第17話 会食
翌日、また闘技場に向かう。今日は五人勝ち抜けばいいらしい。
三次予選ともなると手ごわい相手が残っているがカグヤの相手ではない。軽くいなして三次予選を突破する。
木札を貰うと本選の受付が始まる。フルネーム、出身地と部族名を聞かれる。深く考えたことのなかったカグヤは答えに窮した。
「ンート、ムーン大陸出身かな。」
「はい、手続き完了です。明日の対戦は9時から二回戦戦っていただきます。その後二日休んで、そのあと二日に渡って四回戦ずつ戦って残れば優勝となります。体調管理には気をつけてください。」
・・・それでいいのか。いい加減じゃな。
「わかったのじゃ。」
『カグヤ』とだけ書かれた木札を貰って外に出る。
「待たせたの、受付で時間がかかったのじゃ。」
二人と合流した後は料理店に向かう。
しばらく歩くとクルリ高級料理店の看板があった。カグヤたちが入っていくと注目を集める。
「闘技場にあんなのがいなかったか?」
「おいあれ、金棒のデブリを真っ二つにしたヤツだぞ。」
「意外と小さいな。ただの子供ではないのか。」
「他の大陸の種族と聞くぞ。」
「あっ、聖女様。」
貴族階級の情報網は速い。噂は容姿や好んで着ている服までセットで流れていくものだ。
店に入って店員と話していると、目の前に同じ背丈の少女が現れ腕を掴まれる。
「お食事ですか、それなら私どもと一緒にどうぞ。ご案内しますわ。」
少女はカグヤの返事も聞かずにグイグイ引っ張る。カグヤは抵抗せず引っ張られるままつ付いていく。
「ああ、エアバスに乗せた一行にいた子か。」
ようやく思い出す。
「はい、あのときのお礼も兼ねて。」
「身分違いではないのかの?」
「お忍びで来ています。気にしないでくださいませ。」
カグヤは奥の広いテーブル席に連れて行かれる。テーブルには身なりのよい大人が10人ほど座わり、歓談しながら食事をしていた。その回りにはメイドが五人立っていた。
「お客様を連れてまいりました。お席を。」
少女がそういうと回りに立っていたメイドたちがスーと動き、カグヤの席が用意された。
「エート、連れが・・・あれっ、いない。」
カグヤが後ろを振り返ってミューシーとテレサの二人を探したが、店内にはいなかった。一人のメイドが口を開く。
「お連れ様は急用ができたと帰られました。」
メイドはすました顔でシレッと言う。
「遠慮なさらないでくださいね。今この店のお勧めのコース料理を注文しましたので。」
女の子がそういうとメイドの一人が注文に行く。
「そ、そか。まあいいが・・・。」
「ホホウ、また変わった物を拾ってきたな。」
真ん中の年老いた男が言う。カグヤは軽く挨拶をする。
「ただの旅商人カグヤじゃ。見た目相応の歳ではないが永遠の13歳じゃ。
他の大陸からトランダム王国に上陸し、カズラ山脈に住むドラゴンのところに顔を出してみたのじゃ。
その後は大森林で珍しい物や魔獣狩りをしながらこの国に辿り着いたのじゃ。」
「ホウ、ドラゴンと話ができるのか。」
「ウム、話し合う前に多少の殴り合いはしたが最後は快く歓待され、お土産までくれたのう。鱗に牙に骨や肝や火の魔石・・・酒もあったの。」
「まさか、ドラゴン酒か!」
「ここではそう呼ぶのかのう。三日もほっとくと水になってしまうが、ワシの袋は特別性で、いつまでも取って置けるのじゃ。食事に招かれて土産も無しでは興が無いのでこれを土産にさせてもらおうかのう。」
カグヤはストレージから陶器に入ったドラゴン酒を出す。
「本物なのか?」
他の男が口を出す。
「フフフ、飲んでみればわかる。では毒見も兼ねてお主から飲んでみるとよいぞ。」
まずはカグヤがメイドに出されたコップにドラゴン酒を注ぎ飲み干し、陶器ごとメイドに渡す。
「悪酔いはしない不思議な酒じゃ。子供でも下戸でも中毒になることはなく、薬にもなって寿命も少しは延びるのじゃ。」
カグヤが説明していると毒見係のメイドが口にしてから皆に注いで回る。
「これはなんとも形容しがたい味。これがドラゴン酒か。」
「こんな味が出せるとは不思議な酒ですな。」
「旅商人とはこんな不思議な物も扱うのですな。」
「とてもおいしいです。」
女の子もおいしそうに飲む。
「気に入ってもらえたのなら結構じゃ。」
皆満足そうに堪能していた。カグヤも運ばれてきた食事を食べ始める。
「武術大会でのご活躍、ズッーと見てました。飛び入りの中では人気ランキングでナンバー1ですよ。」
女の子が話し出す。
「そんなものがあるのかの?」
「はい、人気度が高いと貴族の方々が後援に付くようになります。」
「後援かの? あまり関わりたくはないのじゃが・・・。」
「娘が大変贔屓にしておっての・・・そういえば不思議な武器を使っておったな。」
「鉄で作ったただの鉄扇じゃ。見るかの?」
カグヤはメイドに手渡しながら言う。
「重いから両手で持つのじゃ。」
メイドが重そうに持って男のところへ持っていく。他のメイドがそれを見て男の近くに小さいテーブルを持っていき、そこに鉄扇が置かれた。男は手に持ってみる。
「ずいぶん重いな。こんなものを持って飛び回っていたのか。10kgぐらいはあるぞ。」
男は驚きの声を上げる。
「実は細工がしてあっての、魔力を通せば通すほど軽く硬くなり、衝撃力も増すのじゃ。全開で流せば羽毛とかわらんが、普通はそこまでの魔力持ちはおらんの。」
「もっと軽い金属を使わないのか?」
「あるにはあるが必要ないしの、鉄で十分じゃ。そもそも武器というよりはイメージするための道具として使っておる。魔力だけでもなんでもサクサク切れるが、それだとイメージし続ける必要があるので、流せば良いだけの道具を手に持ってるだけなのじゃが・・・わかるかの?」
「ウーム、なんとなくだな。これと同じものはあるか?」
「千単位であるのじゃ。調子に乗って作りすぎての、見本がほしいのならそれを持っていくと良いのじゃ。」
カグヤはやや胸を張って自慢げに話す。こうして、うかつに捨てられないゴミが一つ減った。女の子が興味の無い話からそらすように話を振る。
「聖女様はどこかに定住されないのですか?」
「これでもいろいろ忙しくてのう。それに、ワシが一つ所に留まれば空気が淀むのじゃ。定住はムリじゃな。」
「淀むのですか?」
「ウム、魔素や毒素が溢れるというわけではなく、ワシがいればその国は安泰じゃ。永遠に滅ぶことはない。しかし、その裏で行われる不正や汚職どころか人々の蛮行には目が届かんのじゃ。これは神がやっても同じことじゃ。
いや、逆に神だとそんなことのために振り回されるのがめんどうになって滅ぼすかもしれんのう。ワシがいくら強くてもできることは以外と少ない。生き残るためにはなんでもやる人族の欲には勝てんのじゃ。」
「なんでもできて無敵に見えますけど・・・。」
「フフフ、ワシは無敵ではあるが、所詮はか弱く風変わりなだけの小娘じゃ。王族や貴族などの支配者層のほうがよほど役に立つぞ。ま、内紛やら裏切りやらと余計なことばかりするようだがの。」
カグヤは何かを思い出すように遠くを見る。フイに、真ん中の男が聞いてくる。
「この国はどうだ、気に入ってもらえるとよいのだが・・・。」
「貴族同士のいがみ合いはあるし、夜中は酔っ払いが暴れてるし、戦争中なのに足を引っ張り合うし、元気があって良いのではないかの。」
「ダメ国家といわれているようだが、どうしたら仲良くしてくれるのか頭を痛めているのだ。」
「内紛するだけの余裕があるのは、大国の通常運転というヤツじゃな。アホもいれば優秀な者もいる。いろいろ合わせて一つの国なのじゃ。結局は成るようにしかならん。考えすぎぬことじゃな。」
真ん中の男は何か考え込んでいる。偉そうに言い過ぎたかなと少し反省していると
「そういえば、武術大会で優勝したら何を望むのだ。」
「まずはカズラ平原にいる遊牧民の定住許可じゃな、それにはワシが少し関わらんとただの難民になってしまう。」
「ホウ、どういうことだ。」
「遊牧民が定住生活すると馬が栄養失調で全滅するのじゃ。」
「どういうことだ、あの辺りは草原だぞ。」
他の男も驚いて口を開く。
「論点が違うのじゃ、馬はあの辺りの栄養の少ない草だけでは飢餓で死んでしまう。穀物も食べさせないと生きていけないし、穀物を与えすぎても内臓がやられて死ぬのじゃ。栄養の多い草が生えてる広い草原を行ったり来たりして、いろいろな栄養の草を食べるから遊牧民の馬は強いのであって、本来、馬の飼育は難しく繊細で、飼育管理は大変なのじゃ。」
「フーム、そんなことがあるのか。」
「次に写本の閲覧許可じゃな。地理、歴史、伝承、風俗といったところかの。それ以外の写本は興味は無い。読むだけムダじゃ。」
「ムダですか?」
「アー、なんというか、ワシの知識の方が上だから、と言ったら怒られるかのう。」
「・・・。」
一同無言になる。
「それから、数年後の件での相談じゃな。」
「魔物が大量発生することか! ほんとに出るのか?」
「なんじゃ、神託を信じないのか。ここはデメテル神が主じゃったの、親切な神を信じないとはなんたる罰当たり、怒って飢餓がこの地を襲うかのしれぬのう。」
カグヤは意地悪く言う。
「そんなことは無いぞ、信じておる。うん、もちろん信じておる。」
「魔物がドーンと出てくるので、防衛作りのための許可みたいなものじゃの・・・あとは、」
「まだあるのか?」
「ラーマ帝国のことじゃな。情報の刷り合わせをしておきたい。」
「さすがに話せるわけなかろう。」
他の男が口を出す。
「改造された魔物が領内に解き放たれたのに、のんびりしとるのう。」
「なに!!!」
「他に気がかりなこともあるが、まぁ確信を持てたら話すこともあるじゃろ。ま、そんなところじゃの。」
カグヤはスプーンをテーブルに置く。
「さて、そろそろお暇させていただくのじゃ。」
「もうですの、残念です。」
女の子は残念そうに話す。
「また会うこともあるじゃろ。」
女の子は少し考え込んでから口を開く。
「私、決心しました。」
「オ、オウ、がんばるのじゃ。」
「はい、がんばります。」
何を? と言いたいところを我慢して軽く会釈して店を出る。
聞いたら面倒なことに巻き込まれることになる。
その後、カグヤは港に寄ってから岐路についた。
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