第15話 ギルドへの報告
その後、海賊たちに枷を嵌め船に乗せると、海賊船3艘をエアバスにつなぐ。
船をつなぐ作業をしていると漁村の村人たちが集まってきた。
「今回のことはなんとお礼をいったらいいのかわかりません。心ばかりの礼ではありますが感謝の気持ちです。お受け取りください。」
村の長老たちは、リーダーと思われるゴルデスに礼を言いながら贈り物をしていた。
「あー、待っ・・・ブハッ。」
ゴルデスは、リーダーがカグヤだということを説明しようとしたが、話の途中でカグヤに水をかけられた。
「おっとすまんリーダー。手が滑ったのじゃ。」
テレもあるが、見た目が少女のカグヤがリーダーだと名乗ると、いちいち説明しなくてはならなくなる。ガクヤとしては自分が関わっている用件さえこなせれば誰がリーダーであってもかまわないのだ。
「ジイさん。この光る石はどこで見つけたか知ってる者はおらぬか。」
カグヤは贈り物の中に混じっていた光る石を目ざとく見つけて質問する。
「ホホウ、その若さでこのような光物に興味を持つとは将来が楽しみなことだ。」
長老の一人がカグヤに着目する。
「これは光の質によって色が変わるアレキサンドライトじゃな。」
「他ではそういう呼ばれ方をしているのか。この辺りでは夜のルビーと呼ばれていて、西のトリシア連山の川岸で拾ったと聞いている。たまたま訪れた神が落としたものと伝えられている。」
「なるほど、それは良いことを聞いた。ありがたくもらっておくのじゃ。」
カグヤは奪うように取り上げる。
「娘さん、その価値がわかるのか。」
「ふむ、価値というより使い道がわかるというだけじゃな。加工しなければたいした価値にはならぬ。」
「そうか、それなら持って行ってくれ。」
価値がわからなければただの置物にしかならない。価値がわかっても買う相手に出会わなければそれはただのガラクタ。
今を生きるのに必死な者たちの財産にはならない。村の者にとって、それで喜んでもらえるなら十分なのだ。
カグヤたちが岐路についたとき、村の者たちは手を振って見えなくなるまで見送ってくれていた。
「さすがに3艘も繋げているとスピードが出ぬな。帰りはゆっくり観光じゃ。到着は昼過ぎかのう。」
「風もないのに川を上っていけることの方のが驚きだぞ。」
ゴルデスはエアバスの後ろで回る巨大なプロペラを見つつ驚きを口にする。
「妥協の産物じゃがな。」
カグヤとしては科学的、工学的な設計の下に作りたかったのだが、知識がほとんど無いため、魔法で強引にホーバークラフトをまねて作っただけだった。
「それにしても、こんな簡単に解決できるとは思わなかったな。」
ゴルデスの仲間の一人がカグヤを称える。
「いや、お主たちがいてくれて助かったのじゃ。そうでなければ皆殺しにしなければならなかった。一人ひとり縛るのは面倒なのじゃ。」
「ハハハ、皆殺しになるのか。」
ゴルデスの顔は引きつっていた。
王都クルリの港に戻ったのは昼過ぎ、港の近くの砂浜に立っていた松の木に鎖で巻きつけて海賊船を固定してからエアバスをしまう。
「さて、ギルドに報告じゃが・・・ワシが行ってもまず信用されん。ゴルデス、お主も一緒に行くのじゃ。」
カグヤはゴルデスを指差して同行を促す。
「オ、オウ、わかった。」
「最近は悪名高いけど有名人だからね、ヒヒヒ。」
「ある意味有名人、ある意味な。アハハハ。」
ゴルデスを皆でからかう。
「オ、俺は生まれ変わったんだ!!! もう以前の俺じゃねぇ。」
顔を赤くしたゴルデスはコブシを握り締める。
「もう、行っちゃったよー。」
「ウオッ、テンポ速ええんだよ。」
ゴルデスはそう呟きながらカグヤを追いかけた。
冒険者ギルドに着くとカグヤは窓口に向かう。
「おや、ゴルデスさん話は聞いてますよ。足は直してもらえたのですね。」
職員の男はニコニコしながらカグヤの後ろにいるゴルデスに語りかける。
「オウ、これからは前のようにバリバリやるぜ!」
「それはよかった。・・・では、これからこちらのお嬢さんと海賊退治ですね。」
職員の男はゴルデスに向かって話す。
「あーいや、それがもう終わったんだ。」
「あれ、キャンセルですか? 本来は冒険者の仕事ではないので仕方ありません。あ、キャンセル料の交渉ですか、保留にしてあるので問題ありませんよ。」
「いや、退治し終わって港に3隻繋ぎ止めてある。確認を頼む。」
「エッ?・・・。」
そこへガクヤが口を挟む、
「ガレー船3隻、総勢145名、そのうち海賊の死体23体。その他、漁をしているときに捕まった捕虜4名は開放した。あと、ラーマ帝国の貴族を名乗る者が1人いたのう。」
男は慌てて奥にいくとギルド長を呼びにいく。
「やはりこうなるか、ゴルデスを連れてきて良かったわい。」
カグヤはため息をつく。
「私も、あれは夢だったんじゃないかと自分の記憶を疑っています。」
テレサが続く。
「お主、暢気なヤツじゃのう。」
しばらくするとギルド長とともに5人ほどが奥から出てくる。ゴルデスが説明しながら港に向かう。
カグヤたちが港に戻ると、海賊船の前には手に枷を嵌められた者と死体が並べられていた。すぐに衛兵が呼ばれ騒然となった。
かなりの時間がかかりそうなのをみると、カグヤはテレサに『すぐ戻る』と言い残して近くの魚市場に来ていた。魚を買うためだ。
「ホホウ、昨日の10倍はあるのう。」
「はい、皆がんばりました。」
隣には魚師が5人ほどいる。
「フフフ、では交渉といこうかの。」
結局、昨日の割合の一割り増しぐらいで決着し、また明日、と約束して引っ張ってきた海賊船のある場所に戻る。
「まだやっとるのか? 帰ってフロに入りたいのじゃが。」
と声をかけると、テレサとゴルデスに肩をつかまれた。
「この人です。」
「こいつです。」
2人の声が被る。
「こんなかわいい小娘に何ができるというのじゃ。」
カグヤはとっさに答えるが、そのまま冒険者ギルドに連れていかれた。
冒険者ギルドではテレサ、ゴルデスとともにいろいろ聞かれ、経過を説明する。
「それでは海賊の持っていた持ち物やガレー船の所有権はカグヤ殿にあるようですが、どうしますか?」
ギルド長はカグヤに問う。
「所有権は放棄するのじゃ。」
「では、こちらで処理するということで・・・それから報酬の件ですが、一人当たり大金貨1枚ずつでよろしいですかな?」
「ウム、それでよい、が、望みのままとあったので一ついいかの?」
「可能な範囲でお願いします。」
「写本の閲覧許可がほしいのじゃ。」
「貴族にしか閲覧は許されませんが・・・。」
「じゃろうな、なので報酬に閲覧許可がほしい。」
「目的をお聞きしても。」
「ただの趣味じゃ、ワシは世界中の地理、歴史、伝承、風俗等の話を集めて回っている。とくに何に使うというものではないが、折角の機会なので、この国の資料をぜひ読ませてほしいのじゃ。」
「なるほど、旅商人とは不思議な趣味をお持ちですね。では、王宮に確認して後日連絡ということでよろしいですかな。」
「ウム、そのために頑張ったのじゃ、ぜひ頼むのじゃ。」
カグヤは念を押す。
「そのためにですか・・・わかりました。交渉してみましょう。」
ギルド長は手を差し出す。カグヤも手を握り返す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます