そうなのでセバスに金貨の入ったアイテム袋を渡す。
「次は領地の開拓と領民の確保か、うーん、広大な土地には治水が必要じゃな。」
「治水ですか?」
「カズラ大森林に流れてる大河の一部をカズラ高原に引っ張って穀倉地帯にするのじゃ。」
「それは、将来起こると言われているスタンビート対策も兼ねているのでしょうか?」
テレサが確認のために話を振る。軍団への報告も兼ねているのだろう。
「そうじゃ。よくわかったの。」
「フフ、突拍子もないことをしているようでいて、先のことを考えてらっしゃるのですね。」
「まずは大雑把に骨格を作らんとな。ワシ一人でも殲滅は可能じゃが、それをやるとこの辺りいったいが砂漠と化すのじゃ。」
「おや、ご経験でも」
「ウム、まぁ、いろいろやらかしたおかげで大魔神や魔王伝説として伝承されているところもあるのう。」
「まぁ、それも事実なのですね。」
「ずいぶん昔の話じゃ。長く生きているといろいろあるのじゃ。いちいち気にしていたら恥ずかしくて生きていけなくなるのじゃ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます