天魔×吸血種の転生者、世界平和の為にシェアハウスをする羽目に

スンラ

王命……シェアハウス!?

 世界は平和になった。

 勇者一行により魔王は討たれ、魔族はエルフ、ドワーフに続いて、人類種の一つとなった。

 その一ヶ月後。俺はどうしてか……故郷の千賀村から出て、だだっ広い草原の一軒家にて、男女五人で動画投稿をしながらシェアハウスをしている。

 しかも、世界平和のために。



 パチリと目が覚めて、横になったまま見知らぬ天井をまじまじと見る。状態を起こし、ぐるっと周りを見た。

 どこからどう見ても、凛太郎リンタロウ・ジン・ロベンタール……

「……俺の部屋だ」

 正確に言うなら、引っ越したばかりの新居の俺の部屋。

「知らない天井じゃなかったな……」

 ひとまずは起きて、洗面台まで向かおうと、部屋から出る。

「あ」

「あ」

 扉を開けると廊下で、階段を下るとリビングや洗面台があるのだが、隣の部屋の同居人と同タイミングで部屋から出てしまった。

 高身長、眼鏡、黒髪、インナーカラーはシアン。加えて悔しいことにイケメン。種族は今どき珍しい純粋な吸血種。確か名前は──────

「ユラ・エルトロス」

 俺と同い年の17歳。風のの使い手。幅、解釈を一気に広げて、世間から天才と評されている。

 そして、残り三人の同年の天才を、と呼ぶ。

「え? は、はい」

 いかん、つい口に出てた。

「……さんも、今起きた感じですか?」

「そうですね、これから顔を洗おうかと……」

「あ、へぇ……そうなんですか」

 やっば、もう話すことないわ。

 同い年とはいえ、相手は天才。同じものを習ったとも思えないし、種族も違う。あとシェアハウスなんて初めてだし、一日目だし。

 加えて俺、。絶対バレたくない。

 ということで、話せることがないので、逃げるように階段を下りる。つっても、どうせ向かう場所は一緒で、後ろにいるのだけど。

「あ、おはよう」

 洗面台の扉を開けようと思ったところ、洗面台の先客にしてもう一人の同居人が現れる。

「おっ、おはよう」

 今、横を通った彼女は同い年、17歳。金髪のツインテール。名前は花咲はなさきアイネ。様々な古代語を解読し、何千年前の歴史の解像度を、人物の心情まで分かるほど上げた天才。珍しく、ギフトで名を挙げていない。ユラ・エルトロスと並び、満開世代の一人。

「おはようございます」

 そっか、ユラくんにもおはようって言えばよかったのか。なんて思いながら顔を洗って、歯磨きをした。

 さてさて、この時点で8時48分。とりあえずリビングの様子を見る。なんというか、やはり慣れないというか。

「ねぇ──────えーと、そこの赤い人」

「は、はい」

 なんの用事か、リビングにいた花咲さんが俺に向かって話しかける。どうやら名前は覚えられていないみたいだ、髪色で呼ばれてしまった。

「確か昨日、急にシェアハウスするのが決まった時、9時15分までにリビングに集まってろって王様言ってたわよね?」

 そう、俺達は突然集められ、当然シェアハウスすることになった。しかも王様直々の命令、断ったら極刑。

「あ、そうっすね、全員集まってろって言ってましたね」

 リビングに集まってしばらく待機しろとの事だったが、何をするのかは知らない。

 それと、リビングには今さっき紹介した二人と俺以外、人は集まっていなかった。

「あと二人、まだ起きてないんでしょうかね?」

「じゃあ、私がシキちゃん起こすから、あなたたちは緑の人起こしてきて」

「了解です」

 この人、色でしか覚えてないのか? でも、シキちゃんのことは名前だな。唯一の同性だからだろうか。

「それじゃ、行きましょうか。凛太郎さん」

「おっす」

 あの人を起こしに、二階に戻って、俺たちの向かいにある部屋の扉にノックをする。

 どうでもいいけど、名札がデコってあった。

「リフさん、時間ですよ。起きてください」

「遅れると極刑かもしんないですよ」

 扉がガチャりと内側から開いて、そこから低身長、天然パーマの彼が姿を現した。

「んぁ〜……すまねぇっす……寝てた」

 大きないびきをかいて現れたのはこの男、曲鳴マガリナリ離譜リフ。同い年の17歳。これまで採集や実験が危険だと言われていた物を次々と可能として、天才と呼ばれる。

「いゃ〜昨日さぁ急にシェアハウスしろ荷物はもう運んであるとか何とか言われてもうホント大変でサイクル合わないから早めに寝ようとしたら寝れんでさぁ……ぁ〜みんなも同じか……移動系魔法だから面倒はなかったけど疲れるよねえ……」

 もちろん満開組、ちなみにドワーフ。高身長のユラくんと比べると、身長差なんて約1メートルはあるんじゃ無いだろうか。ギフトは前例が無いものと聞いているが、どんなものだろう。

「ってかなんだっけ? ごはん?」

「リビングに集まれって昨日言われてたでしょ? 呼びに来たんすよ」

「あーそうだったっけ、わざわざありがとね」

 もう一回大きなあくびをかいて、階段に進んだ。

 その途中、振り返ってこっちを見た。

「ああ……あと、マガリナリリフなんて読みづらくて言いづらい名前呼ばなくていいから、リリフでいいよ」

「あー、了解っす。俺は凛太郎で大丈夫なんで」

「僕もユラで結構です。これからよろしくお願いします」

「あーい」

 ぞろぞろと男共三人は2階から1階に降りる。リビングのソファには、もうシキちゃんと花咲さんが居た。

「あ、シキちゃんおはよう」

「ああ、おはよう凛太郎ちゃん。遅れてすまないね」

 シキちゃん……名前は素晴スバラシキ。見た目の通り9歳で、角が生えている。魔族である。髪色は赤紫だ。大人になったら最強やら黄金やらと、もてはやされるだろう。

「おはようございます、シキちゃん」

「おはよう。ユラちゃん」

「おー! シキちゃんおはよー! 9歳児で一人部屋は寂しくなかったかい〜」

「まずは顔を洗ってから言いなさい、リリフちゃん。そんな暇もないがね」

 この子、わざわざ平等のために呼ばれている敬称で呼び返しているのか。

「てか論外だったらごめんだけど、何やるか知ってる人いる〜?」

「確か、シェアハウスの説明を詳しくするんでしたよね」

 そう、説明。明日するから今日はここで寝ろ、と無理矢理寝かされたんだった。

「そうよ。説明って、シェアハウスをする前に教えて欲しいんだけどねー」

「この五人を集めて、何するつもりなんですかね」

 男女五人、シェアハウス。王様は何を考えているのだろう。

「そりゃあんた、なんでしょ? 本人にも直前まで言えないような、超秘密事項。王様権限フル活用の絶対命令。はっきりいって異常だわ、これ」

 花咲さんの言う通り、これは明らかな異常事態だった。

「不満が募りますね。平和になったと思ったら、急に集められてシェアハウスをしろ……だなんて」

「いゃ〜、ほんとだよ。考えが全く読めないっていうか、全員初対面のシェアハウスに何を求めてるんだか」

 不満。

 天才にも人らしく、そういった不満は湧き出てくる。

「それじゃあ時間もある事だ。当ててみようよ」

 その空気自体を裂くように、シキちゃんは一つの提案をした。

「ほう? いいですね」

 ユラさんもやる気らしく、俺も少し考えようと頭を回す。

「ん〜、はい!」

 一番最初に思いついたのは、リリフさんだった。

「それじゃあリリフちゃん。どうして王様はこの面々を集めた?」

 あれ? なんだか大喜利っぽい。

「多種多様死屍累々デスゲーム」

 あれ?! 回答も大喜利っぽい!? あ、そういう感じか……

「そんな邪智暴虐な……」

 俺達の王様がディオニスだったら有り得るけど、残念ながら違う。

「はい。まぁ大喜利ではないんですが……」

 ユラさんが発表する時に予防線貼っちゃった! 別にいいのに!

「それじゃあユラちゃん。どうして王様はこの面々を集めた?」

「リリフさんの多種多様と被るんですが、全員種族が別ですよね」

 俺は人、ユラさんは吸血種、花咲さんはエルフ、リリフさんはドワーフ、シキちゃんは魔族だ。種族なんてバラバラである。

「そうね……でもそれが呼ぶ理由になるの? 有力だけど、これじゃ何をするかは分からないわ」

「いや、分かるはずですよ」

 バラバラの種族、シェアハウス。

「王はこのシェアハウスで、どんな種族とも共存できることをアピールしたいのではないかと」

 つまり、平和の象徴となれ。ということである。

「うん、私もおおむね同じ考えだよ。ユラちゃん」

「おや、少し違いましたか?」

「いやいや、この考えはあってると思うし、そもそも私は答えを知らないさ。だがそうだね、それならこの五人である必要はなかった、となるだろう?」

「はい、特に我々である必要は……」

 そんなはずがない。何故君達をどういう括りで呼んだかって、馬鹿でもわかる。

「満開世代……」

 つい、思いついたことが口からポロッと出てしまう。

「ああその通り、なぜか五人中四人が満開世代と呼ばれた天才。だよね? その一人の凛太郎ちゃん」

 満開世代、最後の一人。

 俺、凛太郎・ジン・ロベンタール。

 基礎のみだった土のギフトに、応用という新たな道を切り開いた天才。と、呼ばれている。法的には人とされている。

 天才と呼ばれるのは、嫌いだ。

 つうかこんなの、たった一文字変えるだけで転生になっちまう。

「なんの為か。ギフトに長けていて、戦闘能力のある天才が集められている」

 多種多様のシェアハウス、戦闘能力の天才集団。何かの研究をさせるには分野が違う、ギフトは個々人で違うから、分類で分けられている。

「あ、討伐? 全ての人類種の代表として、なにかの問題を解決することで、平和の象徴を確かにする。みたいな」

 平和を変わらず続けるために、男女五人でシェアハウスってのもなんだか無理矢理だよなぁ。

「ま、そんなところが妥当────」

「どうやら、説明する手間は省けたようですね」

 それは突然の事だった。知らない声がして、全員が同じくそれを見た。

 リビングにはキッチン近くに大きな机がある。五人分の椅子があって、全員が使う机だ。王様もそのために用意したのだろう。

 気づけば時間はとっくに9時15分を過ぎていた。

 その大きな机の上に、白銀のセミロングのメイドが立っていた。

「──────えっ?」

 しかも本格的、鑑賞するための衣装ではなく、着用し仕事をするための衣装。どちらも奉仕するというのは変わらないけど、ただ生地の厚みや光沢が、違うと感じた。

「王命に従い、シェアハウスの監視役を務めさせていただきます。クルミ・ミラルフルと申します。以後、お見知り置きを──────」

 クルミと名乗ったそのメイドは、無表情に、俺たちを見下ろす。

「あ、あの、説明する手間が省けたって──」

「まずは皆様。外に出られますようお願いいたします」

 まるで話を聞いていないのか、彼女はまた話を遮って、外に出るよう促した。不満こそあったが、全員、言われた通りに外へ出た。


 外は、だだっ広い草原。クルミと名乗るメイドは、何を考えて移動させたのか。

「あの、クルミさん────」

「皆様には」

 こいつっ! また遮った! なんなのこの人! ねえなんなの!?

「あのっ!」

天魔テンマを倒してもらいます」

 その言葉を聞いて、込み上げてきた怒りが、血と共に下がってしまう。勢いが止まって、その言葉を反復する。

 天魔テンマ? 天魔テンマって、それは──────

「ちょっとあんた、天魔テンマって冗談……」

 快晴。

 天気は快晴だった。

 そのはずだったのに────平原の一箇所に、大きな稲光が空から走る。所謂、晴天霹靂。ただそれだけだったら、普通の雷。

 しかし、その雷の落ちた先に、小鳥がいたのだ。

「嘘だろ……?」

「タイミングがいいですね」

 天魔の発生条件は、誰にも分からない。雷は神に嫌われた証拠であり、雷に降られた者は、稲が孕むかのように魔力が爆発的に増え続ける。

 言ってしまえば、天魔は種族を超える。種族の名称ではなく、形態や現象の名称。

 天魔は最強にして最凶。

 天魔テンマとは、神に嫌われた者だ。

「それでは、よろしくお願いします」

 雷に撃たれた小鳥──────いや、怪鳥は、その身体を変形させ、成長させる。端的に言えば、巨大化。全身に雷を纏った怪獣。大きなくちばし、禍々しく輝く四つの翼、血走った赤色の瞳、枝のようだった足は大木のようで、全てが全て成長している。

 掌に収まるその身体が、山に混じっても違和感ないほど巨大化していた。

「や、うそでしょっ?」

 その怪鳥は、叫びで空気を揺るがした。

 バサリバサリと大翼を動かし、俺達に向かって飛ぶ。

「なぁっ!?」

「皆! 下がれ!」

 その指揮に従って、ワンテンポ遅れながらも鳥から避けるように下がった。すると、こちらに突っ込んできた鳥は、そこに大きなガラスでもあるかのように身体をぶつけた。

「私のギフト、空繰からくりで防御はできる……が、倒すことはできないぞ! どうするつもりだ、クルミとやら!」

 結界系のギフトか……!

「皆様に倒してもらうつもりです」

「本気で言ってるんですか!? 相手は天魔ですよ! 天魔ッ!」

 さすがのユラさんも、冷静に俯瞰して居られない。この状況、焦っていないものなんて、そこのクルミというメイド以外に居ない。

 俺だって、正直心臓が爆発しそうだ。

「ぼ、防御は保つんですか!?」

「ああ、絶対防御だからな! しかし相手が逃げたら被害が拡散される! この中で攻撃手段のあるものは!?」

 俺は土を操る土繰どくりだから、正直、意味が無い。アイツに、立つ大地がない!

「すみませんっ、僕の能力は巻繰まくりなので、逃がさないことしか……!」

 ユラさんも風のギフトでどうにか逃がさないことしかできない……だが実力不足な訳じゃない、むしろここまでやれている事が凄い。

 相手は最悪、一つの種族を滅ぼす強さ。天魔とは異常なんだ。強さも何もかも。人類種全体、天魔に対しての知識も正直少ないだろう。

 言わば、伝説上の化物だ。

「リリフさんは!? 何かできませんか? 俺は土繰どくりなんで、何も出来ないんですけど……」

 

「いやあ……俺の禍繰練まがりくねりは快晴の外ってなにもできないんだよねぇ、影系能力だからさ……」

「…………ッ……! これはッ、持久戦になるぞ! 保てるか?!」

「ええっまあっ、一時間ほどなら……!」

 真上から吹く風の勢いで怪鳥は動けず、こちらに攻撃できない。持久戦なら天魔は弱い。

 これは、勝てる──────

「ああそうだ、言い忘れていました」

 この勝機が見えてきた状況で、

「皆様のシェアハウスが平和の象徴、討伐は団結の象徴、その予想通りです。そして、このルームシェアは──────」

 クルミさんは、懐から異世界の雰囲気をぶち壊す現代のアーティファクト、スマホを取り出して、俺達に向けた。

「世界中で、配信されます」

 ピコンとスマホ(スマートフォン)から音が鳴って、撮影が開始された。

「………………はぁ!?」

 この世界は異世界の叡智、転生者の知識と魔法を重ね合わせ、なんとかインターネットを作った。そして、その結果、水晶に魔法を回すことで、携帯型の水晶──スマートフォンを作れた。この世界の現代人もみんな持っている。

 故に、撮影はできる。配信もできる。みんなに見られる。

「それってつまり……」

 男女五人、異世界、シェアハウスの配信──────!?

「ッ……!?」

 じゃあこの状況はダメだ! 天才五人が揃って天魔倒せないと失望されるッ! 平和に希望が持てなくなる!! 俺たちだってコンビネーションができれば、天魔も倒せるだろう。しかし、如何せん初対面。

 この種族の代表同士は、コンビネーションができない。

 それイコールで、人類種はコンビネーションができない。ということになる。

「リリフっ!! ギフトの詳細を教えろ!!」

「えっ?」

「いいからっ!」

 天才が平和も続けられないと思われれば、俺の、満開世代の評価は落ちるかもしれない。

 評価が落ちれば、天才ゆえに学園に行かず人と関わらない。なんてことも出来ない。すぐに転生者とバレてしまう。

 転生者だからズルして称号を得たなんて、思われたくない。

「俺の影から触手が出るっていうギフト、影が多ければ多いほど禍繰練まがりくねりは強くなるけど、少なかったらその分少ない。今は、一本出るってくらいだから、あんな怪鳥には触手も足も出ないよ」

 無理にでもギフトを合わせて、コンビネーションで勝ちましたって風に演出しなきゃ。

「それじゃあリリフ。俺を怪鳥の上までふっ飛ばせるか!?」

「凛太郎、きみ……面白いね!」

「? はあっ?」

 曲鳴マガリナリ離譜リフの影は緑色になり、俺の近くに影が差すように動く。

「そんなこと、よゆうのよっちゃんだぜ」

「そりゃ、重畳!」

 リリフの影と俺の影がつながり、緑色になり、そこから触手が四本飛び出て、俺の腰に巻かれる。

「行くぜー!!!」

 触手とリリフが動き出す。触手がグルグルと俺を回して、リリフが前に走ることで怪鳥との距離が縮まる。

「ぐあああああああああ!!」

 目が廻る! 目が廻る! 目が廻る! しかし、このセリフは言わなければ……!

「ユラ!! シキ!! 結界と風の解除を!!」

 指示が伝わりやすいよう敬称を外して叫ぶ。それに気づいて信頼してくれたのか、空繰からくりと巻繰まくりを解除してくれる。

 そして、触手から放され、俺は空へ飛んだ。

「──────っあぁっ!?」

 飛んだのは良いものの、方向がズレて怪鳥とは真反対だ。どうなっているのかリリフを確認すると、目が回ってクラクラしている。

「くそっ! ノーコン!」

 それでもどうにかしなければ……!

「おーーい!!! ちょっと! 赤い人!! 早く穴に入って!!」

 花咲アイネの声が空に響く。その内容に従って、周りを見る。

「穴……!?」

 すると、真下に穴が生まれた。信頼するしかないと思って、俺は抵抗せず、落下しながらその穴に入る。

 生まれた穴の中に入ると、真っ暗な空間。またその真下に穴があって、そこからの景色から推測するに、繋がっているのは怪鳥の真上。本来想定されていた位置。

「空間系のギフトだったのか……!」

 俺は落ちながら、怪鳥を倒すために、とある動作をする。

 知っているだろうか、自由落下をしている時に喋ってはいけないことを。

「………………ッ!」

 それは、舌を噛んでしまうからである。

 ゴリッと、口の中で嫌な音が響いて、舌に激痛と血の味がする。鈍と鋭の合わせ技、最悪に痛い。

「いっ………………!!! ッれぇなぁああああああぁっ!!!」

 しかしそれは、一瞬で治癒される。

 髪が伸びて、背が伸びて、爪が伸びて、歯が鋭利になって、肌は白くなって。赤髪は長髪になる。

 俺は、母親が吸血種なのだ。

 そのため俺は、血を飲むことで吸血種の力を半分使える。本来の吸血種もこうして力を引き出すらしい。

 真下の穴をまた潜って、怪鳥の上に躍り出た。

 土繰どくりは空飛ぶ生物に弱い。しかし────半吸血種の形態になった俺の土繰どくりは、信じられないほどに強化される。

「伏せッ!!」

 怪鳥は、妙な穴から現れた俺に襲いかかろうとするが、急激な重圧により骨を折りながら伏せる。

 まさに、屈服の力。

 ただの土を繰るだけの力。けれど要約すれば、星の力を借りて、戦うということだ。

 解釈次第じゃ重力だって操れる。

拳骨を受け取れクソデカバードッッ!」

 普通ならば折れて使い物にならないはずだが、今の俺は半吸血種。自分の右腕に壊れる程の重力を掛け続け、身体を癒し続け、右の拳に迸る血を集め、落下しながら怪鳥の脳天に、

 その巨拳を、

 振り下ろすッ──────!


 極小の石でも、光速で落ちる隕石ならば星を揺るがす程に驚異となる。それと同じで、ただの拳でも、重力により速度を上げて、血により振り下ろす速度を上げ続ければ、怪鳥を通して地面は割れて、怪鳥を伏せさせたまま、ぶっ倒せる。

 地は揺れて、怪鳥は拳を食らってから動かず、立ち上がって向けられたスマホに一言、聞こえるように話した。

「怪鳥天魔、敗れたり」

 良い映像が撮れたみたいで、クルミはスマホを仕舞った。

「……っっ………………あぁっ」

 自分で操っている重力に潰されそうになって、やっと解除する。

「お疲れ様です。良い配信でした」

 いつの間にかクルミは俺の側まで来ていて、煽るようにそういった。

「肩貸してください……」

「いやです」

「え? なんで…………?」

「汚いです」

 少し休めば回復する程度の損傷なのだが、そもそも休ませてくれない。

「大丈夫ですかー?!」

 ユラが巻繰りを使って風に乗り、俺の元まで駆けつけてくる。

「ほら、肩貸しますよ。しんどいなら背負いましょうか?」

 ユラ、めっちゃいい奴……!

「あ、ありがとう……ユラさん」

「呼び捨てでいいですよ、。そっちの方がずっといい」

 どうなっているのか、本人ですらも分からないほど色々なことが起こっているけど。

 こうやって助け合えるなら、

「的確な指示で分かりやすかったです、あなた、吸血種になれたんですね」

 さすがに、純粋な吸血種のユラにはバレるか。

「ああ、うん。ありがとう」

 シェアハウスも上手く────

「持久戦になるという時、あなただけ希望的な表情をしていた」

「──────え?」

 いくんじゃないか、そう思っていた。

「まるで持久戦なら絶対に勝てる、そんな知識があるようだった」

 頭に入らなかった。当たり前のことを疑問に思われている。そんな感覚だった。

「天魔っていうのは未知で、現象としても再現性が低い。専門家でも魔力が爆発的に上がっている。それくらいしか分からない。何時間も顕現した天魔のデータがないので、持久戦はどうなるか分からない」

「──────あ」

 確かにそんなこと、天魔と吸血種の子供である俺にしか分からない情報だった。

 天魔になることなんて、普通ないのだから。

 俺はそれを、体で知っていた。

「あなた、何を隠してるんですか?」

 半吸血種、それだけなら法的にヒトにも吸血種にもなれる。よくあるケース。

 しかし、もしも天魔と吸血種の子供だとバレたら?

 そいつは、すぎる。

 その特殊なケースを、もしも転生によるものと思われたら?

「あなた、何者なんです?」

 俺が、転生者であることが、

 バレてしまう。

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