第29話 花見
いっつも3人で並んで寝ている。
古代文字で「川」の字って言うらしい。
ムールはぷよぷよで少しあったかい。
目を覚ましている時は少し大人っぽくて生意気。
と言っても私達の生活のほとんどをこの小さな男の子が担っているんだけど。
とりあえずなんでも出来るし、なんでも持っている。
何故ぽやーっとしているパエリや何にもできない私の面倒を見て旅をしているのかわからない。
ムールがぱちっと目を覚ました。
ムールはだいたいいつも同じ時間に目を覚ます。
私は寝ているふりをして薄目を開いてムールの様子を見ている。
パエリがまだ眠っているので起こさないようにそーっとベッドから出て行く。
インベントリって言う空間から私達の新しい服を出して、昨日着ていたパエリや私の服にクリーンの魔法をかけてしまい込んでいる。
野営をする時は大きなお屋敷を出しているのだけれど街に着くと街の中の宿に泊まる。
野営の時の方がいい所に住んでいるいるのだけど。
ムールはキャンプは嫌いで街の宿は旅の雰囲気が出るからいいんだそうだ。
私達のための洗顔用のタオルや歯ブラシを用意して、テーブルにパンやスープを並べる。
その頃になるとパエリが目を覚ます。
ムールが当たり前みたいにパエリをパジャマから勇者の服に着替えさせて洗面所に行かせる。
毎日がこんな感じなので始めは変に思っていたのだけれど慣れてしまった。
私も起きないとムールにパエリと同じようにパジャマを脱がされてしまう。
くすりと笑いながらサーフラはベッドの上におきあがった。
「うわーっ。きれいだねー。」
サーフラが呑気そうな声を上げる。
「おまいら、世界樹になにをしたんじゃー。」
エルフの里の空は真っ白。
まるで雪の様に絶え間なく花びらが舞っている。
世界樹が開花した。
「こんな事は初めてじゃ。いったい何が起ころうとしているんじゃー。」
まあ、2万年も生きたエルフが初めて見たってんだから大変な事なんだろう。
しばらくすると里の皆さんが筵などの敷物をもって世界樹の前の広場に集まってくる。
通りにいた露店も徐々に広場を取り囲む様に移動して来た。
広場の中央には少し高い舞台の様なものを作った。
里の皆さんが重箱や酒瓶を持って集まってきた。
こりゃ、花見だね。
なんか独特な楽器で演奏するものがいて歌い出す者がいる。
歌となればもちろん踊り出す者も。
オレ達も彼らに混ざって花見を楽しむ事にしたって言うか否応無しに巻き込まれた。
「勇者様、これ美味しいよ。」
と言って里の皆さんが片っ端から料理を進めてくる。
パエリもサーフラもご機嫌そうだ。
大丈夫かな?子供なのにお酒飲んでないか?
この世界では15歳になれば成人とみなされるから問題ないのか?
「ムールってば何しけた顔してんのー。」
そう言いながらパエリがムールを抱えようとして手が滑った。
ムールが酒樽の中に頭から落ちてしまった。
ムールはパエリが相手なので完全に油断していた。
慌ててサーフラが樽の中からムールを掬い上げる。
ムールがムクっと立ち上がるけどなんだかふらふらしている。
「ムール踊ろう。」
パエリがムールの手をとってぐるぐると振り回して笑っている。
パエリはだいぶ酔っぱらいっているみたいだ。
ムールも笑っているから大丈夫なのかなか?
サーフラがハラハラしている。
「あいつ大丈夫なのかな?」
小柄だけどこの世界では珍しい小さな角の生えた少年が焼きとうもろこしを食べながらサーフラに話しかけてくる。
「多分お酒なんか飲んだの初めてだと思う。」
パエリが目が回ったのかムールの手を離してぱたりと倒れた。
ムールが遠心力のせいで飛ばされてまた酒樽の中に落ちた。
サーフラが慌てて酒樽に近づこうとするのを角の生えた少年が止める。
「危ないよ。」
と言う間もなく樽から火柱が上がる。
火柱は空高く上がって破裂した。
光の粒が球形を描いて色を変えながら広がって行く。
消し飛んだ樽の後にはムールが立って空を見上げている。
「あーははは。花火みたい。ねえねえパエリきれいだろう。」
完全に酔っ払っている。
少し離れたところでパエリが寝転んだまま空を見上げている。
「きれいね。」
「ごらーっ。森ん中で火遊びしおって、火事になったらどーすんじゃー。」
里長に怒られた。
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